続・同郷トリオと一緒 02 [ 71/167 ]
『まるで、貴方は春の妖精みたいね』
高校への入学式の日....道に迷っていた私を案内してくれた、エルダがふと口にした台詞。
ふたつだけしか年は違わないのに...大人みたいに落ち着いていて、とても優しかった。
彼女が卒業してしまう時は本当に寂しくて...だから、同じ大学に入れる様に沢山勉強した。
願い適って私はこの春からエルダと同じ大学に通っている。
且つての様に、毎日エルダに会える。
それだけで、本当に幸せだった......。
(.......何で、子供がここに?)
クリスタは...校内案内図を必死で眺めている小さな後ろ姿に目を留め、訝しく思った。
迷い込んでしまったのだろうか.....。それとも誰かの妹....?どちらにしろ一人でいるのは不思議だ。
......とりあえず、声をかけてみる事にしよう。
「ねえ...どうしたの?お家の人は....?」
華奢な背中に優しく声をかける。散り始めていた桜の花弁が二人の間にひらりと舞い込んだ。
ゆっくりと、彼女が振り向く。そして....息を呑んだ。
憧れて止まない若緑と同じものが、自分の姿を捕えている。
それは優しく細められ、こちらをすっと見上げた。
「春の妖精さんですか?」
「え......」
自分の驚き等意に介さず、彼女は笑っている。
「.....あ....、御免なさい、あんまりに綺麗な人だから、もしかしたらって....」
それから少し恥ずかしそうにしながら言った。
.........似ている。
いや....だが、そんな筈は無い。......妹、?それも違う....。エルダは一人っ子だし....
「え、えっと....とりあえず、どうしたの?何か困っている事があったら言ってね」
気を取り直して尋ねる。そうすると、満面の笑みで「お届けものをしにきたんです!」と答えられた。
「お届けもの.....?」
「そうです、私のお姉さんに...!」
「お姉さん....?名前は?」
「えっと.....名前は....名前は確か....、」
「確か.....?」
「あれっ、いつもお姉さんとしか呼んでないから....あの、」
「え....忘れちゃったの...?」
「恥ずかしながら.....」
困った様に二人は見詰め合う。
........その時、少女のお腹がきゅうと鳴った。
可愛らしい音に....クリスタは思わず笑ってしまう。それを見て、少女もまた照れながらも笑った。
「.....丁度お昼だし、何か食べようか。お腹にものを入れたら思い出すかもしれないし....」
「あ、でも....私お金持っていないので....」
「大丈夫だよ。学食位なら奢ってあげられるから」
「わ、小さいお姉さんはお金持ちですねえ!」
「(小さい....)そんな事ないよ」
「じゃあ、とっても優しいんですね!」
「えっと、それも違うよ....」
「いいえ、優しいですよ。、ね。」
首を少し傾げて、人差し指を立てる仕草が全くあの人と同じで....少しの間、惚けてしまう。
........もしかしたら、彼女の方こそ春の妖精かもしれない。.....望みの人の姿を象って、私の前に現れてくれた....
「.....じゃあ、行こうか。」
「はいっ」
自分よりも背が低いエルダなんて新鮮だ。私の方から手を差し伸べて、それを引いてあげるのもまた初めての経験で...嬉しかった...。
*
「わあ....こんなに沢山の中から選んでいいんですかっ?」
少女が瞳を輝かせながら券売機を見つめる。
「うん。何でも好きなものを言ってね。」
「えーっと、.....どうしよう、いっぱいありすぎてよく分かんなくなりました....」
困った様にこちらを見上げる彼女が可愛くて頭を撫でてあげた。
自分はいつでも一番身長が低かったから、撫でる側に回るのは何だか不思議な感じだ。
「じゃあ普段は何をよく食べるの?その中から選んでみたら?」
そう言えば、彼女は腕を組んで再び券売機を睨み上げた。
「そうですねえ....お茶漬けとか....」
悩みに悩んでの一言。......渋い。
「あと....番茶に梅干し...美味しいですよね。」
そ、それは多分学食には無いと思う.....
「つべこべ言わずに素うどんでも食わしておけば良いんだよ」
後ろから長い腕が伸びて来て、あっという間に券売機で一番安い素うどんのボタンを押した。
「ユミル....」
後ろを振り向き、不機嫌そうにしている友人の名前を呼ぶ。
「何処に行ったかと思ったらこんな所で子守りしてやがったのか。」
ユミルはそう言いながら少女の事をじろりと見下ろした。
「何だこのガキは。とっとと家帰れ」
ユミルはしっしと言う様に手をひらひらさせてはクリスタを自分の元へ寄せる。
(.......ん?)
しかし、ぱちりとその少女と目が合った時....動きを止めざるを得なかった。
(何だ....こいつ)
似ている。あの女の顔が嫌が応にも頭を過る。
.....非常に複雑な想いを抱いてしまっている、あの....
「わ、私...まだ帰れません...!お姉さんにお届けものをしなくちゃいけないので....」
その時、少女がユミルの服の裾を掴んで訴えた。
....見れば見る程似ていやがる。だがあいつに家族はいないし....、?
「あとっ、素うどん食べてみたので、まだ帰さないで下さい!」
「.........は?」
また少女のお腹がもの悲しく鳴る。クリスタは思わず声を上げて笑ってしまった。
「ほらユミル、いつまでも睨まないの。一先ずお昼食べてからどうするか考えよう?見た所しっかりしている子だし何とかなるよ」
「はあ?って事はこいつと飯食うのか?私は御免だぞ。ガキは嫌いだ」
「ガキって私ですか?」
「他に誰がいる」
「私は大きいお姉さん好きですよ?」
「は?」
「だって私がご飯どれにしようか迷っている時に、決めてくれました。だからお姉さんが選んでくれたの、食べるの楽しみにしてるんです!」
緑色の食券をきゅっと握り、彼女は嬉しそうに言う。
「いや別に選んでやった訳じゃ....」
毒気を抜かれたユミルが呟くが、もうクリスタと少女は学食の中へと足を進めていた。
溜め息をひとつ吐き、ユミルもそれに続く。
.......こういう間抜けな所まで、あのクソ女そっくりでムカつくな......。
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