ベルトルトと霧の中 01 [ 7/167 ]
「これは駄目ねえ。」
フードをかぶったエルダが洞穴の中に帰って来た。
「雨はそこまでひどくないけど霧が出て来てしまったよ。しばらくここから動かない方がいいね。」
(はぁ、なんでこんな事に...)
ベルトルトは深い溜め息をついた。
今回の訓練は山中で行われている。
ようやく麓に降りれば無事訓練終了となる所まで来たが、突然の濃霧発生により足止めを食らってしまった。
(しかも...)
ちらりとエルダの方を見る。
最近アニがめずらしく懐いてる女性だ。
アニが他人に気を許す事は滅多に無い。一体どのような方法で取り入ったのだろうか。
正直、あまり話したことのない彼女とこの空間でしばらく過ごさくてはならないのは気まずかった。
まったく、運が悪いなぁ...
「でも運が良かったわ」
「え?」
「この感じだと霧は山を少しずつ降りているみたいね。数時間したら晴れる前兆よ。
運良く洞穴が発見できたのもとてもラッキーだったわ。それに貴男がいるからこの濃霧の中でも心細くない。」
エルダは長身のベルトルトを見上げて笑った。
薄緑の瞳がベルトルトの黒い瞳とぶつかる。山の奥深くを移し込んだ様な色だ。
ふと、懐かしい山奥にいる様な感覚が頭をよぎっていった。
(そうか、アニもこの目に...)
*
しばらくエルダとベルトルトは無言で洞穴の壁にもたれて座っていた。
居心地の悪そうなベルトルトに対してエルダは何やら機嫌が良さそうだ。
「...雨が、好きなの?」
ベルトルトがぽつりと尋ねた。
「え?」
「いや、何だか楽しそうだったから...」
「ええ、結構好きよ。と言っても晴れの日も曇りの日もそれぞれの良さがあっていいと思うけれど...。」
あぁ、でも雷は勘弁して欲しいわね。
そう言って彼女は少し恥ずかしそうに笑った。
要するに雷の日以外365日嫌いな天気が無いのだ。なんともポジティブである。
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