光の道 | ナノ
アニとお酒の話 02 [ 31/167 ]

「アニ、大丈夫?」

エルダはようやく彼女を布団に入れてほっとしながら尋ねた。

彼女は相変わらず熱に浮かされた目をしているが、視線だけはがっちりとこちらを見つめている。

ただならぬその目力にエルダは少し戸惑う。


アニが何も言わないので、「それじゃあ、おやすみ」と一言告げて去ろうとするが、それはスカートを掴まれてしまい適わなかった。

「?どうしたの」

座ってベットに横になる彼女に目線を合わす。相変わらず切なそうな色をたたえた瞳だ。

「......て」

僅かな囁き声がアニの口から漏れる。

「傍に...居て....」

「うん.....。」

彼女を安心させる様にエルダは頭を一回撫でた。

「一緒に寝て.....?」

「え....」

「.......駄目なの.....?」

「駄目じゃないよ.....。」

エルダはもう一度アニを撫でた。

何だか彼女が可愛らしく感じて、どうしても放っておけなかった。

酔いから生まれた譫言でも構わない....。自分の事を必要としてくれるのが、嬉しかったのだ....。







「狭く無い?」

エルダが布団の中でアニに尋ねる。

彼女は無言で首を振り、「でも...寒いからもっと近付いて....」と呟いた。

その言葉に従ってエルダがアニの傍に寄ると、自分の胸に彼女が顔を埋めてくるのが分かった。


しばらくするとお互いの体温がゆるりと解け合い、眠る間際の心地良い空気が二人の間に流れ始めた。

「エルダ.....」

アニが少し掠れた声で呟く。

「なに....」

そっと囁き返すと、アニの手がゆっくりと腰に回る。エルダは特に抵抗せずにそれを受け入れた。

「キス....して欲しい....」

自分の胸元で彼女が呟く。

「さっきしたでしょう」

エルダは目を閉じながら小さく笑って答える。

「違う....。ちゃんとして欲しいの....。」

目を開けてアニの事を見ると、しっかりとこちらを見つめていた青い双眸と視線がぶつかった。

「それは....将来のために取っておきなさい。」


エルダは再び目を閉じた。薄緑色の....私の一番好きな色が隠れてしまう....

「将来のため....?」

そう問うと、彼女はゆっくりとアニの頭に手を回す。

「そう.....いつか、本当に好きな人に巡り会うまで....」

エルダの呼吸が穏やかな物にかわっていく....。もうすぐ彼女は夢の中へ旅立つのだ....

その柔らかは膨らみの下にある心臓の音を聞きながら、アニは胸がひねり潰される様な悲しさに襲われた。


「エルダの馬鹿.....」

何で分からないの....!お酒の力を借りはしたけれど、普段ではとてもできない事をしたのに、結局彼女は私に対して何も想ってくれていない....!

「エルダの馬鹿.....」

もう一度呟くと、涙が一筋頬を伝った。それを彼女の寝間着に押し付けて拭き取る。


.....エルダの体は温かくて柔らかい。この体に触れられる時は女に生まれて心底良かったと思うけれど、それでもやっぱりこのままは.......


幸せと悲しさと悔しさと、様々な感情のせめぎ合いに身を任せながら、アニはゆっくりと眠りに落ちて行った。







起きた時、既に日は高く.......気分は最悪だった。

頭が痛いし気持ち悪い。

昨日、あの三人の蛮行が見ていられなくて酒を飲み尽くしてやったは良かったが、自分があまり強くないとは思わなかった。



『キス.....して欲しい....』




(..........!!??)

そして唐突に思い出される自分の愚行。

わ、私は何てことを.....!!いや、でもまだ夢と言う可能性も.....!!

だって、隣に寝る様に強制させたエルダが今は居ないし....きっと夢だったに違いない....!


ふとサイドテーブルに布がかかった盆があったので、その布を播くってみると、朝食とメモが置かれていた。


『アニ、おはよう。先に起きています。』


............。


(やっぱり夢じゃない.....な、何て事を私は......!)

アニは再び布団にへなへなと崩れ落ちる。

しかもエルダの前だけじゃない!あんなに大勢の前で!!

あぁ.....ライナーやベルトルトにもどういう顔して会えば....!いやそれ以前にエルダにはどう弁明すれば.....



(うわああぁぁああぁあ!!!!!)



その日、夕方近くまでアニは自分のベッドの中から出て来なかった...。

エルダとアニが付き合っているという噂は訓練場中を席巻し、ひと月は散々ネタにされる事になる。



フリマ様のリクエストより。
アニがお酒を飲んでしまいベタベタに甘えまくり(周りの目を一切気にせず)、朝起きてバッチリ残っている記憶に一人で悶えしんでる、という事で書かせて頂きました。



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