ライナーに包帯を巻く [ 13/167 ]
「あらあら、これはひどいわね.....。」
ライナーの傷だらけの腕を見ながらエルダは言った。
「すまんなエルダ。治せそうか?」
「うーん、あともうちょっとで縫わなくちゃいけなかったけれど、これなら多分大丈夫よ....
.....とは言っても私は医師の免許を持っているわけではないから、落ち着いたらちゃんと診てもらう事をお薦めするわ。」
ライナーの腕を見ながら水道の蛇口をひねると、冷たい水が勢い良く出てきた。
「ちょっとしみるわよ」と言って彼の腕に水を浴びせる。ライナーが顔をしかめた。
「それにしてもどうしてこんな事になっちゃったの。」
「教官に本棚を倉庫に移動する様に言われてな....運んでいたらバランスを崩してそのまま窓に突っ込んだ、という訳だ。」
傷の洗浄が終わったので濡れている腕をタオルで押さえる様に拭いた。
筋肉がしっかり付いていてとても逞しい腕だ。恐らく自分の倍位の太さがあるだろう。
「体格が良いのも力仕事を任されてしまうから考えものねえ。.....誰かに手伝ってもらえば良かったのに」
「いや、皆の手を煩わせるのも悪いと思ってな....」
「....はぁ」
エルダはライナーを自分の前に置かれた椅子に座らせて、何を思ったのかおもむろにその頭部に華麗な手刀を食らわせた。
「!?」
.........短い沈黙が場を支配した。当たり前であるがライナーは自分が置かれた状況がさっぱり理解できない。
「.......エルダ....何故俺は今殴られたんだ?....!もしやお前にはそういう趣味が「違います」
キッパリそう言い切るとエルダはライナーの鼻先に指を突き立てた。
「貴方がみんなのお兄さんとして頼られているのは知っているけれど、それで怪我したら元も子も無いでしょう」
薄緑色の瞳が真っ直ぐにライナーの姿を捕えている。
(.....もしかして、ちょっと怒ってる....?)
「はぁ、怒ってないわよ....呆れているのよ....」
(うわ心読まれた)
「皆貴方の事が好きなんだから、喜んで力になると思うけれど....そうやって無理するのは体に良くないわよ」
はぁ、ともう一度溜め息を吐いてようやくエルダはライナーの鼻先から指を離した。
「じゃあ包帯を巻きましょうか。」
「あぁ、エルダの包帯の巻き方は上手だとアニから聞いたぞ。」
「....アニが?」心底意外そうにエルダが言った。
「あいつは表にはあまり出さないがお前の事を良く思っているらしい。
できればこれからも仲良くしてやってくれ。」
「ライナーって本当にお兄さんみたいねぇ....」エルダは楽しそうに笑った。
救急箱から包帯を取り出してライナーの腕に巻こうとすると何故か彼は怪訝な表情をした。
「?どうしたの。そんな不思議そうな顔をして。」
「いや....腕に巻く包帯ってのは自分の履いているスカートを切り裂いて作ってくれるものじゃ「いやいやいや、貴方は一体何の話をしているの」
エルダはライナーの事を団子虫の死骸を見る様な目付きで眺めた。
「はぁ、つべこべ言わないで腕を出さないと治してあげないわよ....」
「....すまん」
今度こそライナーはエルダの元へ腕を差し出し、大人しく包帯を巻かれた。
アニが言っていた通りエルダの包帯の巻き方は丁寧だった。巻き終わる頃には傷の痛みが随分ましになった気がする。
「さて、仕上げに....」
エルダが傍にあったペンを取り出して、ライナーの腕に巻かれた包帯に花模様をひとつ描いた。
「これは?」
「早く良くなるおまじないみたいなものかな」
そう言ってエルダは柔らかく笑った。
(お母さんにしたい)
「......色々無理があると思うわよ...」
(うわまた心読まれた)
その夜、ライナーの包帯に描かれた花柄を見つめながら「僕も怪我したいなぁ....」とぼやくベルトルトの姿があったとかなかったとか
ライナーを手当てしてあげる、というリクエストから書かせて頂きました。
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