ベルトルトと霧の中 03 [ 9/167 ]
「エルダの瞳の色は僕の故郷の山に似ているんだ。」
ふいにベルトルトが言った。
「え?」
「僕とライナーは同じ山奥出身なんだ...今はもう帰ることができないけれど...
...でも、いつか必ず帰る。僕の中にある意思と言ったらそれ位だ...」
「そう...」
「ごめん、つまらない話だったね...」
「そんな事ないわ。
物心ついた時から旅の生活だった私には故郷が無いから...
故郷を愛せる人を尊敬しているし、話を聞くのだってとても好きよ。
もっとその話を聞かせて頂戴。」
そう言ってエルダは笑った。
先ほどより距離が近くなった薄緑の瞳が綺麗だ。
*
それからベルトルトは故郷の話をぽつりぽつりとした。
一目に見渡す緑の中をまっすぐに通った道、雨上がりの湿った土の感触、あの滑らかな心地の好い地面が懐しい。
帰りたい...どうしてもおさえられない郷愁の気持ちが体中に広がった。
エルダは黙ってベルトルトの言葉に耳を傾けていている。
少し弱まった雨脚が作り出す柔らかい空気が、その場を優しく包んでいた。
*
「ねぇ...、いつか僕が故郷に帰る時...エルダも一緒に来てほしい...。」
「私なんかがお邪魔していいのかしら。」
「うん。...君に僕の故郷を見せたいんだ。」
「じゃあ今から手土産を考えないと。」
エルダが目を細めた。
優しい眼差しが心地よい。
薄緑の目がこちらを見るたびに、陽にあたる様なあたたかさを感じた。
*
「霧が晴れて来たわ。」
洞穴の外に頭を突き出しながらエルダが言った。
少し名残惜しいがそろそろ麓へ降りなくてはならない様だ。
立ち上がってエルダのそばに行くと、座っていた時には分からなかった身長差が結構ある事に気付いた。
(当たり前か...)
エルダの身長が低い訳ではないが自分は192cmの長身である。エルダの瞳が身長差分遠ざかってしまったのが残念だった。
(でも...)
「ベルトルト、ちょっとこっちにおいで。」
エルダがベルトルトの腕を引いて洞穴の外へ促す。下から顔を見上げられた。
(かわいい...)
身長差があるのも良い事かもしれない。
「ほら、空を見てよ。」
指差された空を見上げると、今まで薄暗かった空はほのぼのと白みかかっていて、羽毛を散らしたような雲が一杯に棚引いていた。
先ほどまで灰色の霧に閉ざされていたのが嘘の様だ。
「綺麗だな...」
思わず感嘆の声が口から漏れる。
「ベルトルトは...晴れた空は好きかしら」
エルダが先程と同じ質問をした。
「うん...結構好きだ...」
「...それは良い事ね。」
殊更嬉しそうにエルダは微笑んだ。
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