◇ リヴァイの頭を撫でて撫でられる おまけ編
帰りの馬車の中で、リヴァイの向かいに座ったペトラはその隣のシルヴィアの肩にもたれてすっかり寝息を立ててしまっていた。
シルヴィアはそれを見下ろしながら、「あっはは、可愛いなあ。こんなに無防備に寝顔見せちゃって。」と軽くペトラの白い頬を抓る。
………だが、全く持って彼女が眠りから覚める気配は無かった。
「リヴァイもよく見ておいた方が良い。真面目な子だからきっと滅多に上官の前で居眠りなんかしないぞ。」
貴重な光景だ、とシルヴィアは嬉しそうに言う。
………リヴァイははしゃぐ眼前の副団長を眺めては、よくもまあこんな元気が残っているものだと思って呆れた。
それから馬車の窓からちら、と外を見る。
当たり前だがやはり月が出ていた。まるで追いかけて来た様に変わらない姿のままそこに。
「………なあリヴァイ。」
ふいにシルヴィアが彼の名を呼ぶ。その方を見ると彼女も同じように月を眺めていた。
「私は本当に良い仲間を持っているよなあ…。自分には勿体ないくらいだ。」
そして呟かれた言葉は恐らく独り言に近いのだろう。だからリヴァイはただ黙っていた。
……………シルヴィアがゆっくりと唇の端を持ち上げて、馴染み深い微笑を描く。
彼女はよく笑う女だ。
八割方は不気味で不遜な笑みだが、時々びっくりする程綺麗に笑う事がある。今の様に。
リヴァイは恐らくその笑顔が好きなのだろう。
そしてここまでシルヴィアを厭んでいながら傍から離れられずにいる理由もきっとそこにある。
ゆっくりと瞼を下ろす。
途端にリヴァイの身体にも眠気が強く襲って来た。
…………微睡みに沈み込みゆく中、遠くで穏やかに「おやすみ」と言う声が聞こえる。
リヴァイは頷いた。
ひどく安らいだ気持ちである。
先程まで眩しくて仕様が無かった月光も、優しいものに感じる程に。
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