銀色の水平線 | ナノ
◇ ナイルとチェス 前編

「「げ」」


非常に嫌そうな声が重なった。



しばらく二人は....固まったまま互いの顔をじっと見つめていた。


「......何故貴様がここにいる」


そして...ようやくナイルが、団長室のソファから起き上がって伸びをしているシルヴィアへと問い掛ける。


「いちゃいかんのか」

寝癖を整えつつも非常に不機嫌そうな声色でシルヴィアは返した。

「俺が言っているのは団長個人の執務室で本人不在にも関わらず何故貴様が堂々と眠りこけているかだこの白髪」

「お言葉を返す様だが何故神聖なる調査兵団の公舎に貴様の様な不愉快極まりない髭が土足で踏み込んでいるのだこのうすらバァカ」

「エルヴィンに用事がある。貴様はどっかいけ」

「お断りだ。私はここの副団長だぞ?自分の城の何処にいようと自由だろうがそれすらも分からんのか相変わらず困った奴だ子供だってもう少しは成長するぞ間抜けが」

「知った事か思慮が浅い癖に独善的で性悪高慢貧乳バカ女が副団長とは調査兵団も堕ちたものだ」

「凄まじいブーメランだと言う事が分からんのかくそばかくたばれあと貧乳じゃないわ」

「12の時から成長の兆しが見られないのは気の所為か」

「気の所為だ」

「いや「これ以上喋るな口臭いから歯磨いて出直してこい」


ナイルが傍にあったガラス製の灰皿を無言でシルヴィアに向かって投げつける。シルヴィアは「あぶな」と小声で言いながらそれを受け止めた。


「生憎だが私は煙草は吸わんぞ。貴様も良い加減禁煙したまえパパ。
....ん、ああ確か最近34回目の禁煙に失敗したんだっけか相変わらず意志薄弱の弱虫泣き虫ポンコツ野郎だな出て行きたまえこの壁内から」

「貴様何故それを」

「君が嫌がる事なら何だって知ってやるさ私はナイル君がだーい好きだからなあ!?」

「それはどうもありがとう嬉し過ぎて反吐が出るぜえ!!?」


互いの胸ぐらを掴み合い、締め上げながら嫌味を交わし合う。

やがて....痺れを切らしたのかシルヴィアがナイルの額へと渾身の頭突きを一撃放った。


「.....!!!」

「小汚い手で触るんじゃない。さ、座りたまえ。茶くらい出さねば私がエルヴィンに怒られてしまう」


そう言いながら部屋の奥...給湯室へと向かうシルヴィアの、去り際に見たその横顔は何故だか楽しそうだった。


「.....勝手知ったるだな」

そう呟けば「当たり前だここは私の仮眠室でもあるからなあ」との声が遠くから返ってきて....ナイルはエルヴィンに少しの同情を抱いた。



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