同郷トリオと一緒 07 [ 54/167 ]
「そおい!!!」
徹夜明けの謎テンションでベルトルトは保存ボタンを押した。
.......終わった。終わった。
おめでとう...おめでとう、僕.....僕はここにいていいんだ....
.....眩しい朝日が体に沁みる様だった。とりあえず寝なくては。
確か提出時間は正午まで...。少しは休めるな。
ベッドを見ると、エルダがこちらに背を向け眠っていた。微かな寝息が聞こえてくる。
「エルダ....。僕、寝るから....ちょっと詰めて」
掠れる声でエルダの肩に触れながら言う。
彼女は少し呻いた後、「はあい....」と返事をして詰めた。
布団の中に入ると、そこはエルダの体温で随分温かくなっていた。
柔らかな心地よさの中に身を沈めると、彼女が寝返りを打って自分の胸の中にその身を寄せてくる。
ベルトルトは特に何も考えずにそれを受け止めて背中に腕をまわすと、とんとん、と軽く叩いてやった。
..........?
微睡みの中で、少々違和感を覚える。
.....触れ合っている足が異様に長い。頭の位置は同じだ。何故足がここまで届く?
更に更に言うと...これが違和感の一番の原因なのだが....
ベルトルトの意識が一気に浮上する。
.....間違いない。これは彼女が急速的に成長を遂げた......
恐る恐る目を開き、自分の傍で眠る女性を確認する。
それと同時に向こうも目を覚ましたらしく、お互いの視線は至近距離でばっちり交わった。
「.....おはよう。ベルトルト。」
そう言って淡く微笑んだエルダに対して、ベルトルトはひたすら顔面を蒼白にするしかなかった。
「おかしいわねえ...。私、自分の部屋で寝てた筈なんだけど....。」
未だに背中に腕が回ったままの状況にも特に驚いた様子は無く、むしろ自分からベルトルトの胸に体を寄せるエルダ。
「......でも、良いわね。誰かと同じベッドで寝るなんて....久しぶりよ。」
エルダがベルトルトの頬を撫でながら優しく言う。
もうベルトルトは盆と正月とクリスマスと誕生日が一遍に来た様な状態でパニックに陥っていた。
「何だか懐かしい夢を見たわ.....。
昔ね....迷子になった時、貴方たち三人に似たお兄さんとお姉さんに遊んでもらった事があるのよ.....。本当に素敵な人たちで、私...大好きだったの。」
そう言って微笑むエルダはやはり大人っぽくて綺麗な女性だ。....けれど、昨日までの可憐な少女とも確かに同一人物で.....
....やっぱり僕はいつのエルダでも...また、これから、どんな時のエルダでも愛する事ができると確信した。
「ベルトルト....今日って何曜日かしら?」
ふとエルダが尋ねてくる。
「木曜日だけど....」
「そう....!じゃあ私も貴方も午後からの日ね。どこかお昼食べに行きましょうよ!」
エルダはこの上なく楽しそうに提案した。....可愛い。
「あ、でも...僕、今日レポート提出だから...12:00に学校行かないと...。」
そう言うと分かりやすくエルダはしょんぼりした。.....超可愛い。
「だから...12:00頃に校門で待ち合わせよう。」
ベルトルトの言葉にエルダは顔を輝かせて彼の首に腕を回す。
そして....そうされると、昨日まで無かったものが確かな存在感を放って体に触れた。
困った....。と思いつつちょっと嬉しい。...いや、やっぱり恥ずかしい。
でも、エルダって...気付かなかったけれど結構子供っぽかったんだ。
割と喜怒哀楽ははっきりしてるし...隠しているだけで未だに幽霊は怖いのかも知れない。
そう思うと....無限に感じていた距離が少し近付いた気がした。
いつか...あの小さな女の子にした様な事を、君にもしてあげたい.....
「そう言えばベルトルト。よくレポート終わらせたわねえ。
あの先生の課題は大変だって、私がいる科にも噂が流れて来てるのよ?」
ベルトルトの髪の毛をやわやわと梳きながらエルダが言う。こちらを見つめる薄緑色の瞳が綺麗だ。
「うん...。まあ...何とかね。結構楽しかったし...。」
昨日の事を思い出すと自然と唇が弧を描く。
「そう...。凄いわね。課題を楽しめるなんて....」
「いやそういう意味じゃ....、まあ...うん、いいか...」
「偉いわねえ。よく頑張ったわ。」
そのまま頭を撫でられる。....子供扱いされている様でちょっと嫌だったので、こっちからも髪を梳く様に撫でてやる。
エルダは少し驚いた様にしたが、すぐに表情を柔らかくした。
「今日も、徹夜明けかしら...?」
いつもならあり得ない距離なのに、何故か緊張はしない。....それが、当然の様な気持ちがした。
「....うん。」
「駄目よ...。いつも溜め込んで提出前に苦しんでいるじゃない。」
「まあ...うん。反省は...してます。」
「うふふ...お疲れ様。」
額をこつりと合わされると、エルダはその身をゆっくりと起こした。
ベルトルトは非常に残念な気持ちになりながらも引き止める術を持たず、黙って腕の中の温もりが去って行くのを感じていた。
「時間になったら起こしてあげるからゆっくりおやすみなさい。」
穏やかにそう言って床に足をつけたエルダだが、体に感じる違和感にふと眉をひそめた。
ベルトルトもまた布団の中からそれを見る。....同時に気を失いそうになった。
「......何だか私、凄い格好してるわねえ....」
そう言った瞬間、エルダの胸元のボタンが二つ弾けとんだ。
.....そう。小エルダはワンピース型の寝間着を着ていた為、今のエルダにとっては超ミニスカートの丈になっている。
更に急速なる成長を遂げた胸元によってボタンは悲鳴を上げていた。
「おい、ベルトルト。お前の風呂が長過ぎる所為でガス代がおふう」
ノックもそこそこに入って来たライナーがその状況を目の当たりにして目を白黒させる。
「.....エルダ!ヤバいよ!その格好はヤバいって!!服着て、服!!」
ベルトルトも凄まじい慌てぶりでベッドから飛び出して来た。
「服なら着てるわよ?ちょっときついわねえ。あらまたボタンが....」
「ベ、ベルトルト...わ、悪いとは言わんがこういう事はもう少し段階を踏んで....」
「君は天文学的に阿呆な勘違いをしている!!」
「わ、分かった分かった。とりあえず今夜は赤飯だな」
「何がとりあえずだ!!」
「あらお赤飯?大好物よ。ごま塩はあったかしら、あれが無いと駄目よねえ」
「おいこら原因!!」
「いやっ...待て待て。とりあえずエルダの格好をどうにかしないと...ヤバい、非常にヤバい予感がする」
「あんたにしちゃ冴えてるね」
「うわあ出た!!」
「おはようございます!!死ね!!」
毎度お馴染みのふたつの巨体が宙を舞う姿を、エルダは「あらあら、凄いわねえ」と呑気に眺めた。
「.....ライナー....本当に恐ろしいのは霊なんかより生きている人間だね.....」
「なんともオチに有りがちなセリフだな.....」
そのままがくりと気絶した二人が転がる部屋には優しい朝日が差し込み、今日も良い天気になる事を予感させていた。
ノーラ様のリクエストより
現パロで幼児ヒロインを取り合って3人が小喧嘩する話を連作で書かせて頂きました。
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