アニに包帯を巻く 02 [ 5/167 ]
その夜、アニは女子寮のテラスでぼんやりと座っていた。
久しぶりに格闘術を使用したせいか少し足が痛む。
しかし我慢できない程ではないので、放っておいても明日には治るだろう。
そろそろ寝ようかと思っていた時、頭に何かが触れる。
「痛むんじゃないの、足。」
エルダがいつの間にか背後に立っていた。
頭に感じたのは救急箱で軽く小突かれた感触だった。
「...は?別に...というかあんた誰...」
「...共同生活を始めてしばらく経つのにそれはひどいなぁ...。」
人と極力関わりたくないアニは威圧する様にエルダを睨みつけた。しかし当の本人はあまり気にしていない様だ。
「足、見せてご覧。歩くのが少し辛そうだわ。」
エルダはアニの足に手を伸ばそうとしたが、それは振り払われてしまった。
「余計なお世話だ...人に借りを作るのも馴れ馴れしくされるのもごめんだよ。」
アニの視線は今や絶対零度の冷たさをたたえていた。きっとバナナで釘が打てる。
「別に貸しを作るつもりはないわよ...。
...じゃあこうしましょう。私は貴女を処置しないと気になって今夜眠れそうにない。私の為に治されてやってくれないかしら。」
随分と食い下がる。
これでは埒があかないと思い、ようやくアニはズボンの裾をまくった。
エルダは患部を診る為に足下にしゃがんだ。
「...なんだってここの人達は貸し借りにこだわるのかな...。大体貸しを作った所で帰ってこないのが普通なんだけどね...。」
「...何が言いたい」
「貴女は随分と義理堅い女性なんだなぁと思っただけよ。」
冷たい視線をものともせずエルダはまっすぐにアニの目を見つめた。
薄い緑の瞳は山奥の静けさを感じさせる。
ふとアニは父と故郷の事を思い出した。
...そうか...この瞳は故郷の山の色に似ている...。
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