アニとポッキー [ 37/167 ]
(学パロ、if恋人同士)
「アニ、待っていてくれたの。」
エルダが図書委員の集まりから教室へ帰って来た。アニの顔を確認すると嬉しそうに笑う。
「.....随分モテた様だね」
彼女の手に下げられた紙袋に視線を落としながらアニは言う。何処か含みのある言い方だ。
「そんな事ないよ。図書委員の子達に付き合いでもらっただけ。」
「......たかだか委員長の誕生日にしちゃ気合い入り過ぎじゃない....?これがただの付き合い?」
アニは紙袋の中からひとつ、淡い桃色の包装紙に包まれた箱を取り出しながら聞く。
白いリボンで飾られたそれは恐らく手作りの何かだろう。甘い匂いが微かに鼻をついた。
「まめな子なんだよ。」
「ふうん。モテる委員長さんは言う事が違うね」
「図書委員は全員女の子だよ?そんなのじゃないって」
「......あんた、何も分かってないね。それなら私たちはどうなるの」
「アニだって誕生日に可愛い後輩たちから沢山もらっていたじゃない」
「.....私は別に良いんだよ」
「皆結構本気だと思うよ?格好良くてスポーツも勉強もできるレオンハート先輩ってね」
「別に.....。そんなつもり無いし.....」
「ふふ、モテる女は言う事が違うね。」
「......。真似しないでよ」
「ごめんなさい。でもアニは男の子からは勿論、女の私から見ても魅力的だもの。
アニの事が好きな人の気持ち、私には分かるよ。」
「......やっぱりあんた、何も分かってないよ」
「ううん。分かっているよ。だって....一番貴方の事が好きなのは私だもの。」
「......馬鹿な事言わないで」
アニは鞄の中をごそりと弄り、食べかけのポッキーを取り出すとエルダに投げて渡した。
「一応あげる。おめでとう。」
「ありがとう。アニらしいプレゼントだね。」
「......何でそんなに嬉しそうなの。」
「何でかな....。でも、すごく嬉しいよ」
「....食べかけなのに?」
「そう。食べかけなのに。」
「......変な子」
「何とでも。」
そう言いながらエルダはアニが座っている机のひとつ前の席に腰を下ろす。
机を挟んで向かい合ったアニに、エルダは先程のポッキーの袋を差し出して来た。
「もう残り少ないから、二人で食べちゃおう?」
そう言いながら笑う彼女の表情は、アニが一番好きなものだった。
......エルダだって女の自分から見ても魅力的な人物だと思う。
彼女に憧れて図書委員に入った女生徒が居る事も事実だ。
別に、そんなの個人の勝手だが.....それでも、嫌だった。
だって、エルダは私のものなのに....
こういう風に目に見える形で他人からの想いを受け取って欲しく無い。
.....私だって渡したいのに。でも、大勢と一緒にされたくない。
だからこうしてひねりにひねって、ひねくれ過ぎたものを渡したというのに....それでもエルダは喜んでくれている。
.......胸が、凄く痛い。
好き......
「久しぶりに食べたよ、ポッキー。」
おいしい。と呟きながらエルダがそれをぽきりと噛み砕く。
その姿が何だか可愛くて頬が緩んだ。
「来年、アニの誕生日にはお返ししないとね。何が良い?」
「.......何でも良いの?」
「そうだね....私に可能な範囲なら。」
「.............。」
「アニ?」
「いや、何でもない。」
脳内を過った物凄い花畑のイメージを払拭する様にゆるく頭を横に振りながらアニは答えた。
「でも嬉しいな。アニや色んな人に誕生日を祝ってもらえて....」
彼女は楽しそうに笑いながら机に頬杖をついてくる。
アニはガリ、とポッキーを噛み砕く。先程の幸せな思考はどこかへ飛んで行ってしまった。
「ふうん.....。その中の何人が下心を隠し持ってるんだろうね」
「そんなもの持っているのは貴方くらいよ」
「......馬鹿」
「ひどい事言うわねぇ.....」
エルダは少し困った様に眉根を寄せた。
しかし相変わらず口元が綺麗な弧を描いている事から、そこまで困っているわけでは無いと分かる。むしろ楽しそうだ。
「ねえアニ。私の誕生日を祝って、貴方からもうひとつプレゼントが欲しい」
「......欲が深いね。もうあげたでしょう」
「いいじゃない。やっとアニと同じ年になれたんだから」
「.....言うだけ言ってみな」
「アニとデートがしたい。」
「........は?」
「デートをしようよ。映画見たり、公園に行ったり、お店を巡ったり.....何でも良いよ。」
きっと楽しいよ、とエルダはアニの手を軽く握って話す。
「......何で私が.....」
「今更それを言う?」
彼女は白い指をそろりと自分の掌に絡ませて来る。
余裕のある声色が主導権を握られている様で癪に触った。だからこっちから更に強い力で握り返す。
アニの行為にエルダは薄緑色の瞳を優しく細めた。
「......私のお願いをひとつ聞いてくれるなら行くわ....」
二人の顔の距離は近かった。鼻先が触れ合う程.....
「何かしら.....?」
エルダは囁く様に聞いてくる。
「......一緒に食べて....」
アニの手が置かれたポッキーの袋はくしゃりと音を立てた。
「......意味、分かってるわよね?」
そう尋ねればエルダはゆるりと微笑み、静かに頷いた。
彼女の口にチョコレートが付いた先端をそっとくわえさせる。
そしてアニもその一端をゆっくりと口に含んだ。
慎重に、折らない様に....自分の長い前髪を耳に掛け、彼女の近くまで.....
エルダはただくわえて待っている。早く、私もそこへ......
互いの唇までの距離があと数cmとなった時、エルダがふと目を伏せて、一口それを齧った。
(あ......)
少しの間そのまま固まる。彼女はゆっくりと唇を離すと、また柔らかく笑った。
顔に熱が集まる。悔しい。何でいつも私ばかり....
イライラして仕様が無い。仕返しにエルダのきっちりと締められたタイを引っ張ってその体を自分の方へ引き寄せる。
苛立ちをこめて彼女の唇に噛み付く。エルダは驚いたのか咄嗟に後ろへ体を引こうとした。
でもさせない。頭を後ろから押さえ込んで更に深く。
鉄の味がする。私の犬歯が柔らかな彼女の唇を傷付けたのだろう。
しばらくしてそっと手を離してやると、呆然とした表情のエルダが目に飛び込んで来て、ようやく愉快な気持ちになる。
あんたを可愛がるのも、主導権を握るのも私だ。あんたじゃない。
その時、教室の入口から誰かが息を飲む声が聞こえた。
二人でそちらに視線をやると、背の低い女生徒が目を丸くして立っていた。
あまり見ない顔だ。後輩だろう。
(......確か....図書委員の.....)
彼女を認識するとエルダはいつもの柔らかい表情に戻り席を立つ。
「どうしたの?何か用かしら」
何でもない風に彼女へと近付く様は流石エルダと言ったところか。
しかし女生徒はショックのあまり言葉が発せられない様だ。
エルダが心配そうにその華奢な肩に手をかける。
「.....あ、あの....さっき渡したプレゼントに....私、カードを付けそびれて....」
震える小さな声で言葉が紡がれる。エルダはうんうん、とそれに耳を傾けていた。
「忘れちゃったって....それで三年生の教室に来たら......」
そこで言葉は途切れ、彼女は俯いてしまう。アニはその様子を頬杖をついてただ傍観していた。
「カードまでくれるなんて嬉しいな。頂いても良い?」
エルダが口を噤んでしまったその顔を覗き込みながら言う。しかし彼女は後ずさってそれを拒否する。
「い.....いえ。もう....良いんです.....」
涙を溜めた目でエルダを見上げ、「.....お騒がせしました」と弱々しく言うと、彼女は廊下へ走っていってしまった。
エルダはしばらくその後ろ姿を見つめていたが、小さく溜め息を吐いてこちらに戻って来る。
アニはそれを薄く笑いながら迎え、「モテる委員長は辛いね」と言ってやった。
彼女はもう一度溜め息を吐き、「そろそろ帰ろうか」と鞄を肩にかけた。
すこぶる上機嫌なアニは同じ様に鞄を持ってエルダの隣に並び、「ほら、元気出しなさいよ。」と言いながら水色の紙で包装された小さな箱を渡す。
エルダは目を見開いてそれを見つめた後、ようやく少しだけ笑って「くれるの?」と言った。
「勿論。私があんたの誕生を祝わない訳無いでしょう。」
「ありがとう。すごく嬉しいよ。」
彼女はその包みを鞄の中に大事に仕舞い、そっとアニの頬に口付ける。
「大好きよ。アニ」
耳元で囁かれたその言葉は、身に沁みて来る様だった。
胸が痛い......
.......好き。
どうしようもない位......好き。
「今度、何処へ行こうか」
階段を降りながらそう尋ねれば、エルダはいつもの様に柔らかく微笑んで「アニはどこへ行きたい?」と逆に質問してきた。
「あんたの家」
「.....それならいつも来てるじゃない」
「じゃあ今日も行く。そこで計画を立てよう」
「ん....。それは楽しそう。」
「エルダ」
「なに?」
「.....あんたは私のだから。」
「うん....。そうだね。」
「今日は良い虫除けになったわ。」
「それでそんなに機嫌が良いのね....」
「何なら毎日やろうか。そうだ、それが良い。」
「うーん。それはちょっと.....」
二人はのんびりと話しながら、エルダの家へと道を辿るのだった......
田谷様のリクエストより。
アニとポッキーゲームする話で書かせて頂きました。
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