銀色の水平線 | ナノ
◇ ナイルと河の街 おまけ編

「シルヴィアちゃーん!お風呂行くよー」


とある夕刻、食堂でナイルとボードゲームをしていたシルヴィアへと声がかけられる。

…………。シルヴィア ちゃん というなんとも似合わない呼び方に対して、ナイルは思わず吹き出した。


「ああ…うん、分かったよ。今行く。」


シルヴィアはナイルの痩せた頬にビショップの尖った頭をぐりぐりと押し付けて遺憾の意を示しつつも、それに応えて立ち上がった。


「というわけでまた今度ね、ナイル君。」

「待て、勝負はどうなる。」

「………一応、三戦内二勝一敗した私の勝ちで良かろう。良い加減君の粘着質な手の相手も疲れるわ」

「待て待て、勝負が三戦なんて誰が言った。五戦が普通だろうが」

「そんなん知るか」


シルヴィアはビショップをボードの脇に置いてさっさと立ち去ってしまう。

彼女の背筋正しい背中へと、待てこの野郎と雑言をいくつか浴びせれば、振り向いては「いやなこったね」と嫌らしい表情で笑われる。


「またやってたの、ほんとシルヴィアちゃんはナイルと仲良いんだから」

「非常に不本意なので発言を取り消したまえ、な。」

「はいはい、分かったから早くしてよ。私お風呂は一番が好きなんだから。」


半ば引き摺られるようにしてシルヴィアは食堂を後にした。

………彼女たちの姿がすっかり見えなくなった後、ナイルは舌打ちをひとつ。「勝ち逃げしてんじゃねえよ」と不満げな声を漏らした。


(でも……まあ。)


机の上に散らかっていた駒を最初の位置に戻し、ナイルは脇に置いてあった本を自分の方へと引き寄せる。

シルヴィアのものだ。……遂最近例の本屋へ一緒に行ったときに購入した、新しい書籍である。


(風呂は……普通の時間に入れるようになったんだな。)


頁をぱらぱらと捲って中身を確かめると、年若い少年に焦がれる成人女性の物語だということが分かった。

…………なんともまた、似合わずロマンチックなものを。

二人の恋路がどうなるのか少々気にはなったが、中程まで流し読んでは本を閉じてしまう。なんとなく。


(奴は。良い方向へと……変わってはいるんだが。)


頬杖をついて、現在は空となっている向かいの席を眺める。それから、待った。

シルヴィアが入浴を済ますのを。日付を超えるまでにどうにかしてもう一勝してやろうと考えながら。


(だが……依然としてシルヴィアは…誰の事も愛そうとはしないらしい……、………うん。)


ゆっくりと瞼を下ろせば、耳の裏でどこからか流水の音がした。

訓練兵たちの入浴音がここまで聞こえてくるのか。それともこの付近にも河は流れてくるのか。ずっと遠くへと続く、あの河が。



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