続・同郷トリオと一緒 03 [ 72/167 ]
「......うちの学食って正直マズいよな.....」
ユミルがサバ味噌の定食をもそもそと食べながら零した。
「食べてる最中にそんな事言わないの。作ってる人に失礼だよ?」
クリスタは豚汁を上品に、音を立てずに飲みながら返す。
「お前もそう思うだろ?」
ユミルが箸を目の前の少女へと向けた。
「いいえ、美味しいですよ!!」
彼女はとびきりの笑顔で答える。.....ユミルはまたしても気の抜けた様な溜め息を吐いた。
「安上がりで幸せな奴だ.....」
少女の頬についたうどんの切れ端を取ってやりながら零した。...すっかり彼女のペースに巻き込まれている。
「私はさあ....お前に似ている奴を、一人知ってるんだよ」
早々に食べ終えたユミルが机に頬杖をつきながら呟いた。
じゃれ合いながらのんびりと食事を摂っていたクリスタと少女がユミルの方を向く。
「似ている...?私と同じ位の年ですか?」
食べる手を止めて少女が尋ねた。
「いや違う...そうだな、あれはむしろ年寄りに近い....」
「???」
「まあ年齢はさておき....何処が似ていると名言はしにくいが似ているんだよ....くそ」
「そうですか....」
「あいつもなあ、こっちがいくら嫌っても嬉しそうに寄ってくるし...どんな我が儘や嫌がらせも楽しんで受け入れて......マゾかよって位だ」
ユミルは不思議そうに自分を見つめる少女の額を軽く叩いた。
「理由なくムカつく所もそっくりだな...。」
少女は...叩かれた箇所に触れてから、考え込む様な素振りをする。.......少しして、ゆっくりと口を開いた。
「きっとその人は、大きいお姉さんの事...とっても好きなんだと思います」
「はあ?」
予想外の言葉に、ユミルの口から欺瞞たっぷりな声が出た。
「私、今日...お姉さんと仲良くなりたいと思いました。だから一緒にいれて...それだけでとても嬉しかったんです。」
少し恥ずかしそうにしながら言う彼女の肩を、隣に居たクリスタが優しく抱いた。
「.......きっと、その人も同じ気持ちだと思いますよ。」
ね、と目を細めるその姿に反して、ユミルは目を見張る。
似ている......いや、それ以上、同一人物........
「お姉さん!」
しかし....その思考は、少女がクリスタの腕の中から立ち上がった事によって終わりを告げる。
そのまま彼女は真っ直ぐに鼻筋の通った...碧眼の女性の元へと向かってしまった。
アニは相当驚いた様にしていたが、やがて優しく微笑って少女と目線を合わし、二言三言交わす。
周囲は、突然の子供の出現と、アニがこんなにも穏やかな表情ができる事に驚いていた。
「あの子.....アニの知り合いなの....?え....お姉さんって、妹いるの!?」
クリスタが半ば混乱しながら零す。
「知るかよ.....」
ユミルもまた驚いていた。しかしそれを外には出さずに言う。
向こうでは、少女が自分たちを指差して何かをアニに告げていた。
そうするとアニが二人をちらと見て、歩を進めてくる。
「.....うちのが世話になったね」
......いつもの鉄面皮に戻っていた。それの隣で少女が深々とお辞儀して、ありがとうございました、と言う。
「もう食べ終わったんなら食器を片しておいで。今日はもう帰れるから、一緒に戻ろう。」
「え、もう学校終わりですか?いつもより随分早いですねえ!」
「........何処かの誰かさんが家で大人しくしてくれなかったからね、仕方無いよ」
「えっだって...お姉さん、忘れ物....」
「あれは余分に刷っただけのものだよ。骨折り損ご苦労様」
「そんなあ!」
心底ショックを受けている少女が可愛いらしく、アニはその頭をよしよしと撫でる。
それで元気を盛り返したのか、少女はトレイに乗せた食器を持って、返却棚へと足取り軽く歩んで行った。
「あの.....。あの子、アニの、妹....?」
クリスタが未だ混乱から抜け出せない様な調子で尋ねる。
「違うよ」
即答。クリスタとユミルの脳内はいよいよ混乱を極めた。
「......あれは私とエルダの子供」
「「は!!??」」
ぼそりと呟かれたアニの言葉に、物凄い声が二人の口から飛び出る。
「ほら、行くよ。」
固まるユミルとクリスタを無視して、戻って来た少女に告げるアニ。
彼女は二人にもう一度お礼を言ってから、既に入口の方へと歩き出してしまったアニの元へ小走りで向かう。
アニは一旦足を止め、少しの間...それが追い付くのを待った。
「おいで」
彼女が傍まで来ると、また...優しく笑って手を差し伸べる。
.......少女はそれをきゅっと握り、二人は並んで立ち去ってしまった。
『おいで』
この一言。
私が、ユミルが、どれだけエルダを好きでも....アニが一言そう言ってしまえば、彼女はその方へと向かってしまう。
いつまで経っても....適わない気がする。
二人が一緒に住んでいると聞いたとき....私がどんなにやきもちを妬いたか分かる?
高校時代に戻れたら。あの時ならまだ、こんな気持ち知らないでいたのに。
「優しいお姉さん」
貴方の存在がそれだけで済めば、どんなに良かったか......
.....本当は、分かっている。
毎日エルダに会えるだけではもう、足りないのだ。
.......私の、傍にいて欲しい....。
つばさ様のリクエストより
『同郷トリオと一緒』シリーズで、小主人公をクリスタが見つけるで書かせて頂きました。
[
*prev] [
next#]
top