サシャと編み物 01 [ 137/167 ]
(15巻ネタ)
「……………何してんだ、お前等」
リヴァイは呆れた様にしながら…床に腰を下ろしてせっせと作業に励むエルダとサシャの二人を眺めていた。
「ご覧の通り!編み物です!!」
「そうか。猫の吐瀉物じみたものを量産するのがお前にとっての編み物だったんだな。」
「あらあら、兵長さんたら意地悪言っちゃ駄目ですよ。サシャの個性が現れていてとっても素敵な手袋だと思うわ」
「………マフラーなんですけど」
「冬って何だか編み物したくなるんですよねえ。女子の性でしょうか?」
ねえ、と言いながらエルダはさくさくと器用にかぎ針を動かしていく。
慣れているらしく、編目は規則正しく綺麗に揃っていた。
「暇な奴らだな。この非常事態に」
そう言いながらリヴァイは軽く溜め息を吐く。
………どうやら、緊迫した状況に似つかわしくない二人の自由な雰囲気に少しあてられたようであった。
「だって陽が落ちてしまったら外で訓練も出来ませんし…変に行動して人に見つかってしまったら大変ですから。」
だから室内で出来る事をするのが…気も紛れて良いかと……と、小さく付け加えながらエルダはちらとサシャを横目で見る。
その仕草はリヴァイくらいしか気が付かないほど微かだった。……だからといってどうという訳では無いのだが。
「………それなら根暗にでも倣って鍛えたらどうだ。柔らかい二の腕しやがって」
「ちょっとリヴァイ兵長!何でエルダの二の腕の柔らかさを知ってるんですかっ!?
もももももしかして触った事が」
「噛み付くな面倒臭い単なる憶測だ」
リヴァイはべしんとサシャの頭を叩く。
力が強かったのか彼女の喉からはごふっと不穏な音が吹き出した。
「そんなことありませんよ、これでも結構力持ちなんですから……」
兵長さんが怪我したら抱っこして運んであげますから任せて下さいね。と言ってエルダは軽くガッツポーズを作ってみせた。
………現在は濃紺のカーディガンで隠れている為仔細は把握出来なかったが…いかにも貧弱そうな腕であった。
リヴァイは、そうかそれは頼もしい…だとか何だとか適当なことを言って彼女の発言は相手にしないことにする。
いちいち反応をするのはこの女を喜ばすだけであることはリヴァイも追々学習できていた。
「そうだ……折角ですから兵長さんにも何か編んであげましょうか」
「いらねえ」
「腹巻きとかどうでしょう。」
「いらねえよ」
「大切なときに冷えてお腹が痛くなっちゃったら格好悪いですものねえ。」
「だからいらねえっつってんだろうが」
「やだ、遠慮なんてしなくて良いんですよ。」
「お前耳ついてんのか」
リヴァイはエルダの頭も一発どつこうとしたがそれは上手い具合に躱された。
…………この女、攻撃力は皆無に近いのに避けるのが非常に得意である。リヴァイは盛大に舌打ちをして不快感を露にした。
エルダは何も気にした様子はなくおもむろにリヴァイのウェストにメジャーを回そうとする。
油断も隙も無い、とリヴァイは容赦なくメジャーを引き千切った。
「…………………。」
少し何かを考える様に天井を眺めたエルダは、どこからか新しくメジャーを取り出しては再びリヴァイの方を向く。
「……………………。」
リヴァイは一歩後ろに引き下がった。エルダは立ち上がってその距離を詰める。
「……………………。」
「……………………。」
二人は暫時無言で見つめ合う。後……リヴァイが凄まじいスピードでその場から離脱するように走った。
それと同時に床板が激しく鳴る。相当な脚力がこもっていたらしい。
「あらー……逃げられちゃったわね。」
残念、と肩を竦めながらエルダは元の位置にすとんと座った。
「最近…エルダってリヴァイ兵長と仲良いですよね。」
その様子を見ていたサシャがこんがらがった毛糸と格闘しながら零す。
彼女の口調からはあからさまな不満が表出していた。
「うふふ、最近じゃないのよ。昔から仲良しなんだから。」
エルダは口に軽く手を当てて含み笑いながら編み物を再開する。
どうやら彼女は…エレンに対してそうであったように、嫌がられれば嫌がられるほど構いたくなる困った性質をしているようであった。
「………………………。」
…………サシャの毛糸の迷路は難解さを増すばかりのようである。
エルダが貸してご覧なさい、と掌を差し出してそれを受け取った。
「私の方がエルダとはずっと昔から仲良しですけど……」
手持ち無沙汰になったサシャが自身の髪の毛をちょいちょいと弄りながら零す。
「そうねえ、その通りだわ。」
「そうですよ……。分かってます?」
「勿論。愛してるわよー、サシャ。」
「私もですよ!」
毛糸を解いてやる作業をしていたエルダをサシャが急に抱き締めるので、エルダはあらら、と少しの驚きを表す。
だが、やがて嬉しそうに自分からも抱き締めかえしてやった。
「あら、相思相愛かしら?」
「はい!両思いです!!」
「まあ嬉しい。」
きゃっきゃと姦しく抱き合いながら会話を交わす二人を……少し離れた場所でジャンが先程のリヴァイと同じく呆れながら見ていた。
(…………こいつら、現在のヤバさを分かってねえのか?)
馬鹿なのか?馬鹿なんだろうな。と一人納得する。
…………女は男と頭の作りが半分以上違うと聞くが…現在置かれた緊迫の中でも笑顔でいられる二人の女子の脳天気さは、少し羨ましく思った。
[
*prev] [
next#]
top