光の道 | ナノ
サシャと秘密の時間 02 [ 59/167 ]

「お昼ご飯です!!!」

サシャががたりと席を立つ。一日の学園生活の中で最も楽しみにしている時間だ。


「今日もエルダさんの所行くの?」

クリスタが教科書を片しながらサシャに声をかける。

「はい!!お昼ご飯が唯一一緒にいられる時間ですから!!」

満面の笑みで答えられたので、クリスタもつられて笑ってしまった。

「エルダさんみたいな綺麗なお姉さんが幼馴染なんて羨ましいなあ」

「えへへ、そうでしょう?」

「あんなんが羨ましいねえ..」

ユミルが丸めた教科書でぱこりとサシャの頭を叩く。

「ふふん、ユミルは私に嫉妬してますね?でも残念ながらエルダの隣はあげませんよ?」

「...いや、いらねえし」

「じゃ、何で図書委員なんてしてるんですかあ?本なんか全然興味無い癖に。」

「クリスタがいるからやってんだ。あとは一番楽そうだからな。」

「委員長のエルダが目当てなんでしょう?」

「違えっての。大きけりゃ良いってもんじゃねーし。な、クリスタ」

「何で私にふるのよ!」


サシャはうきうきしながら財布を鞄の中から取り出す。

....まあ、確かに....仮に、エルダが私より小さかったとしても...やっぱり私はエルダが好きですねえ。

でも、それじゃあ抱っこしてもらった時のふかふかが無くなってしまいます...!

ああ、どうしよう...と、いう事は....


「私はエルダの体目当てなんでしょうか!?」


サシャの雄叫びにユミルとクリスタは吹き出した。遠くの方でベルトルトも吹き出した。

またしても言葉足らずである。


「いいえ、断じて違いますっ!私とエルダの愛は美しく純なるものです!どっかのノッポさんみたいにひたすらエロスを求めるものとは違います!!!」


ベルトルトはそれこそ断じて違うと否定したかったが、重度のコミュ障と心の何処かに図星を刺された事が邪魔して何も出来ずに血の涙を流すしかなかった。



自分の中で何かを納得できたサシャは再び上機嫌で教室の入口へと向かう。


今日は晴れているからいつもの屋上ですかね。とりあえずエルダを迎えに行きましょう...!


「....あ、あの」


廊下に出て足取りも軽く歩んでいると、後ろから声をかけられた。振り向くと...ああ、


「どうしました?ひたすらにエロスを求めるベルトルト「ちゃうわ」


......呼び止めたのは自分なのに関わらず、ベルトルトは中々用事を言い出してくれない。

俯いて口を開きかけては閉じるという非常にもどかしい仕草を繰り返していた。

一刻も早くエルダの元に向かいたいサシャは何だかやきもきしてしまう。

サシャの苛立ちを感じ取ったのか、彼は顔を上げてようやく言葉を発した。


「あの....もし、良かったら今日、僕も「良くありません」


しかし精一杯の頑張りはばっさりと一蹴された。

あんまりな返答にベルトルトは一瞬聞き間違いかと思った。


「いや...だから僕も一緒に「駄目です」


聞き間違えではなかった。


「エルダは私と二人でご飯を食べるんです!ベルトルトなんかに邪魔させません!指をくわえて見てやがれです!!」


それだけ言うとサシャはこの上なく楽しそうに駆けて行く。

自分が他より優位に立ってエルダの傍に居られる事が誇らしかったのだ。


ベルトルトはサシャの後ろ姿をしばらく呆然と眺めていたが、やがてしょんぼりして焼きそばパンでも買いに行くか....と購買への道を辿った。







上級生の教室に入るのはいつもちょっと緊張する。

でも....入口から除いて、エルダの姿が目に入ると嬉しくてそんな事はどうでも良くなるのだ。


(......あ)


今日も、授業から解放されて楽しげで賑やかな空気が漂う教室の...人と人の間に、エルダを発見する。

彼女の席は窓際にあるので、入口からは一番遠い。そこへと一直線に向かうサシャ。


離れていた四時間分を埋め合わす為にまずは抱きつかないと駄目ですね....!


「エルダ....っ」


しかしそれは寸での所で止まってしまう。


.....またっ!またあの人が....!


エルダ.....は、サシャには気付いていない。

しかし、あの人...アニは確かにこちらに気付いて...ちらりと見てくると、見せつける様にエルダの耳に口を寄せて何かを囁き、クスクスと笑い合う。


「なっ...」


思わず声を上げてしまう。

勿論焼きもちからくるものであるのだが...それに少しの...何だか官能的な二人の光景に見蕩れてしまった...という事実もあり...色々あってサシャはエルダにタックル紛いの抱擁をした。

「まあまあサシャ。そんなに強く抱き締められたら内蔵が飛び出ちゃうわ」「怖いですよ!?」

「.....あんたも大変だね。いつになったらその大きな子供は親離れするの?」

....アニの席はエルダの丁度一個前だ。彼女はエルダの机に艶かしい仕草で頬杖をつく。

「子供じゃありません!!私はエルダの....っ」

サシャはエルダの事を抱き締める力を強めながら、アニに向かって反論しようとした。...しかし言葉に詰まる。

「.....エルダの?」

そこに意地悪くアニが質問を重ねた。ベルトルトと違っていつも余裕なその態度がサシャは苦手だった。

「えっと....、」

.....言ってしまいたい。けれど...それは駄目。....秘密、だから...

「まあ精々ご主人と犬だね。」

.....結構的を射ている。


「あらあら。どっちが犬かしら?」

「いや確実に「私御主人様が良いです!」「まさかの逆転」

いつものペースを取り戻したエルダとサシャ。アニは能天気なやり取りに呆れるしかなかった。

「じゃあ御主人様、ご飯を食べに行きましょうか」
エルダは席から立ち上がって財布を取り出す。

「うむ。本日のご飯は何かね」

「この時間ですから購買で売れ残った賞味期限が異様に長いパンになりますよー」

「私あれ結構好きですよ!」

「御主人様は何でも美味しく食べますねえ」

「はい!四本足は机以外、二本足は親以外何でも食しますのです!」

「じゃあ私も食べられちゃいますか?」

「勿論ですよー!」

そう言って再びサシャはエルダに抱きついた。エルダもまたきゃー食べられちゃう、と言いながら抱き返す。

アニはもう呆れを通り越して感心していた。


「じゃあアニ、また後でね」

やがて満足した二人は体を離して教室の入口へと向かう。アニもひらひらと掌を振り替えすが、手を繋いで楽しそうに歩く二人を眺めていると少し胸が痛んだ。


.....そして、先程の抱き合う二人の光景の、サシャの顔を自分にすり替えてみる。


想像以上の......破壊力だった。


へなへなとしばらく机に撃沈してから、カツサンドでも買いに行くか....と自分も購買へと向かった。







「.....もう!エルダは浮気者ですよ!」

屋上にて、幸運な事に売れ残っていたいくつかのパンを買い占めたサシャがその内ひとつを飲み込む様に食べながら言う。

つくづく思うが彼女の家はエンゲル係数が凄い事になっていそうだ。

「浮気なんてしてないわよ。いつでも可愛い御主人様の事しか見えてません」

「やっぱりそうですかあ?」

エルダの言葉にサシャの機嫌はあっという間に直った。安い女である。


隣でコッペパンをもそもそ食べるエルダをサシャはちらりと見た。


エルダは....綺麗だけれど、時々凄く...胸がきゅんとする位可愛い時があります...。

その顔が、私は大好きだから....


「エルダ。一口下さい」

にこりと笑ってねだると、エルダは「もう、そっちに一杯あるでしょ。」と言いながらも穏やかな表情でジャムとマーガリンがサンドされたそれを差し出して来てくれた。

「....サシャは可愛いわねえ」

ぱくりとコッペパンを食べたサシャを眺めながらエルダがしみじみ言う。

「可愛いも良いけど、偶には綺麗って言って欲しいです...。」

サシャはちょっと不満げに答えた。勿論可愛いって言われるのもとても嬉しいのだけれど...


「綺麗な時だってあるわよ?」

エルダはサシャと自分の間に手を付いて、そっと顔を近付けて来る。

何をされるか察したサシャは目を閉じてそれを待った。


吐息を感じた後...しっとりとしたものが自分の唇を包み、やわやわと食まれる。

....エルダのキスはとっても気持ち良い。...そして、幸せな気持ちになれます...。

距離が近くて、胸が触れ合った。手も自然と絡み合う。私の方から強く握ると、包む様に返してもらえた。

エルダそのものの様な優しい仕草に胸がきゅっとなる。


これが、二人だけの秘密。誰にも内緒で、何回こういう事をしたのだろう。


.....もう....中学の頃には同じ気持ちだった。

ひとつ上のエルダが卒業してしまうのが悲しくて悲しくて...卒業式の日にずっと泣きながら胸に縋っていたら、エルダが泣かないで...と言いながらしてくれたのが始まり。

それが嬉しくて、こっちからも沢山しちゃって...一杯し過ぎて、気付いたら空は茜色になっていたのをよく覚えている。

私たちは手を繋いで帰って、別れ際にもう一度キスをした。


その時に...強く思ったんです。...絶対に、エルダと同じ高校に行こうって...


願いが適って、今私はここにいる。毎日が天国みたい....。

学年が違うから会う時間が少ない分、二人きりの時は沢山キスをしました。

この時のエルダは...小さく声を漏らしたりして、ほんとに可愛い。

その姿に、いつまで経っても慣れる事なくドキドキして...自分は本当にエルダが好きなんだなあって、幸せと共に実感せずにいられない....。


「サシャは綺麗ね」

唇を離して、乱れた呼吸を直している時に耳元で囁かれる。

柔らかな吐息に混じったその言葉に、顔に熱が更に集中した。

「.....エルダは、とっても可愛いです...」

そう言って、もう一度キスする。

エルダもまた朱色に頬を染めて照れくさそうに笑う。....可愛い。可愛い。可愛い。

愛しくて愛しくてぎゅっと抱き締めて、今度はこっちから長いキスをした。

ぴくりと体が動いて、甘い声が微かに零れる。きっと...ベルトルトは勿論、アニだってこんなに愛らしいエルダの姿は知らない。

その事実に嬉しくてたまらなくなった。


ようやく満足して体を離すと、エルダはこそばゆそうに笑っていた。


「.....ほんとに食べられちゃったわ」


その一言がまた可愛くて再び顔を近付けようとするが、「そろそろご飯の方を食べないと昼休みが終わっちゃうわよ」とおでこをつん、とつつかれてしまった。

ちょっと残念に思いながらもそれもそうだ、と思って食事を再会する。空を見上げると白い鳥がゆったりと横切って行く途中だった。


「......エルダ」

ふと名前を呼ぶ。「何かしら?」とお茶を飲みながらエルダが返した。


「大学も一緒が良いですね....」

「そうね....」


今度は飛行機が飛んでくる。ぶうん、という鈍い音が辺りに広がった。


「私、勉強頑張ります!!」


ふん、と気合いを入れると、手に持っていた紙パックの牛乳がぶしゅうと溢れ出る。

エルダはあらあら、と言いながらサシャの手に零れたそれを拭いてやった。


「そうねえ。じゃあ手始めに次の試験で全教科平均以上ね。」

「えええぇえ!!いきなりハードル高過ぎやしません!?」

「大丈夫大丈夫。今からすれば間に合うわ」

「まだ二ヶ月も前ですよ!?」

「うふふ。ひとつでも平均以下があったらすごい事するわよ?」

「すっすごいこと....?」

がんばんなさーいと言いながらエルダはコッペパンの袋を小さく結んだ。凄く楽しそうだ。


「...........。」


エルダは.....もしも、学校が違っても...二人が大学に入ったら、一緒に住もうと誘うつもりだった。

けれど、そう言ってしまえばサシャのやる気を削ぐ事になりかねないし、同じ大学である事に越した事はないから...と口を閉ざす。


「うふふ」


しかしそれは含み笑いとなって小さく零れた。

すごいこととは何だろう...と顔を青くして考えるサシャを横目で見てからエルダは空を見上げた。


....これから私たちはどんな大人になるのだろう。

サシャも、きっと...とても素敵な大人になる。

....私はそれをずっと傍で見ていたい。

離ればなれになるのだけは...嫌。


だって、愛しているのだもの。


二人でひとつずつ、大切な思い出を沢山作って...貴方の事ばかりを考える日々が続いて行くのが...私の望み。



ようやく昼食を終えた二人は屋上の扉へと向かった。

のんびりと話ながら歩いていると、エルダがサシャの顔をじっと眺めて来る。


「な、なんですか」と問えば、「またついてるわよ」と頬に触れながら言われた。


「....取ってあげる」

エルダはくすりと笑ってサシャの頬に口付ける。


不意打ちにサシャの頬は再び熱を持った。

エルダはそんなのおかまい無しに楽しそうにしている。


「.....サシャ、ずっと一緒よ」


頬から唇を離したエルダが綺麗に笑ってみせながら手を差し伸べて来た。


「......勿論です!」


サシャはその手を強く強く握り返す。


.....さあ、この...校舎の中に続く扉を開けば、私たちは『友達』を演じなくちゃいけない。

最後の儀式に軽く唇を重ね、鉄製のそれを、開けた。



昼休みは私たちの秘密の時間。

きっとこれからもずっとずっと.....


そんな、幸せ過ぎる時間.....。



晨様のリクエストより
学パロで主人公大好きなサシャとサシャにベッタベッタに甘い主人公。内緒の恋人同士。で書かせて頂きました。


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