ベルトルトと外された眼鏡 02 [ 67/167 ]
その一週間後である。
......朝食時、珍しくベルトルトが一人で着席していた。
エルダを待っているという感じでもないので、その隣に座らせてもらう。
「今日、エルダは一緒じゃないのか」
声をかけるが反応する気配は無く、終始俯いてこちらを見ようともしない。
変に思って顔を覗き込むと、唇を軽く噛み、何とも複雑な表情をしている。
「おい、ベルトルト」
頭を小突きながら再び声をかけると、ようやくこちらに視線を向けた。
.....瞳の中に光が無い。
どうした。お前、ここ最近ずっとご機嫌だったじゃないか。
「あ、エルダ!おはよう」
.....自分たちがいるテーブルから随分遠くでクリスタの声がした。
その方を見ると既に着席していたエルダが、にこやかに「おはよう」とクリスタに挨拶をしている所だった。
「.....今日、エルダ....先に行っちゃったんだ....」
ぼそりとした呟きが隣から漏れる。
「いつも、出てくる時間は決まってたのにどうして...」
あー....成る程....。ほんっとガラスの10代だわこいつ。
「約束していたのか?」
「ううん。....でも、毎日一緒に来てたのに...」
「それは...エルダにも都合とかあったんじゃないのか?」
「エルダの予定はひとつ残らず把握してるからそれは無いよ...」
「ちょっと待てさらりと怖い事言うな」
「僕の事嫌いになったのかなあ...」
「それは早合点しすぎだろう。エルダにも一人になりたい時位あるんじゃないか」
「えー...僕はいつでもエルダと一緒が良いよ...」
「......。なんというかだなあ....」
そこで考え込む様に一息つき、向こうで女子たちに囲まれたきらきらとした空気の中、朝食を摂っているエルダを眺めた。
.....そしてベルトルトへ視線を戻し一言。
「お前...なんか重いんだよ」
「君にだけは言われたく無い」
「体重の事じゃないっての」
言うと思ったわ、と溜め息を吐いた。
「あのなあ....お前と違ってエルダには女子の友達がいるんだ。そいつ等と過ごす時間も彼女にとっては大事なもので......あれ」
説教を始めようと思ったら隣の巨大樹がいなくなっていた。
あー...、もうこれだからあいつは...
*
「エルダ」
朝食を早々に終えて食堂から立ち去ろうとしていたエルダは、後ろから声をかけられて立ち止まった。
....声の主は勿論、知り過ぎる程知っている人で...
「ベルトルト.....」
エルダは努めていつも通りに...穏やかに微笑って返事をする。
「今朝、どうしたの...?いつも一緒に行ってくれてたのに...」
「ご、ごめんなさい....ぼんやりしていて....」
「......それだけじゃないよ。最近、何だか僕の事..避けてるよね。」
ベルトルトはそっと手を伸ばし、逃さない様にエルダの腕を掴もうとする。
「そんなこと、「エルダ!」
徐々に暗澹とした空気が満ちて行く二人の会話は、明るく可愛らしい声によって断ち切られた。
「エルダ、今日は立体起動の実習だよ?早く行かないと遅刻しちゃう」
クリスタがベルトルトとエルダの間に入り込む様にして彼女に抱きつく。
エルダは安堵の表情を浮かべて「そうね」と頭を撫でてやった。
「まだこんな所でちんたらやってんのかよ。どんだけ歩くの遅いんだ?」
そう言いながら後ろからはユミルが首に腕を回す。
「私たちの事待っててくれたんですね!」
とサシャはクリスタごとエルダの体を抱いた。
.....見事なサンドイッチが完成した。
そしてエルダ以外の女子は一様にして目の前の長身の男性に\ざまあ/という視線を向けている。
非常に居心地の悪い思いしたベルトルトは...とりあえず、その場は立ち去る事にした。
しかし、最後に振り返った時にぱちりと視線が合わさったエルダが...すぐに、目を逸らしてしまったのを...しっかりと見届けてしまったのだった。
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