サシャとデートする02 [ 11/167 ]
「エルダ、見て下さい!あっちにあるのもおいしそうですよ!」
街に着くなり、サシャは早速買い食いを始めた。
「さっきから食べてばかりじゃない....帰ったら夕飯があるのよ?」
「それは別腹です!」
「はぁ、そんなに買って、お金がなくなっても知らないわよ....」
エルダの発言に、サシャの顔がみるみる青ざめていく。
急いで財布を確認したその顔は、更に深い青色へと変化していった。
「ど、どうしましょうエルダ.....こ、これしか....」
差し出されたサシャの掌を見ると、薄く貧弱な硬貨が三つ乗っているだけであった。
どうやらハメを外して財布のひもをゆるませすぎた様である。
「あーあー、知らない。」
「まだ食べたいものがあったのに!!」
「この期に及んでまだ食べるの!?」
*
街が茜色に染まる頃、二人は街の広場のベンチに腰掛けて夕日を眺めていた。
「はぁ、とっても楽しかったです、エルダ。」
「私も楽しかったよ。なんだかサシャにこうして振り回されるのは懐かしいわね....」
「振り回してなんかいませんよ!失礼な!」
「はいはい、そうね。」
広場の中心にある噴水はきらきらと飛沫をあげ、茜色に染まった雫を辺りに放っている。
二人の前を数人の子供が笑い声をあげながら駆けて行った。
「サシャ」
エルダがサシャに声をかける。その手には薄い桃色のリボンがかかった包みが握られていた。
「お金がなくて困っているサシャさんにプレゼントよ。」
そう言ってぽんとサシャの掌にその包みを置いた。
「わ!ありがとうございます....開けても、大丈夫ですか?」
サシャが驚いて尋ねる。
「さぁ....爆発するかもね」
「え」
「冗談よ」
包みを開けると、そこには青い花をかたどった髪留めが入っていた。
「これは...」
「さっき、色気より食い気のサシャが女らしいものに興味持ってたから珍しく思ったのよ...
あんまり私たちには身につける機会がないかもしれないけれど」
それは先ほどサシャが雑貨屋の店先でじっと見つめていたものだった。
その目は、いつもの陽気なサシャとは対照的に寂しそうな色をしていた。
「.....この髪留めに、似た花が私の故郷に咲いてたんです...
なんだか、村を思い出してしまって....」
サシャは再び寂しそうな目を髪留めに落とす。
「そうだったの.....」
エルダは合点がいった様に呟いた。
「ねえ、サシャ....
私はなんとなく、貴女の口調が変わってしまった理由が理解できるのよ」
エルダがゆっくりと口を開く。
「え....」
サシャの目が見開かれた。その大きな目には空の茜色が綺麗に映り込んでいる。
「でも、今の敬語も昔の故郷の言葉も、どちらを喋るサシャも私は好きだから....
今は、それでいいと思うわ」
静かにそう言って、薄緑色の瞳を伏せた。
しばらく二人の間は沈黙だけが支配していた。
どこからかただよってくる夕餉の匂いが、ひどく懐かしく思える。
「さて、」
仕切り直す様にすっくとエルダが立った。
「そろそろ本日のメインイベントの時間かな....行こう、サシャ。」
サシャの手を引いて走り出す。
「わ、待って下さいエルダ!...行くって、何処にぃ?」
「行けば分かるわよ。」
楽しそうに笑うエルダに手を引かれて、二人は街を駆けて行った。
街はいよいよ夜に向けて活気付き、サシャとエルダの姿はあっという間に雑踏に紛れて見えなくなった。
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