ライナーに助けてもらう 04 [ 63/167 ]
.....例の男を、公開試合という形をとって無理矢理対戦させて圧勝して恥をかかせ、精神的にも肉体的にもこてんぱんにした俺は実に爽やかな心持ちだった。
やろうと思えばもっと酷い事はできるが、エルダはきっとこの件を周りに知られたくないだろうし、彼女の望むところでは無いだろう。
「.....あのさ」
上から声が振ってくる。俺の頭上から言葉をかけられる人物は非常に限られている。100%あいつだろう。
「どうした、ベルトルト」
振り向きながら尋ねる。
ベルトルトは視線がきょろきょろして定まっていなかった。話があるならこっちを向かんかい。
「....いや、なんか昼過ぎ位からエルダの姿が全く見当たらなくて...」
心配そうに言葉を紡ぐ。
こいつは最近...視界にエルダが入っていないと気が済まない病なのだ。
(........。)
「あいつなら、林の中の櫟の木の下辺りにいる。ちょっと怪我してるから様子を見て来てやれ。」
何故そんな所に...とか、そんな事を尋ねる余裕は無かったのか、『怪我』という一言を聞いた途端奴はダッシュで林に向かっていた。
うーん、青春だ。
そして俺は中々良い仕事をしたと思う。
ほら、弱っている時が落とし時というか....
それが定石ってもんだろ?
*
「エルダ!!」
櫟の木の前に転がる様に躍り出る。白詰草で花冠を作っていたエルダは「あらベルトルト」とにこやかにそれを迎えた。
そして「どうしたの?」と言いながらしゃがんで手を握って来たベルトルトの頭に花冠を乗せる。
出来に満足したのか「似合うわあ」とご機嫌だ。
しかしベルトルトはそれどころではない。手にぎゅっと力をいれてとても悲しそうな顔をする。
.....最も、頭上に乗せられた可憐な花冠の所為で緊張感ゼロなのだが。
「あ、あの、あの...今、ライナーから聞いて...」
「.......え」
その言葉が出て来た時、エルダの顔が強張った。ライナーのジャケットの前を合わせる手に、ぎゅっと力をこめる。
もしかして...ベルトルトも、私がされた事...知って...
「けが、怪我したって...!!」
「え....?」
「何処?早く治療しないと死んじゃうかもしれない!」
どうやら、本当にそれだけしか聞いてないらしい。
何となく...ライナーが自分を元気づける為にベルトルトを遣わせてくれた様な気がして、エルダは嬉しくなった。
「確かに擦り傷や引っ掻き傷はいくつかできてるけれど...大した事じゃないの。」
穏やかに笑ってそう言えば、ベルトルトの顔はさっと青ざめる。
「い、一体何に擦られて何に引っ掻かれたの...!?毒があるものだったら、それに!化膿するかもっ...ああ、とにかくエルダ、死んじゃ駄目だ、医者の不養生と諺にもよく「落ち着きなさい」
エルダはそう言ってからベルトルトに握られていない方の手で彼の黒く柔らかな毛をポンポンと撫でた。
....身長的に、彼女に頭を撫でられる事はあまり無いので...ベルトルトの胸に驚きと喜びと恥ずかしさが一気に去来する。それは仄かな朱色になって頬に表れた。
「.......うふふ」
その様子を見て、エルダは思わず小さな声を出して笑う。
......世界が皆、貴方たちみたいな人ばかりなら良いのにね....。
ベルトルトは、何処に笑いのポイントがあるのかさっぱり分からず、くすくすと笑い続ける彼女をただぽかんと見つめるのみだった。
「ベルトルト」
エルダは自分の右手を握る彼の掌に左手をゆっくりと添えて、名前を呼ぶ。
ベルトルトは思わず「は、はい」と畏まって返事をしてしまった。
「大好きよ」
そう言って淡く笑ってから、ごく自然な仕草でエルダは彼の体を抱き締める。
ベルトルトは....一瞬、何が起こっているのか分からなかった。
え、だって....エルダが、僕の事、好きって....それで、えっと、何で今...僕は彼女に抱かれているんだ...?
更にエルダは耳に口を寄せて...「貴方に会えて良かったわ」と囁く。
もう、彼は何も言葉を発せられなかった。
......多分、恋愛感情からくるものではないのだろう。それ位僕も分かっている。
でも、エルダは確かに僕の事を好きで抱き締めてくれて....会えて良かったって...そう思って....っ
遂....自分からも、体に腕を回してしまった。
だって、僕も大好きで、抱き締めたくて....会えて良かった、本当に良かったって...心から...
そのままバランスを崩して、湿った土の匂いがする地面に二人で倒れ込む。
額がこつんとぶつかってしまったのが何だか可笑しくて小さく笑い合ってしまった。
どうせ訓練はもうすぐ終わりだし、今日はこのままフケてしまおう。
そう言ったら君はきっと優しく嗜めるに違いない。だからこれは内緒だ。
一分、一秒、刹那まで...少しでも良い。二人の時間を増やしたいから。
薄緑の目が細められている。
この色が大好きだ。まるで君みたいに優しくて暖かくて、懐かしいから。
.....待っててね。
いつか、同じ言葉をあげるから。
君がまだ知らない意味を持つ、大切な言葉を....
ゼリー様のリクエストより
別の地区の訓練生と対人格闘技の合同訓練があって嫌な絡まれ方されたのをライナーが助けてくれるで書かせて頂きました。
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