アニに包帯を巻く 03 [ 6/167 ]
「あぁ、やっぱり腫れている。よく平然と過ごせていたね。」
患部を見てエルダは言った。
「とりあえず冷やしてから固定しよう。包帯を巻かせてもらうわよ。」
水が入った袋でアニの足を冷やしながら、エルダは救急箱から包帯を取り出した。
「...それ位一人でできる。」
アニがぶっきらぼうに言った。エルダの意見に折れる形で足を診られているのが癪な様だ。
「包帯を自分で巻くのは存外難しいものよ。...一応私は医者の娘だからね...腕は保証するわ。」
そう言うと返答を待たずにアニの足に包帯を巻き始めた。
「親が医者ならなんでこんな所にいる。兵士にならなくても充分生活できるはずだけど。」
「...壁が壊された時に父は死んでしまったのよ....。...それに定住せずに旅しながら各地を往診していたから、そんなに豊かな暮らしじゃなかったわ。」
「...そう、悪かったね...。」
「気にしなくて大丈夫よ。
それに父は死んでしまったけれど私に技術と知識を与えてくれたから...。
そのお陰でこうしてアニの足を治す事もできる。それだけで充分よ。
...とても感謝しているわ。」
エルダの瞼にはまつげの影が葉や草の影のようにひろがっていた。
やはりこの目は懐かしい故郷の山に似ている。
郷愁がアニの胸にじわりと広がった。
「...私もこの格闘術は父に教えてもらった。...現実離れした理想にばかり酔いしれていて...私はそれが心底下らないと思っていた。」
エルダは黙ってアニの言葉に耳を傾けている。
「...でも...嫌いではなかった...。」
「...そう。それは素敵ね。」
エルダが淡く笑った。
いつの間にか女子寮の喧噪は消え、二人のまわりには静けさがひっそりと集まっていた。
*
先ほどの発言通り腕は確からしい。包帯が巻かれた足の痛みが大分ましになっている。
断ったにも関わらず、エルダはアニの手を引いてベットまで付き添った。
...どこまでもお人好しだ。
「今夜は足を少し高い位置に上げて寝るといいわ。明日の朝また診せてもらうね。」
「...分かった。」
「じゃあまた明日」
軽くアニの頭をポンと叩くとエルダは出口に向かった。
「エルダ」
その背中にアニが声をかける。
「?どうしたの。」
「...ありがとう」
「...どういたしまして。」
*
翌日の対人格闘術では、全快し殊更元気にエレンを蹴り飛ばすアニの姿があった。
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