銀色の水平線 | ナノ
◇ リヴァイの誕生日、門、冬の花火 結編

「申し訳ない…」


シルヴィアはリヴァイの腕から下ろされたベッドに横たわったままで苦笑する。


「まさかこれ位で足腰立たなくなるとはな…ほんとにお前は仕様の無えババアだよ。」

「立たなくもなるさ…。驚いてしまったもの。」


それを見下ろす彼に向かって掌が伸ばされた。意を汲んで繋いでやる。


「今日は泊まっていくかい。」


繋がった手の先、自らが呈した銀色の指輪を眺めながらシルヴィアが全く自然に持ちかけた。

思わずリヴァイは吹き出しそうになる。


「………お前の部屋は余計なものが多過ぎて寝る場所がねえだろ。」


そう言えば、一緒に寝れば良いさとこれもまた事も無げに応対された。

段々にリヴァイは苛立ってくる。こいつは自分が何を言っているか分かっているのだろうか。


「それに私は君と一緒にいたい……。今はすごく、そういう気分だ。」


しかし淡い微笑と共に呟かれた言葉には、何とも抗い難い力が宿っていた。


盛大に眉をひそめてこめかみを揉む。


もうどうにでもなってしまえ、と小さく言えばシルヴィアは殊更嬉しそうに目を細めた。







どの位経っただろうか。


幾枚か重ねた毛布の内でふうとシルヴィアは目を覚ました。



(……………………。)



変な時間に起きてしまった。何故だろう。


視線を天井から横に逸らせば、その理由が分かった。



ひたりと二人の視線は合わさる。



…………いつから見られていたのだろう。


どうしたのかと尋ねる為に口を開きかけると、掌を握られるのを感覚した。

僅かに固い金属が触る。いつものように握り返してやった。相変わらず彼の体温は高い。


………いや。自分の体温が低過ぎるのか。



束の間そうやってじっとしていると、リヴァイが半身を少しばかり…ゆっくり起こす。

見守っていると、空いている方の彼の手がシルヴィアの顔にかかる銀色の髪をそっと避けた。

そうして彼女の顔の横、すぐ傍のシーツにそのまま掌をついて皺を作る。


起き上がっていたその半身がやがて再びベッドに沈んできた。

しかし今度はシルヴィアを覆う様な形になる。ぱさりと彼の黒い髪が重力に従って降りてきた。それが頬に触れたので、何だかこそばゆい。



思わず彼女は身を強張らせる。


まったく、一夜にして色々と起り過ぎだ。


全て自分の所為ではあるのだが。所謂自業自得だろう。これまでのこともこれからもことも。


だから彼が望むものは全てやるつもりであったし、気持ちには全力で応えるつもりでいる。


怖くは無いかと聞かれたら嘘になるかもしれないが、覚悟は出来ていた。



だが、しかし。



「リヴァイ。」


ようやく出来た合間に途切れ途切れになりながらシルヴィアは彼の名を呼んだ。

聞き届けられない。いつの間にか抵抗が出来ないように色々な箇所が捕まえられてしまっていた。


「リヴァイ…!」


だが辛抱強く名前を呼べば、ようやく耳を傾けてもらえる。

シルヴィアは合わさっていた掌を解くように促した。中々従ってもらえなかったが、やがて力は緩められる。

自由になった手で、彼女はすぐ近くにあった彼の両頬を包んだ。そして今一度合わさっていた眼の中を覗き込む。


黒く澄んだ瞳の中には確かに自身がいた。無性に安心して笑みを零してしまう。



「リヴァイ。焦らなくても、大丈夫だ……。」


そうして説く様に言えば、彼は数回瞬きをした。昨夜門について語ったときと同じく訳が分からないという表情をしている。


「こういうものは急くものじゃない。心配しなくても…私は今までもこれからもずっと君だけを好きだから……」


ゆっくりゆっくり、自分の嘘で塗り固めていた内側が届けば良いと思いながら伝える。


「門は動かないものだからね…いつだってここにいる。」


なあ。そうだろう…と付け加えれば、どうやら彼は我に返っていくようである。

盛大な舌打ちのあとにごちんと額を頭突きされて、リヴァイはシルヴィアの身体をようやく解放した。


思わず声をあげて笑う。


拗ねた様にして逆側を向いてしまったそれの髪に触った。

細くて、でも固い毛だ。真っ直ぐで綺麗だとシルヴィアは心から思う。やんわりと優しく撫でた。


「…………触るなよ」


不機嫌そうに小さく言われたので、止した。

それから彼女はカーテンが閉まった窓の方へと寝返りを打つ。リヴァイとはまるきり背を合わす体勢となった。


暫時して、温もりが背中を包んでくる。離れるなよ、との言葉と共に。

触れるのも離れるのも、容易にはさせてくれないらしい。



背中から抱かれて、回された掌の指には自分が贈ったものがあるのだろう。それを思うと堪らない気持ちになった。

身体の向きを変えて、彼の胸の内に収まる。とても居心地が良い。これが好きなのだろう。



「リヴァイ、そろそろ夜が明けるみたいだよ……」



シルヴィアの呟きには無愛想な相槌が返された。


彼女の言葉通り、重たいカーテンの隙間からは既に透明な黄金色が漏れ始めていた。

やがてその光は注がれる様に緩やかに、けれど確実に部屋の隅々へと広がっていく。



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