ベルトルトと結婚(仮)する 02 [ 84/167 ]
「で、結局お前に白羽の矢が立った訳か」
夜、男子寮のベッドに腰掛けながらライナーはベルトルトへと声をかけた。
「.......それなのに何故そんなにもしょんぼり大将なんだ」
ベルトルトはベッドに突っ伏したままぴくりとも動かなかい。
.......恋する思春期の気持ちはよー分からん、とライナーは溜め息を吐いた。
「だってさ....結婚式の礼服なんてさ....将来僕とエルダが揃って着る事になるあれだろ....?」
「(凄い自信だな...)まあ、そうなるかもな。」
「僕がそれ着てさ....全然格好良く無くて....それでエルダの事幻滅させちゃうかも....。
それでやっぱりベルトルト無いわーマジ無いわーとか思われちゃったらどうしよう....」
「幻滅されるレベルまでお前はまだ達してないだろ」
「もうやだ...何でこんな事引き受けちゃったんだろう」
「.....何なら俺が変わってやろうか」
「そんな事があったらしんでやる」
「誰も得しないから早まるな」
ベルトルトはぐねぐねと寝返りを打って壁の方を向く。ライナーはこいつマジ面倒くせえ...と溜め息を吐いた。
「......エルダは似合う似合わないとか、人の見た目なんて気にしないと思うぞ。」
「そんなの分からないよ....。......ユミルとかの方が似合うと思うし.....」
「お前...女に対して負けを認めるのか」
「.....というか僕のライバル、女しかいないし。ああ、僕も女に生まれたかった。そうしたらエルダといる時間がもっと増えるのに....」
やばい。なんか本末転倒な事言っている。
「おい...お前は男だろう。」
「そうだよ。残念な事に。」
「拗ねんな。....それなら根性見せて来いよ。自分をアピールするチャンスじゃないか。」
「......アピールした結果が良くなけりゃ最悪じゃないか....」
「うわあ、何だこのネガティブ大王は」
ライナーはなんかもう...色々とドン引きだった。
「ああもう面倒臭え!!写真撮るだけだろうが、とっとと給料貰って来て俺達に肉のひとつでも奢れ!!!」
バシリとその背中を叩いてライナーは自分のベッドへと向かう。もう付き合ってられねえ、だった。
ベルトルトは結構強い力で叩かれた背中を擦りながら、未だに重たい気持ちでいた。
.......自信が、全く無い。
そんなちゃんとした格好した事無かったから、似合うかどうかなんて見当もつかなかった。....というか、似合わないに違いない。
反対にエルダは酷く似合うだろう。......もしかして、もしかして。将来それの隣にいるのが、僕じゃなかったら。それを思うと泣きたくなった。
ほんと、ライナーの言う通り写真を撮るだけなのに、何でこんなに不安になるんだろ。
次の休みの日が来なければ良いなんて本気で思った。
それでも....時間は止まってくれず...その日は来る訳で......
*
「え....一緒には写真を撮らないの....?」
当日の朝、食堂ではベルトルトが驚いた様にしていた。
「そうなのよ。ドレスの準備が整わなかったみたいで....私は次のお休みの日になったわ。
それに今日、私自身も教官からサシャ達に座学の指導をする様に頼まれてしまったから....」
「そうなんだ....」
ベルトルトは....あれ程不安で気が重かったのに関わらず、いざ揃って礼服が着れないとなると....非常に胸が支える気持ちになってしまった。
「エルダ、そろそろ講義室に行こう?」
「いつまで待たせるんだ。さっささとしねえと勉強嫌いの芋女が逃亡するぞ」
「なっ、逃げませんよ!!」
遠くからお馴染みの三人の声がする。エルダは「はあい、ちょっと待ってね」と返事して、ベルトルトの脇を通り過ぎて行った。
ベルトルトは....石を飲み込んだ気持ちで遠くの方、楽しげに会話する四人を静観するしかない。
........こんな事引き受けなきゃ良かったと心底思った。
馬鹿みたいじゃないか.....ちょっとでも期待した自分が物凄く嫌になる。
しかし、ふと....エルダがこちらを向いて、何故だか彼の元に戻って来た。
それからベルトルトの服を引いて屈む様に促す。
何だろうと思いつつも彼女に従って少々膝を折った。
「なるべく早く終らせて、貴方の礼服姿を見に行きたいのだけれど...良いかしら?」
(え......)
耳元で囁かれた言葉に、思わず彼女の方を見る。...想像以上に顔が近かったので、焦って身を引いた。
「見られたくなかったら良いのよ、でもね....折角の貴方の晴れ姿だもの....」
.......何と言うか....母親みたいだな、とベルトルトは思った。その後に胸の中が軽くなるのを感じる。
が、少しもしないで今度は同じ場所が締め付けられる様に痛んだ。
理由はよく分からなかったが.......
「じゃあ、出来たなら後で会いましょう?今回は頼みを聞いてくれて本当にありがとう。」
彼の手をそっと握って、エルダは微笑んだ。それだけでさっきまでの辛い気持ちはあっという間にに消えて無くなってしまう。
ただ....胸の痛みだけはより強くなるばかりだった。
息を吸って、吐いて....今度こそ三人と共に食堂を後にするエルダを見送る。
どういう訳だろう。あんなにも憂鬱な頼まれ事だったのに、少しだけ楽しみな自分がいるなんて.....
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