ベルトルトと結婚(仮)する 01 [ 83/167 ]
びくん....とベルトルトの肩が震えた。
......草原の中、誰かが倒れている。
どうしたものだろうか。......まあ、勿論助けた方が良いだろう。
恐る恐る近付いてみると、その人物の顔が茂る青葉の中見えてくる。
(え......)
安らかに目が閉じられた顔を確認した途端、またしても肩が震えた。
(え.......?)
足の方から悪寒が這い上がってくる。
........え、どうしよう........!?彼女に一体何が!?
歩みを一気に早くし、傍まで駆け寄った。けれど全く起き上がる気配が無い。
「エルダ....!!」
その半身を起こし、大きな声で名前を呼ぶ。......今度は彼女の肩がびくんと震え、「うわあ」という間抜けな声が口から漏れた。
.......ぱっちりと開かれたエルダの目とベルトルトの目がぴたりと合わさる。
エルダは瞬きを数回してからほう、と気が抜けた様な溜め息を吐いた。
「.......どうしたの?」
至って何事も無くそう尋ねるエルダに、ベルトルトは全身の力が無くなる感覚に襲われる。
「いや....倒れてるのかと思って.....」
自分がエルダの体を抱きすくめていた事に気付いた彼は、顔に集まる熱を悟られない様にしながらその手をそっと離した。
「驚かしてごめんなさいね。私は元気よ」
彼女はにこやかに告げてから伸びをひとつする。とても気持ち良さそうな仕草に、ベルトルトの胸中も穏やかになった。
「ここで何してたの」
そして隣に腰掛けながら尋ねる。エルダは拳ひとつ分程彼の方へと体を寄せた。....それが、凄く嬉しかった。
「.....何にもしていなかったわ」
彼女は足を伸ばし、のんびりとした所作で空を見上げる。とても良い天気だった。
「じゃあ何で倒れてたの?」
対照的にベルトルトは膝を抱える様にしながら質問を重ねる。
「うーん、ええと.....」
エルダは少々恥ずかしそうにしながら視線を地面へと落とした。
「......気持ち良さそうだったから?」
首を傾げながら小さな声で彼女は言う。照れ臭そうにするのがひどく可愛くて、ベルトルトの顔にまたしても熱が集まって来た。
(あ.....)
ふと、彼の目がエルダの頭髪に留まる。
そっとそこに触れると、エルダが不思議そうにこちらを向いた。折角なので少し長く触れる。くすぐったいらしく、彼女は微かに目を細めた。
「葉っぱ、ついてたよ」
一枚の青葉を見せてあげながら言えば、エルダはより恥ずかしそうに頬を染める。
「.....嫌だわ。見られたのが貴方だけで良かった....」
「うん....。僕だけだから、安心して」
「.......ええ。」
優しい風が二人の間を通り抜けた。ぽつぽつと会話を交わしながらの、ゆっくりとした時間が流れて行く。
...........幸せな時間だった。
「そうだ、ベルトルト。」
「......うん?」
「お願いがあるのだけれど。」
「うん。」
「私と結婚してくれないかしら。」
「うん!?」
遠くの深緑の森を眺めていたベルトルトは物凄い勢いでエルダへと視線を移す。
は、え......?なに、どういう....いや、四月一日では無いよな、今日は、ああ.....????
パニックに陥るベルトルトに比例してエルダは変わらず穏やかに笑っていた。それが増々彼を混乱させる。
「あら、嫌なら良いのよ。悪かったわね。」
いやいや、嫌じゃない嫌な訳ない。けどちょっと段階すっ飛ばし過ぎだろ
「そうねえ...じゃあライナーにお願いする事にしようかしら」
はい!?軽い、軽過ぎるだろ君!!というか、ライナっ.....あり得ない。そんな事があったらしぬ。
「とは言っても貴方もライナーも礼服のサイズが無さそうね....仕様が無いから、むしろユミルとかにお願いした方が良いのかしら」
今度は女かい!!君はいつからそんな人間になったんだ!!頼むから帰って来て、僕らのエルダよ、帰って来て!!
「結婚する相手となって何故私の名前が出ないんだ」
うわあ.....出た.......。厄介村の厄介さんが出たあ.....。
「私からしたらあんたの方が厄介さんだよ、この変な前髪」
「ナチュラルに心読まないでよ。あと君だって大概だろ目にかかってる髪早く切りなよへぶう」
ベルトルトにアニの重たい蹴りが入った。
「........?おいお前等、こんな所で集まって何やってるんだ。暇なら抜けた床板の修理を手伝ってへぶう」
何も知らずにやってきたライナーはアニによって可哀想な事になった。
「で、何で私と結婚してくれないの.....」
彼女がエルダの肩を強く掴みながら、鋭い形をした眼を見開いて尋ねる。やばい、マジだ、とベルトルトは顔を青くした。
「そうねえ...勿論貴方も素敵なんだけど、身長が私より低い人は駄目って言われてるのよ」
「誰に。」
「式場の人よ」
「そいつは神にでもなったつもりか」
「まあアニ、怖い顔しちゃ駄目よ。折角可愛いんだから笑わないと「私は元からこんな顔だ!!」「あらら、ごめんなさい」
アニの剣幕にエルダは思わず謝る。
「.....困ったわねえ.....。礼服を着て写真を撮るだけなのに、相手を探すのがこんなにも難しいなんて.....」
そして溜め息と共に吐き出された言葉に、アニとベルトルトは静止した。
「この前街に遊びに行った時に式場の方にお願いされたのよ。
広告になるのは少し恥ずかしいけれどお給料が出るから、それで何か美味しいものでも皆で食べましょう?」
ああー......成る程なあー.....。まあそうだよなー.......
二人はへなりと地面に手をついてその場にしゃがみ込んだ。
エルダは「まあ、具合でも悪いの?」大変だわ、と周りの気持ち等露知らず焦っている。
しばらくエルダ以外....アニ、ベルトルト、ライナーは地面からぴくりとも動けなかった。
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