◇ リヴァイと灰桜 跋編
「リヴァイ」
静かな声で名前を呼ばれる。
.....予感はしていた。だから、窓を開けておいた。
必ず、お前の方から来るだろうと。
シルヴィアは桟に腰掛けながら「鍵の閉め忘れなんて不用心だぞ」と言う。
「....わざとだ。」
振り返らずに応えると、「そうか...」と小さく返された。
「リヴァイ」
もう一度名前を呼ばれる。高くも低くも無い声が、ひどく心地良い。
「今夜は...君を誘いに来たんだ」
.....微笑っているのが分かった。....ひどい顔だ。なんて様だよ。
「.....どこにだ。」
少しだけ首を動かし、横目で奴を見る。
....逆光で顔はよく見えない。その向こう...巨大な三日月が限界まで弓を引いていた。
「桜を、見に行こう。」
ゆっくりと紡がれた言葉に、静かに頷いた。
その時、俺は漠然とした確信を持った。
......終わるのだ。
生まれて来てから最も強く苦しい片恋が、ようやく終わるのだ。
だが....どんな結果でも、俺の想いは決して変わらない。
諦める等、選択肢には無いのだ。
彼女を想い続けたこの数年が...辛くとも、自分にとって掛け替えの無いものだった。
それを捨てる等...既に不可能となっている。
そして、お前の想いも変わらない筈だろう?
....なあ、シルヴィア。
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