光の道 | ナノ
エレンと勝負の行方 04 [ 146/167 ]

「…………だから。なんでオレがお前と。」

「それはもう運めっ」


エレンは素早くエルダの口を掌で塞いだ。

………本日は、再び対人格闘の訓練。そしてエレンの相手は前回と同じ。頭を抱えてしまいたい気分である。


「ああー…お前の相手はやりにくいから嫌なんだよ」

「エレンはアニと言い女の子に弱いのねえ。紳士なのよきっと」

「うるせーだまれ」


エレンは木刀を握り直してはかぶりを緩く振った。

まあ……最悪な相手であることは確かだが、これは以前受けた恥をそそぐ良い機会でもある。

気を取り直して、エルダの方を見た。穏やかに笑い返される。緊張感ゼロの表情にやる気を削がれそうになった。


「とりあえず……またならず者はオレからで良いか」

「はいどうぞ。優しくしてね。」

「だから襲ってくる奴が優しくしてくれる訳ねえだろうがよ」

「それは一理あるわあ」


…………会話をすればするほど苛立たせられるのはいつものことである。

だが、奴の避け方の手口はもう大体分かった。自身の動線を読んで躱されるのが分かっていれば手の打ちようがある。



(あいつがオレの動きを予測して行動するのであれば…更にその先を読んで攻撃すれば)


間合いを開け、エルダを標的として鋭く認めた。やはり、どこからどう見ても隙だらけである。

今だ、と思ってエレンは駆け出した。生来の負けず嫌いも相まってかなりのスピードが出ていたと思う。



「えっ」

「えっ?」


しかし、エルダの元へと至る直前にその速さは急ストップする。

……これには彼女も驚いたように声を上げた。


「うおお!?ちょっ」

「あら大変」


原因は凄い勢いで前につんのめりながら理解した。……早い話が、何かにつまずいたらしい。

しかしそれが分かったからと言って何になる訳でもなく、エレンは派手に転ぶ。

……鈍く大きな音が周囲に響いた。


衝撃に備えて体を固くして目を瞑っていたが、想像したよりも全身を打った地面は柔らかくダメージは少なかった。


(あれ………痛くない?)


あれだけ盛大に転べば、てっきり怪我は免れないと思っていたのだが。

恐る恐る目を開けて周囲を見回せば、一様に青ざめた顔をした面々と目が合う。


………心配してもらえているのだろうか。いや、それにしては様子がおかしい……?


「エレン、怪我は無かった?」

「うっわ」


予想していない場所……自身の下から声をかけられて、エレンは驚いてその方を見る。そしてそのまま固まった。

後、脇腹に衝撃。あまりに鋭くえげつない痛みだったので思わずうめき声を上げてしまった。


「あらアニ。いくら対人格闘の訓練中でも断り無しに蹴っ飛ばしたら駄目よ」


身体の上で情けなく踞るエレンをよしよし、と撫でながらエルダは言う。そうして「エレン、貴方また髪梳かしていないでしょう」と付け加えた。


「………別に対人格闘の訓練中じゃなくても蹴飛ばしてた」

「まあ暴力は何も生まないわよ」

「とりあえず上のそれをどかしなよ」

「エレン、動ける?」


………尋ねられるが、エレンは喋ることが出来ないほどの激痛に見舞われていた。

恐らく全く持って容赦されていなかった。つくづく蹴りが重い女である。


「それにしても……やっぱりエレンは強いわねえ」


そんなことを呟いて、エルダはあやすように彼の背中をとんと叩いた。

どうにも子供扱いされ過ぎている感じが癪に触るが、それどころでは無かったのでそのままにさせておいた。

それに……脇腹の激しい痛みを覗けばそんなに嫌な状況では無い。温かいし、良い匂いもした。


…………数秒後、二撃目の蹴りによってエレンはその場から退去を余儀なくされる。

雪辱を晴らすには至らず、結局二人の勝負の行方はうやむやとなってしまったが……

まあ、エルダとの関係はこれからもこう言うはっきりしないふうに続いていくのだろう、という妙な腑への落ち着きをエレンは感じていた。



リン様のリクエストより
エレンと対人格闘の訓練でペアになり事故で押し倒してしまい、騒ぎになる話で書かせて頂きました。


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