銀色の水平線 | ナノ
◇ リヴァイとエルヴィンとある日の昼寝

団長室の扉をノックすると、短い返事が返ってくる。それに従って中に入れば、部屋の主の後頭部がソファの向こうに見えた。


いつまで経っても自分を迎える為にこちらを向かない様子を訝しげに思い、「おい」と声をかけると、「今動く事が出来ないんだ。悪いがこちらに回ってくれ」との返答が。


疑問を深めながら言われた通りにその方へ移動し....小さく、息を呑んだ。



「.......こいつはここで何やってるんだ」


「見ての通りだよ」



憤りにより表情筋をピクピクと震わすリヴァイに対してエルヴィンは至っていつも通り、穏やかに微笑んでいる。


その隣では....シルヴィアがこの上なく気持ち良さそうに寝息を立てながら彼の体にその身を預けていたのだった。



「今すぐ起こせ」


苛立ちのボルテージが最高潮まで達したリヴァイが低い声で言い放った。


しかしエルヴィンは苦笑しながら片手を上げてリヴァイを宥めようとする。



「落ち着け。彼女は昨日缶詰から解放されたばかりなんだ。少し寝かしてやっても良いじゃないか」


「缶詰になったのはそいつの責任だろ。」


「まあそう言ってやるな」


「.....寝るのはそいつの勝手だが場所が問題だ。団長様を枕にするとは偉くなったもんだな?」


「どうした。いやに突っかかるな。」


「.................。」



リヴァイは......少しの間黙り込んだ後、迷う事無く彼等が座るソファへと足を進める。そして辿り着くとシルヴィアの頭を振りかぶってはたいた。



「何事!?」



寝起きで状況をさっぱり理解できないシルヴィアが素頓狂な声を上げる。


その頭にはさらにもう一発兵士長様の肉厚な張り手がお見舞いされた。



「.........何だリヴァイか。」


暴漢かと思ったよ、とシルヴィアが欠伸をしながらリヴァイを見上げる...が、見上げた先の顔がとてつもなく恐ろしい形相だったので、「....おう」と小さく声を漏らす。



「........エ、エルヴィン。私は何かしてしまったのか」


「さあ....。強いて言えばお前が俺の事を枕にして眠ってしまったのが随分と気に食わないらしい。」


「まくら....!?.........それはすまなかったな、重かっただろう。起こしてくれれば良かったのに。」


「ああ、言う通りに重かったよ。明日は全身筋肉痛だな。」


「なんだとう!?」


「.........お前が言ったんじゃないか」


「自分で言うのは良いんだよ。」



........と、その時シルヴィアの腕が強い力で引っ張り上げられ、彼女の体はソファを勢い良く離れた。



「うわ」


驚きの声を上げながらリヴァイに引き摺られていくシルヴィア。



そのままリヴァイは入口近くで「邪魔したな」とだけ述べると、扉を乱暴に開け放して用事も果たさぬままに出て行ってしまった。



.......少しして.....エルヴィンはソファから身を起こし、開いたままの扉の元までゆっくりと歩む。



そしてそれを閉めると、微かな声で「少し...子供じみてしまったか」と呟いては、苦笑した。







「痛い、痛い痛い。」


いつぞやの様に無言でリヴァイに両肩を締め上げられるシルヴィア。その目尻には涙が溜まっていた。



「お前....」


彼の口からは凄む様な声が漏れる。シルヴィアは思わず肩を震わせた。



「.....一度その浮ついた性質をしつけねえとならねえな」


「しつけっ....私は犬猫じゃないんだぞ」


「うるせえ性悪の雌猫め。.....いっその事首輪でも付けるか」


「やめなさい!!君がそんなアブノーマルだとは初耳だぞ!?」



シルヴィアはぞっとした様にリヴァイの手の内から逃れて少し離れた場所に移動する。



「リヴァイ。お、落ち着くんだ。君らしくも無い。」


「.......お前が自分の立場をわきまえないからだろうが」



リヴァイはシルヴィアとの距離を一気に詰めて再び両肩を強く掴んだ。



「なあ.....、お前は誰のものなんだ」


彼女の未だに薄らと涙が浮かんでる瞳を見つめながら、押しつぶした声で問う。


今、こいつを理不尽に困らせてしまっているのは分かっていたが...どうにも、気持ちの収まりがつかなかった。



「もの....?だから私は犬猫では無いと言っているじゃないか....」


やはり.....シルヴィアは至極困惑した表情でリヴァイの事を見つめ返した。



しばらく二人は無言のまま互いの瞳の中を覗き込む。


その間、シルヴィアは何かを言おうと口を微かに開いては閉じるを何回か繰り返していた。その頬は徐々に赤く染まっていく。



「私は.......」



そしてようやくシルヴィアの口がまともに開いた。......とても小さな声だった。



「私は......君が好きなんだ.....。なんにもやましい事なんて、無い.....。」



それだけ言って、彼女は地面に視線を落としてしまう。



「今日の事は....その、君にもエルヴィンにも悪い事をしてしまった.....。ごめん。」



最後の方はもう囁き声に近かった。リヴァイはそれを聞き届けると....盛大に溜め息を、吐いた。



「お前.......こういう時に突然素直になるのやめろよ......」


言いながらシルヴィアの肩から手を離し、そのまま掌を握る。



「.......本当につけたくなるだろう。」


リヴァイの発言に対して不思議そうな表情をしたシルヴィアを、彼は少しの楽しさを含んだ表情で見上げた。



「首輪」



リヴァイの口から飛び出した言葉を耳に入れるや否やシルヴィアはその手を振りほどいて一目散に駆け出した。




「おいこら逃げんじゃねえ」

その後を凄まじい早さで追いかけるリヴァイ。やはりその顔は楽しそうであった。


「逃げるに決まっているだろうが!!私を縛る首輪は兵団の副長という立場のみで結構だ!!!」


「その首輪もゆるっゆるじゃねえか。俺が今度こそきっちりと物理的な首輪をお前に繋いでやるよ。喜べ。」


「なんだこのドS野郎は!!」


「そんなドS野郎を好きなのはどこのどいつだよ」


「知るか君なんか嫌いだ嫌い!」


「..................。」


(まずいスピードが上がった)



物凄いスピードで追いかけっこをする兵長と副長を眺めながら....調査兵団の兵士たちは今日も平和だなあ...と実にのどかな気持ちになるのだった。



レイン様のリクエストより
リヴァイvsエルヴィンで書かせて頂きました。



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