サシャと秘密の時間 01 [ 58/167 ]
(学パロ、if恋人同士)
「.......朝ごはんのにおいがする......!」
.....決してサシャは目覚めが良い方では無い。
しかし、炊きたてのご飯の香りが微かでも匂えば思考を一気に覚醒に持って行く事ができる。
そして....ご飯の美味しそうな香りに混ざってとっても良い匂いがします...!
もう、いてもたってもいられなくなる。寝間着のままで部屋から飛び出して、階段を一気に駆け下りた。
まず最初に母親が目に入る。寝間着で髪もぼさぼさのままで降りて来た自分に呆れている様だ。
そして、そして....!食卓には....!!
「ちょっとあんたご飯食べるんなら着替えて「エルダーーーー!!!何でいるんですかあ!!」
母親の声を無視してのタックル紛いの抱擁にも動じず、味噌汁を零れない位置に避ける余裕がある所は流石というべきか。
....エルダの良い匂いが胸一杯に広がってとても幸せです....!
朝から恍惚状態のサシャに身体を締め上げられんばかりに抱かれながらエルダは笑顔で納豆を練り続ける。
そして彼女の母親に「さっき食べた卵焼きとっても美味しかったですー」と述べた。
構ってもらえない事に寂しくなったサシャはエルダに頬ずりをして自分の存在を知らせようとする。
しかしエルダは母親に「お茶のおかわりいる?」と聞かれるとまた良い笑顔で「頂きますー」と言い、更に納豆を練り続けた。
あまりに見事な流しっぷりに、遂にサシャはその白い首筋にがぶりと歯を立てた。
「噛まないの。私は朝ご飯じゃありません。」
ぺちりと頭を叩かれてしまったが、ようやく納豆を練る手を止めたエルダに満足してサシャは身体を離した。
「....何でエルダがうちで朝ご飯食べてるんですか?」
まだ少ししょぼつく目を擦りながらサシャが尋ねる。
「答えはお着替えの後でね」
つん、と頬をつつかれた。何だか嬉しくなって「今教えて下さいよお」と首に手を回してじゃれつく。
エルダも楽しんでいるらしく、「こら、駄目よ」と言いながらも小さく笑っていた。
「サシャ!!遊んでないで良い加減着替えてらっしゃい!!」
しかし幸せな時間は母親の一喝で終わりを告げる。
仕方無く、サシャは名残惜しそうにもう一度ぎゅっとエルダを抱き締めてから自室へと階段を渋々昇り始めた。
振り向くとエルダが笑顔で手を振ってくれていたので、またまた嬉しくなって階段を降りそうになるが、流石にこれ以上やると拳骨が落ちてくるかなと思い、大きく手を振替すだけに留めた。
鼻歌まじりに制服に着替える。
何でエルダがうちにいるんでしょう?凄く嬉しい。
もしかしたら遂にうちの子になってくれるのかも...!
それ、いいですね。じゃあエルダはいっこ上だしお姉ちゃん....!?
「.....エルダお姉ちゃん」
口に出すととってもこそばゆい響きだった。
そんな訳ないと分かっていても表情が綻んでしまう。
気を取り直してタイを結んでいると、ふとある考えに思い当たった。
「...あ!!!姉妹同士は結婚できないじゃないですか!!」
それ以外にも大きな障害がある事にサシャは気付いていない。
「じゃあ駄目ですね...。残念ですけどエルダは私のお姉ちゃんになれません....。」
ややしょんぼりしながら髪を梳かした。....このブラシは、この前の誕生日にエルダが買ってくれたもの。
きっとどんなに高価なブラシより私の髪を綺麗にしてくれます...。
「...よし、準備完了です!!エルダーーーー!!!」
大きな声で大好きな人の名前を呼びながら階段をもう一度降りる。
そしてさっきと同じ様に抱きつけば、会心の出来の納豆をぶちまけない様にしつつもふわりと抱き返してくれた。
「おはよう、サシャ」
今日も可愛いね、と頭を撫でてもらえたので、こっちからもエルダの方がもっと可愛い、と言いながら撫でてあげる。
「おはよう、エルダ」
こうやって沢山抱き締めてもらう度に、ただでさえ大好きだったエルダの事がもっともっと好きになってしまう。
もう今日は学校に行かずにこのまま二人でどこかに行きたい気分だ。
.......だって、学年の違う私たちは学校ではほとんどの時間離ればなれだから....
「サシャ!いつまでもエルダちゃんに抱きついてないでさっさと食べなさい!遅刻するでしょう!?」
しかし....それは許されないだろう。とんでもなく怒られるに違いない。
はあい、と返事をしてエルダの隣の席に腰を下ろす。
別に焦らなくてもご飯なら一瞬で食べる事ができるんですけど....。でも早食いは行儀が悪いって言われるし....
エルダはうきうきしながら納豆をご飯にかけている。
なんだか...さっきから納豆ばかりに興味を注いで...!サシャはちょっと納豆にヤキモチを焼いた。
「私は納豆以下なんですかあ!?」
「はい?一体何の話?」
色々と言葉足らずだった。
「.....で、なんでエルダがここにいるんですか?」
仏前に供えられる様な盛り方をされた白飯を凄い勢いで食べながらサシャが尋ねた。
エルダはにこにこと笑いながらハンカチでサシャの頬についた米粒を拭ってやるが、ひとつ拭えばまた別の所についている事に気付き、キリが無いなと理解すると同時にとても彼女が可愛らしくなって頭をよしよしと撫でてやった。
可愛さを感じるツボは人それぞれである。
「私、お父さんが出張している時はいつも朝ご飯食べていないっておば様に言ったのよ...そうしたら御馳走してもらえる事になったの」
ここのお家はほんとにご飯が美味しいわねえ、とエルダは嬉しそうに言った。
「ええ!?朝ご飯食べないなんて信じられません!そんなの不健康です。大きくなれませんよ」
サシャは既に食べ終えてお茶を飲んでいたエルダを軽く嗜める様にする、が....その視線がふと彼女の胸元に落ちた時、何だか泣きそうになった。
「.......じゃあなんでこんなに育ったんですかあ!!」
柔らかなそれを揉みながら言う。
「しっ知らないわよ!」
突然の過剰スキンスップに流石のエルダも狼狽えた。頬に微かな朱が差す。
「.....ずるいですよ」
少しいじけた様に言いながら食事を再会するサシャ。
エルダはそんな彼女に何かかける言葉はないものか...と必死に考えた。
「ほら...私とサシャは年がいっこ違うじゃない?きっと来年には貴方もこの位「そんな訳ないじゃないですか!現実とはそういうものなんです!!」「こんな時だけリアリストなのねえ」
やけになっているのか朝食を摂るスピードがアップする。
自分の倍以上もある量の食事を自分の半分以下の早さで食べ続けるサシャの気持ちの良い食べっぷりをエルダは感心した様に眺めた。
「.....あんまり見ないで下さいよ。」
少し気恥ずかしくなったらしいサシャが呟く。
「だってサシャが可愛いんだもの」
頬杖をつきながらエルダは微笑んだ。綺麗な笑顔だ。今度は逆にサシャがそれをしげしげと見つめてしまう。
「.....ありがとうございます。」
何だか照れてしまった。そしてとても嬉しかった。
「でもっ、エルダだってすごく可愛いです!」
心から思う事をそのまま言葉にする。...あ、でもエルダはどっちかと言うと綺麗..かな。
「もう、サシャの方が可愛いよ」
ようやく白飯を平らげたサシャの頬についた飯粒を思う存分拭いながらエルダが言った。
「いえいえ、エルダのが可愛いです。」
「違うよ、サシャの方がもっと可愛い」
「いいえ、エルダの方がもっともっと」
「じゃあ、二人共可愛いって事で良いのかな?」
「はい!私たちは凄く可愛いと思います!」
わーい、と言いながら抱き合うサシャとエルダ。朝から色々な意味で誰にも立ち入れない二人の世界を築いている。
台所からはサシャの母親が呆れ半分微笑ましさ半分でそれは眺めていた。
窓からは柔らかな日差しが差し込んでいる。
幼い頃から仲の良い二人の関係がこれからも幸せで近しいものであると良い...と、母親は思うのだが...
確かに、サシャとエルダの関係は幸せで近しいものだった。
.....しかし、近過ぎたのだ。
*
「エルダは食を疎かにする傾向がありますね。いけませんよ。」
学校への道を辿りながらサシャが呟いた。
「そんな事ないわよ。でもね..やっぱり一人で食べるご飯って..まずくはないけれど....」
エルダの言葉が少し小さくなる。
彼女の父親は..仕事が忙しいらしく、ほとんど家にいない。
ずっと二人で暮らして来て、とても仲が良い父子だ。.....その分、一人の時は余計寂しいのだろう。
エルダの胸の内を思うと、サシャも切なくなってしまった。
無言でぎゅうと柔らかな身体を抱き締める。
エルダは少し驚いた表情を見せるが、優しく笑ってサシャの肩をそっと抱いた。
「いつでもうちにご飯を食べに来て下さい....」
胸に顔を埋めながら言う。....暖かいしほわほわで気持ち良いな....
「あと、寂しかったら呼んで下さい。5秒で駆けつけます。」
「....5秒は無理よ」
「無理じゃありませんよ!想いは光速を越えます!」
「あらあら」
エルダは少し困った様に..けれどとても嬉しそうに笑った。
「ありがとう....。好きよ、サシャ。」
耳元でそう囁かれると、恥ずかしくて...幸せで...溜まらなくなる。
「わ、私も..私も...大好きです。」
抱き締める力を強くして想いを伝えた。それは届いた様で、エルダが微笑んだ気配を感じ取る。
......幸せだなあ。本当にこのまま二人で何処かに行ってしまおうか「道の真ん中で抱き合ってると邪魔だぞ」
サシャの至福の時間は低い声に邪魔された。
大いに不快感を覚えたサシャは声がした方向へ視線を向ける。
「あらライナーにベルトルト、おはよう」
エルダは全く動じず挨拶をした。
「ああおはよう。....お前等は相変わらず仲良いな」
「そうよ、仲良しなの」
うふふ、と笑いながらエルダはサシャの事を抱き直す。
「でも...ライナーとベルトルトだってとっても仲良しだと思うわ」
そう言って微笑んでみせれば、ライナーとベルトルトはちらとお互いを見た。
「あ、ああ....うん、そうだな....」
微妙な空気が二人の間に流れた。....お前等と同じ様に言われると誤解を生みそうだから止めて欲しい。
「おや、私とエルダの仲が羨ましいですか?」
しかしその妙な空気をサシャは勘違いした様だ。得意げな表情を二人に向ける。
(すごく羨ましい)
ライナーだけに届く程度の...非常に小さい、しかし念のこもった声が聞こえた。見なくても分かる。きっと血の涙を流している。
「すっごくあったかくてふわふわしているんですよ?知ってますか、エルダったらまた大き「こら、駄目よサシャ....!」
エルダが照れた様に頬を赤らめる。...ああ、隣からの気配が邪念に変化した。それが奴の煩悩と混ざり合って呪いを形成しつつある。
「良いでしょう?二人もしたいんでしょう?」
ま、まあ確かに...魅力的ではあるが...いや、それ以上に俺の隣がやばい。凄まじい負のオーラが集結してブラックホールを生みそうだ。通学路に宇宙への扉を開くのはやめてくれ。
「ま、待て待て。それ以上はやめてくれ」
ここは俺がなんとかしよう。こいつが人間の形を留めている間に。
サシャがえー...という納得のいかない顔を見せる。こっちは必死なんだ、イチャつくならベルトルトの視界圏外でやってくれ。
「通行の邪魔になるし...良い加減離れろ。...さもないと、えっと...さもないと、俺がベルトルトと抱き合うぞ」
「..........どうぞ。」
ライナーは上手い言葉を用意していなかった。
「そうねえ、ライナーの言う通りだわ。遅刻しちゃうし、ライナーとベルトルトが抱き合う所を見たら行きましょうか「勘弁してくれ」
エルダはじっと二人の事を見つめる。しかも微笑みながら。
((何であんな事言ったんだ))
ライナーとベルトルトの心はひとつになった。
「....あら、しないの?」
エルダが少し残念そうにする。
「じゃあ、私が変わりに抱き締めちゃいましょうか?」
エルダが手を広げてみせた。
.....ベルトルトのいない所でなら非常に嬉しいシチュエーションではあるのだが...隣の男はエルダの事となると超絶的に面倒くさくなるので....ライナーは何も出来ずに固まってしまう。
それに対してベルトルトは挙動不審になった。
嫉妬するだけ嫉妬していざその時になると尻込みしてしまうのがベルトルトのベルトルトたる所以である。
エルダは二人の胸の内等知った事ではないらしく、一歩距離を詰めると先に目が合ったベルトルトの方へと体を向けて、広げていた手をゆっくりと差し出した。
彼はもう一杯一杯であった。目をぎゅっとつぶってやがて身体に訪れる柔かな感触に覚悟する。....何故朝からこんな幸運がもしかして自分は一生分の幸せを今使い果たそうとしているのではないかそういえばサシャがエルダは大きくなったと抱き締められたらその柔らかさがきっといや僕は一体何を「冗談よ」
.....頬に、暖かい感触が。
恐る恐る目を開くと、両掌で自分の頬を包み込んでいるエルダが目に入る。
「私がベルトルトを抱き締めたらライナーに嫉妬されちゃうもの」「お前は凄まじい誤解をしている」
ライナーの突っ込みを華麗に流しつつ、さあ行きましょうとエルダはサシャの隣に戻る。
そして「タイが曲がっているわよ」と言いながらそれを直してやった。相変わらずの過保護ぶりである。
手を繋いで学校へと向かい始めた二人の後ろ姿を呆然と見送った後、ライナーは恐る恐る隣に視線を送った。
そこには耳まで朱に染めて自分の両頬を抑える友人の姿が。
「......僕はもう一生顔をあらわない....」
「にきびができるからちゃんと洗いなさい」
.....まあ、喜んでいる様で何より。
というか抱き締められていたら一生風呂に入らないつもりだったのか。
......もしも...仮に、仮に、仮に、付き合う事になったらどうなるんだ?
こいつの心臓がいくつあっても足りないんじゃないのか....
「....ほら、行くぞ」
未だに惚けているベルトルトをせっついて先を急ぐ。
.....ああ、今日もいい天気だなあ....。
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