クリスタと朝 [ 41/167 ]
朝。微かな光が窓から差し込む。すると徐々に部屋の中の空気が軽くなっていく。
エルダはベッドの中で少し身じろいでゆっくりと瞳を開けた。
(ん......)
辺りはまだしんとしている。本日は訓練兵全員が待ちに待った休日だ。皆しばらく起きてくる事は無いだろう。
瞳だけ動かして気持ち良さそうに眠る同期たちをそっと眺め、エルダは淡く微笑んだ。
(........うん)
穏やかな寝息が聞こえるこの時間帯、一人でぼんやりと過ごしていると何とも言えず幸せな気分になる。
(誰かが一緒に居てくれる朝はやっぱり良いものね......)
今日が良い天気になる事は外から差し込む澄んだ光の調子が物語っていた。
こんな朝、散歩に出るのはきっと素晴らしい事だろう。
エルダはベッドの中からそろりと抜け出して外へと向かう事にした。
...........が、それは適わなかった。
何かによって体がベッドに縫い付けられているのだ。しかもそれは徐々に締め付ける力を増している。
(な.....何かいる....。一体何...!?)
エルダは驚いて自分の体を覆っていた毛布を捲って中を確認した。
......それと同時に安堵の溜め息が口から漏れる。
「......クリスタ。どうしたの........」
金色の旋毛に向かってエルダが声をかけると、まだ眠そうな碧眼がこちらへゆっくりと向けられた。
「エルダ.....。どこに、行くの.....。」
自分の体をしっかりと抱き締めながら舌足らずな口調でクリスタは言葉を紡ぐ。
「.....ちょっと散歩に行こうと思って.....」
その頭をそっと撫でると、彼女はもぞりと体を移動させてエルダの胸に顔を埋めた。
「......もう少し一緒にいたいな.....。良いでしょう?」
甘えてくるクリスタの様子が何だか可愛らしくて無意識に口角が上がる。
「.....勿論。」
そう答えて彼女の体を抱き締め返すと嬉しそうな笑い声が小さく聞こえた。
「エルダの姿が毎朝見えないのは...散歩に行っていたからなのね....。」
「そう。どうしても朝早く起きちゃうのよね....。でも散歩もいいものよ。」
「私も一緒に行きたいな....。」
「クリスタが早く起きられたらね。....できるの?毎朝ぎりぎりまで寝てるじゃない。」
「.....できるよ。エルダの意地悪。」
「うふふ、ごめんなさい。クリスタならできるわ。
.....皆で散歩するのはきっと楽しいでしょうね....。」
「........皆?」
「最近ベルトルトが付き合ってくれるのよ。だから三人で一緒になるわね。珍しい組み合わせだわ。」
「.......エルダは最近ベルトルトと仲良くし過ぎだよ。昨日の夜もあの人の所に行ってたんでしょう?」
「ライナーに誘われてね....。風邪引きさんのお見舞いに行っていただけだわ。」
「それで今日もベルトルトの面倒を見に行っちゃうんでしょう?....折角の休日なのに....。」
彼女のエルダを抱く腕の力が強くなる。
「......えぇそのつもりだけれど...。何で貴方がそれを?」
「......エルダの考えてる事くらいすぐに分かるよ....。それにきっとライナーが貴方を誘いに来る。」
「そうかな.....?」
「そうだよ....!あの人はベルトルトの味方だから....」
「まぁ...そうよね。親友だもの。」
「.........エルダは何も分かってない......。」
そう言ったきり、クリスタは黙り込んでしまった。
エルダは苦笑を浮かべて彼女の小さな背中をよしよしと撫でる。
......そこまではいつもと同じパターンだった。
大人しく背中を撫でられたクリスタは何を思ったのか体をくるりと反転させる。
それと同時に抱き締められていたエルダの体の向きも変わった。
「............?」
エルダは状況を理解しないままクリスタと向き合う形になる。
......つまり、覆いかぶさられているというか.....正確には組み敷かれている.....?
「ク、クリスタ........?」
少し困った様に彼女に手を伸ばせばそれは白い手に絡めとられシーツに縫い付けられる。
本気で抵抗すれば何とかなる程度の力だったが、呆気にとられたエルダは何もする事ができなかった。
「......エルダは....私にこうされても全然嫌がらない....。
きっと私がベルトルトでも何とも思わずにこんな事させちゃうんでしょう...!?」
「い....いや、流石にそれは....」
「......きっとそうだよ....。
あの人があざとく悲しそうな顔して迫ったらエルダは何のためらいもなく慰めようとしちゃうんだ.....!」
「ク、クリスタ......?」
「ベルトルトはずるいんだよ....!女々しい性分を利用してエルダにいっつも甘えて....」
クリスタはエルダの掌からそっと手を離し、それを彼女の膨らみへと持って行く。
「ちょっと....クリスタ...そこは駄目だよ...。......っ。」
やんわりと柔らかな所を揉まれ、そのこそばゆさに口から微かな溜め息が出た。
「.......大きいね。いいなあ。」
クリスタから小さな呟きが零れる。
「クリスタ.....。だ、駄目だよ。やめて......」
恥ずかしさから懇願する様に彼女の目を見つめると、その瞳はとろりとしており、エルダの言葉等耳に入っていない事がよく分かった。
「.......ベルトルトにもこれ位させてるんでしょ?私だってさせてよ....」
「さ、させてないよ....!何言って.....あ、貴方寝ぼけてるでしょう!?
...........っ、だ、誰か...!起きて!起きてー!!」
「......まだ6時にもなってないんだよ?誰も起きる訳無いじゃない。
今日はベルトルトのとこになんて行かせない.....。私とずっとこうしてよう?」
........寝ぼけたこの子は何て性質が悪いのかしらっ....!?
拝啓父さん、シガンシナの巨人襲来以来これ程までに自分の身に危険が迫った事はあったでしょうか.....!!
エルダが軽い現実逃避をしていると、クリスタはとろんとした青い瞳を細めてそっと彼女へ顔を近付ける。
ぼんやりとそれを見つめていたエルダだったが、その端正な白い顔が目と鼻の先に迫った所で初めて自分が置かれた状況を理解した。
「だ、駄目....!クリスタ!!せ、せめてほっぺたで!!口は駄目だよクリスター!!」
彼女がここまで取り乱すのは非常に珍しい事だった。
それだけ今のクリスタはいつもの可愛らしい少女とは大違いで、妖しい色気までも醸していた。
しかし互いの唇が触れ合うか触れ合わないかの所でクリスタの体はぐいと何者かに後ろに引かれる。
「............?」
覚悟を決めて目を瞑っていたエルダは恐る恐る瞳を開けた。
目の前には端正な金髪碧眼の美少女が二人並んでいる。双方共何とも言えぬ怖い顔で互いを睨み合っていた。
「........朝から何を盛っているんだ。うるさくて迷惑極まりないんだよ、このチビ。」
「......アニだって人の事言えない位小さいじゃないっ」
エルダがその様子をぽかんと眺めていると、アニがぎろりとその鋭い視線をこちらにも向けて来る。
「あんたもあんただよ....。何無防備に他人をベッドに迎え入れてるんだ...!
あんたの貞操観念の理解は5歳児以下だね。」
「ごっ......?」
「ふん.....このチビに迫られた位で何もできなくなる程度じゃ、本当に襲われた時どうするんだ」
そう呟きながらアニがエルダのベッドに足をかけて登って来る。
そして抵抗する暇も許さない位鮮やかな手付きで彼女の上にのしかかった。
足と足の間を割って自分の体を滑り込ませ、手首を掴んで再びエルダの体をベッドに縫い付ける。
その力は先程のクリスタとは比べ物にならない程強く、痛い位だった。後ろでクリスタの息を飲む声が聞こえる。
「.......これ以上あんたが他人に簡単に自分を許さない様、私が襲われた時の恐怖を刻み込んでやる.....!」
彼女の瞳はぎらりと妖しく光り、その表情は恍惚としていた。
「ア、アニ......貴方も相当寝ぼけてるわね.....」
「アニ!!駄目だよ......!!ずるいよ.....」
「クリスタ、助け....って何故貴方もベッドに入ってくるの」
「......この前酔った時は潰れて最後まではいけなかったけれど....今日は容赦しない」
「ちょっとちょっと。駄目だからね...っ。二人共顔を洗ってらっしゃいな。
ちょっと........!何処触ってるの.....。だから駄目だってば....!!誰かー!!」
早朝から騒がしい彼女たちに痺れを切らせたユミルに一発ずつ拳骨を食らい、部屋から三人揃って追い出されるまで後数分......
アニアニ様のリクエストより
寝ぼけて迫って来るクリスタで書かせて頂きました。
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