銀色の水平線 | ナノ
◇ エルヴィンを起こす

「おはよう、エルヴィン。朝だよ……。」


そんな囁く声がして瞼を開くと、目に飛び込んで来たのは随分と見覚えのある人間だった。



「………何でお前ここにいる。」


と尋ねれば、「窓が開いてたからね。」という何でも無い返事が。



「窓は出入口ではないぞ……。」


と寝ぼけつつも応えると、「それを言うんなら団長室だって寝室じゃないよ。仕事熱心なのは良いけれど、ちょっと頑張り過ぎじゃないかな。」という最もな切り返しをされる。


「お前が頑張らないから俺が頑張ることになるんだろう……」


とぼやけば、彼女は急に耳が遠くなったようで無反応に徹してしまった。



やがてシルヴィアはエルヴィンが突っ伏していた机の傍を離れて、窓に寄る。

そしてそこを開け放っては、「うん。良い天気だなあ、」と溜め息を吐きながら言った。



「そうだ。今日は天気も良いし、どこかに遊びにいかないか。」



ひとしきり朝の爽やかな空気を堪能した彼女は、振り返ってはエルヴィンに尋ねる。


その表情は何とも楽しそうだった。

……一応彼女とてそこそこ責任のある立場にいる人間なのだが、どうにもその発言はいつも子供じみている。



「遊びにいける程暇ではないさ……。俺も、お前もな……。」



欠伸をひとつ。


シルヴィアはなんだ、つまらない奴だな、と言いながら不満げにする。


彼女との付き合いは長く、それこそ訓練兵の頃に遡るが、全く持って内面の成長が見られないのはとても困ったところだと思う。



「さてエルヴィン君、そのしょぼくれた顔を洗って来なさい。……そうしたら、一緒に紅茶を飲もう。とても良い茶葉をこの前もらったから……」



シルヴィアは誘いを断られたことに一瞬不満げにするが、すぐにいつもの……にやり、とにこりの中間のような笑顔をする。


つられて何とはなしに笑いながら、エルヴィンは軽く礼を言った。



彼女は非常に上機嫌な様子で湯を沸かしに部屋の奥の方へと消えて行く。



一人になった団長室で、エルヴィンは開け放された窓を眺める。


青い空の下、一羽の白い鳥がゆったりと横切って行った。



それをぼんやりと見つめていると……ああ、誘いを受けて今日一日くらいどこかに遊びに行っても構わなかったかもな……という、少しだけ残念な気分になる。


が、すぐに気を取り直して立ち上がって軽く伸びをした。



今日も、多忙な調査兵団の一日が始まろうとしている。



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