同郷トリオと一緒 01 [ 48/167 ]
(現パロ、大学生、同居設定、主人公幼児化)
「................。」
朝、目が覚めたら顔面直近に足の裏があった。最悪の目覚めだ。
.....確か昨日、週末という事もあって四人で飲んで....それから寝落ちしてしまったらしい。
せめてエルダの足であれば救いようが....いや、それはご褒美の類か?
とりあえず苛立ちが収まらないアニはその足の持ち主....ライナーの脇腹を思い切り蹴り上げた。
「おふっ」
という訳の分からない悲鳴が彼の口から漏れる。
まだぼんやりする頭で辺りを見回すと、ベルトルトは相変わらず凄い体勢で眠っていた。間接どうなってんだ、あれ。
(.........ん)
........何故か、もう一人の同居人が見当たらない。このむさ苦しい空間でただ一人の癒しと言える彼女が...
(..........ん?)
.......おかしい。彼女の服だけがぱさりと床に落ちている。何故服だけ....?.....と、言う事は今エルダは.....!!??
様々な想像もとい妄想がアニの頭を駆け抜けて行く。
訳が分からない、何故服だけここで脱ぐ必要が?もしやこの二人のどちらかが脱がしたとかいやベルトルトはあり得ない奴の度胸はミトコンドリア以下の大きさしかないと言う事はライナーお前か
「死ね!!!」
「何故寝起き早々死ななくちゃならないんだ理不尽過ぎる!!!」
......その時、エルダの服の山がもぞりと動いた。
つかみ合っていたライナーとアニはどきりとしてその方へ目を向ける。
見間違いかと思ったが、確かにその服はごそごそと動いていた。二人の脳内が混乱に見舞われる。
そして服の中から白い手がそろりと出て来た。ライナーの口から「ひっ」と短い悲鳴が漏れる。
....しかし、この手...随分と小さい。そして一際大きくもぞりとそれが動くと、遂に頭が現れた。
出て来たもの、と固まっている二人はばっちり目が合う。.....お互い、目をごしごしと擦った。もう一度見る。もう一度擦る。しかし確かにそれはれっきとした実像としてそこにあった。
「あの....どちら様ですか?」
少女は二人に問う。
「いや....それはこちら様の台詞でございます。」
混乱のあまりライナーからまともな口調がログアウトした。
「おかしいですね....。私は確かに家で寝ていた筈なんですけど....」
ブカブカのシャツの袖を捲りながら少女が首をひねる。伏せられたその目は嫌と言う程見覚えのある新緑の色で...
「ね、ねえ....あんた、名前なんていうの....」
アニが恐る恐る尋ねた。だって、エルダの服の中から出て来て、髪の色も目の色も同じで...更に顔も幼くはあるが面影をありありと残している。
「エルダ。エルダです。」
少女は少し困った様に...だがにこやかに答えた。全く持って理解不能な状態にいるのに全く動じない。こういう所も彼女そっくりだ。
ライナーとアニは頭を抱えた。ベルトルトの鼾が五月蝿いのでアニは彼の鼻を洗濯鋏で挟んだ。鼾は止まった。呼吸も止まった。
「あー.....お前、年は?」
とりあえずライナーが尋ねた。恐らく10才以下...間違いなくランドセルの年だ。
「8才ですよ。」
相変わらずにこにことしながら...どこか誇らしげに答える。
「俺なんか21才だもんね「何張り合ってんの」
アニの鋭い蹴りが再びライナーの脇腹に突き刺さった。ベルトルトの顔色は腐敗した魚みたいになってきている。
「とりあえずこれがエルダだと仮定して....どうする?」
アニが呟く様に聞いて来た。
「どうするってお前....どうやら記憶も当時に戻っちまってるみたいだし....」
「大丈夫ですよ」
エルダがベルトルトの鼻をがっちりくわえこんでいる洗濯鋏をはずしてやりながら言葉を発した。
彼の口から「おばあちゃーん....」という謎の呟きが漏れる。どうやら彼岸間近だった様だ。
いや何が大丈夫なんだ、とライナーとアニが呆れた様に少女を見つめる。
「きっとお父さんが迎えに来てくれます。私はそそっかしくてよく迷子になるのですが、いつもちゃんとお父さんが見つけてくれるので....」
はにかみながらエルダは言った。その柔らかな笑顔から彼女が本当に父親を慕っているのが分かる。
「.....ねえ、エルダの父親って....」
アニが小声でライナーに話しかけた。
「ああ....。確かこいつが10才ちょいの時に事故で....それにずっと父親と二人暮らしだったみたいだしな...」
「そう.....」
アニは憂いを含んだ瞳で少女を見つめた。それからひとつ溜め息を吐く。
「じゃあ....あんたの父親が来るまでここで過ごせば良い。」
それからベルトルトの顔を心配そうに覗き込んでいた彼女に声をかけた。
その言葉にライナーとエルダが驚いた様に顔を上げる。
「そんな...見ず知らずの皆さんの家にお邪魔になるにはあまりにも....」
「....まあ、確かにそれが一番良いかもしれん...後どの口が見ず知らずというかこの」
ライナーが柔らかな少女の頬を引っ張る。予想以上にそれはよく伸びた。
「....ベルトルトにはどう説明する?」
赤くなった頬を擦っているエルダの頭をよしよしと撫でてやりながらアニがライナーに尋ねる。
「エルダの親戚の子供っていうのはどうだ「いや、エルダには親族がいない事は奴も知っている」
「私とエルダの子供というのは「何言ってるんだお前」
「それなら俺とエルダの子供という方がよっぽど「死ね!!」
「さっきからお前は暴言がストレート過ぎるんだよ!!」
「......ん?朝....?」
言い争っているうちにベルトルトがむくりと起き上がった。
(や、やばい、その小エルダを隠せ!!物凄く面倒くさい事になるという確実かつ予測絶対可能な天文学的計測結果が)
(とりあえず落ち着きな)
「あ、朝じゃない、もう昼だぞ」
ライナーが上擦った声でベルトルトに声をかける。エルダは元の服の山の中に押し込んだ。
「あー....なんか生まれ変わった気分....」
実際それに近い状態にはなっている。
「.....ん?エルダは?」
ベルトルトが首を鳴らしながら座り直した。
「......エルダ、はなあ....その...なんか、爆発四散してどっか飛んで行った...」
「嘘へったくそやなあ君」
呆れのあまりアニからまともな口調がログアウトした。
しかし、二人の必死の努力にも関わらず小エルダはいつのまにか服の山の中から這い出てちんまりとベルトルトの隣に座っていた。ライナーとアニは思わず吹き出した。
......二人はしばし見つめ合う。
「ねえライナー....何この子供」
ベルトルトはまだぼんやりとしながらライナーに尋ねた。
「.....何言ってるんだベルトルト、子供なんていない。」
「いや、いるけど....」
「いないったらいない。」
「いるったらいるよ。」
「それはお前の頭の中にのみ存在する架空の友人だ」
「僕を寂しい人みたいに言わないでよ」
「だってお前友達いないじゃん」
「そんな事言うなよおおおおお僕ら友達だろライナーああああ」
「まずい地雷を踏んだ」
「お兄さんは何てお名前ですか?」
そこで周りの混乱した状況に全く動じないエルダが朗らかにベルトルトに声をかけた。
「....ベ、ベルトルト。」
戸惑いつつも彼は自分の名前を述べる。
「そうですかあ、素敵な名前ですね。私はエルダって言います。」
「........はい?」
ベルトルトは目の前の少女を穴が空く程見つめた。髪の色、目の色、顔立ち、声.....一致する。一致し過ぎる。
それからアニとライナーに視線を向けた。二人はさっと目を逸らす。
「.......君、何才?」
ぼそりとベルトルトが尋ねる。
「8才ですよ」
またしても満面の笑みで、少し得意そうに少女は答えた。
ベルトルトは「8才かあ....ちょっとそれは...いや、でもあと8年....若しくは今、いや紫の上」とぶつぶつと不穏な思考を巡らす様に呟く。...とりあえず、大体の事情は理解した様だ。
「....ねえエルダ。」
アニが声をかけると、彼女は嬉しそうに傍に寄って来る。同性のアニの近くはやはり落ち着く様だ。
「.....あれには絶対近付かない様に。」
自分の隣に座ったエルダを抱き寄せながら言う。
彼女は腕の中にすっぽりと収まりながらアニの事を見上げた。
それから少し不安そうにしながら「大きなお兄さんは...私がここでお世話になるのが迷惑なんでしょうか」と問うた。
ライナーは溜め息を吐く。彼女は幼いながら人に気を使うタイプの様だ。
「大丈夫だ。...というか、むしろ逆だ。」
安心させる様に頭を撫でると嬉しかったらしく、優しく目を細める。
「そうですか...それじゃあしばらく、よろしくお願いしますね」
そう言って穏やかに笑う彼女は、確かに皆がよく知るエルダそのものだった。
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