光の道 | ナノ
もしものアニが男の子 [ 120/167 ]

(if恋人同士、アニ憲兵、男体化)



「…………何してるの。」



両手に、沢山の手紙やら花束を持ったアニが優雅にお茶を嗜む二人……ヒッチとエルダに声をかけた。



「別に。女同士のお喋りかな?」

非常に不機嫌そうなアニに対してヒッチは楽しそうに答える。


「とてもそんな平和なやり取りがあった様には見えないけど」


アニは……ヒッチと隣合った椅子に腰掛けて、くったりと背もたれに身を預けるエルダへと視線を向けた。


「至って普通の事話してただけだよお。
女に囲まれて鼻の下伸ばしてたあんたに変わって、エルダとお喋りしてただけじゃん?」

「…………鼻の下を伸ばした覚えはないよ」

「そう?でもさあ。折角彼女が遥々調査兵団から会いに来たっていうのに、それすっぽかして他の女とよろしくやるのはどうかと思うよ?
エルダちゃんかわいそ。」


…………ヒッチの言葉に、アニは持っていた花束を掴む手の力を強めた。


そう………ここ最近。アニの身長がまるで竹の子の様な速度で成長するに従って……彼は異常な程モテる様になったのだ。

そして身長がもうすぐで180cmに達しようとしていた今日この頃。

元より端正な顔つきであったアニは、歩けば憲兵の先輩であるお姉様方、若しくは同性愛者の変態に足止めを食らう日々であった。

訓練兵の時代から付き合っていた恋人がいるとはっきり宣言しているのに関わらず、である。


珍しくお互いの休みが重なった今日だって……本当は朝からエルダと一緒にいられる予定だったのに。

こんな鼻がかゆくなる様な花束を受け取っているうちに時刻はもうお昼に差し迫ってしまっている。


「だからさあ、私がちょっと相手しててあげたんだ。ね、エルダ。」


………相変わらず、耳元まで顔を真っ赤にさせてエルダは椅子に体を預けていた。


彼女の掌をぎゅっと握り、ヒッチは非常に上機嫌にのたまう。

その親密な仕草に、アニの胸の内では良く無い感情がむくりと湧き起こった。


「エルダ……。そいつと話さない様にって言っただろう」


しかし、そんなアニの言葉はエルダには届いていない様である。

彼女はただひたすらに、骨抜きになった様にくったりとしていた。


「ヒッチ……。エルダに何をした。」


鋭く睨みつけながらアニはヒッチに尋ねる。

しかしそれを意に介した様子も無く、ヒッチは白いカップに入った紅茶を美味しそうに啜った。


「やだ……。あんた顔怖いんだからあんまり睨まないでよ。ちょっと恋愛指南をしてあげただけなんだから……」


………いよいよ睨みつけてくる視線が凍てつく程の冷たさを増すので、ヒッチは可笑しそうにくつりと笑う。

その瞳は上半月を描き、心の底から面白くて堪らなそうであった。


「はいはい……。邪魔者は退散しますよっと………。じゃあね、エルダ。また一緒にお茶しようね?」


語尾にハートマークが付きそうな楽しげな声色である。

返事を返す余裕の無いエルダに一瞥すると、ヒッチは席を立って軽やかな足取りで立ち去っていった。



「……………………。」

アニは………ひとつ溜め息を吐き、脇にあったテーブルに手紙やら花やらを乱雑に置いた。


それから今までヒッチが脚を組んで腰掛けていた……エルダの隣の席に座ると、じわりとした温度を持ってしまっている彼女の掌を、そっと握る。


…………久々の感触だった。とても落ち着く。

エルダに毎日会えないことだけが、憲兵となって唯一後悔している事であったアニにとって、大切にしたい肌触りだった。


「エルダ……。水でも持って来ようか。」

そう尋ねると、エルダは力なく首を振ってアニの掌を握り返す。……ここにいろ、という事だろう。


アニはそれに従って、もう片方の掌でもエルダの手を握ってやった。


………かつては彼女と同じ位だった掌も、いつの間にやら随分と大きくなったものである。


包み込んでやる様にすっぽりとエルダと繋がった手を眺めては、アニはちょっとした感慨に浸った。


それは、エルダと過ごした日々の長さを物語るものでもあったから……。



「………あの女に、何をされた」

静かに尋ねれば、エルダは僅かに熱を持った瞳でこちらを見据えた。


そしてゆっくりと微笑んで、アニの頬に手を添える。



――――一瞬、本当に一瞬。柔らかなものがアニの唇に触った。



何だか懐かしいその感触に、アニの白い頬も自然と薄紅色に染まって行く。



「女同士でキスなんて……初めてだったから、びっくりしちゃうのも無理ないわよ……!、ねえ?」



満面の笑顔でそう言うエルダを眺めて……アニは仄かな心持ちの中に怒りが点火していくのを感じた。



「誰が……誰と、キスをしたって……!?」


握る掌の力を強めながら押し殺した声で尋ねるアニ。

エルダは未だに頬を染めたままであったが、笑顔で「私と。ヒッチが。」と答える。


「………は?恋人がいるのに普通他人とする?」

「でも私たち女同士よ?最近アニが構ってくれなくて少し寂しいって相談したら……何故か急に、ね。」


………アニはがたりと乱暴に椅子から立つ。


あの女狐……絶対に面白がって引っ掻き回そうとしてるに違いが無い……!

おまけに奴はバイセクシャルで有名だ、このままではエルダの貞操が危険……!!



「エルダ……!!」

いつもの数倍鋭くなった目付きでエルダの事をねめつけるアニ。

エルダは思わず「あらあら」と声を漏らして彼を見上げた。


「今後一切あの女に近付くな……!我が身が可愛いのならば……!!」

アニの言葉に、エルダはただ不思議そうにするだけである。……ヒッチの凶悪性に全く気が付いていない様だ。


「そう……?でも彼女、話してみると結構面白くて良い子よ?あんまり見た目で性格を決め付けちゃ駄目だわ、ね。」


そして呑気な口調でそんな事を言う。

アニは……盛大に息を吐くと、椅子に腰掛けたままのエルダの腕を引いて立たせた。


……やはり、身長も彼女よりも頭ひとつ分高くなっていた。

思いを寄せ始めた当初、エルダよりも背が低かった事を随分とコンプレックスに思ったのがまるで嘘の様である。


先程エルダにされた様に、ゆっくりと彼女の柔らかな頬を撫でてから、アニは自然な所作でその頬に、それから唇に口付けた。


突然の事にぴくりと反応するエルダの身体。しかし構う事無くアニは続けた。



………ひとまず、消毒である。それから、会えなかった長い期間を埋める為。


女にまで焼きもちを焼いてしまった自分の余裕の無さに少し呆れながらも……

ここがいつ人が来るとも分からない憲兵団の公舎の一角である事も忘れて、アニは気が付いたら夢中でエルダの事を求めていた。



唇を離すと、エルダは先程とは比べ物にならない程に頬を染め、ずれてしまった眼鏡を震える指先で整える。


………やがて足腰が立たなくなったのか、へなりと膝を折ってしまう彼女の腰に、アニは腕を回してしっかりと受け止めた。


エルダ……は。アニの胸元に顔を埋めて、「もう……」と小さな声で漏らす。


少しやり過ぎたか……と思い、背中を落ち着かせる様にとんとん、と叩いてやるが、それは一向に効果をあげる事はなかった。



「キスなら……いくらでもしてあげるから。」

だから、私以外にさせないで。



そう呟けば、エルダは弱々しく首を縦に振る。


…………彼女の仕草を確認して、ようやくアニの気持ちは晴れ晴れとしたものになった。


ぎゅっとその柔らかい身体を抱き直して首筋に顔を埋めると、優しい香りがする。

ずっと昔から変わらない、エルダの匂いだ。アニは…これが、とても好きだった。


「じゃあ……アニもよ。いくら格好良くてモテるからって、私以外にさせないでね。」

胸の内でエルダが小さく囁く。


……正直うっとうしいと思っていた告白やプレゼントも、こうして少しでもエルダに焼きもちを焼いてもらえる材料になったのなら……悪くは無いのかも、しれない。

アニは、そんな事をぼんやりと思った。



それから二人は、身体を少しだけ離してこそばゆそうに笑い合った。



「お昼は、何が食べたい?」

そうアニが尋ねれば、エルダは「アニの食べたいもの」と答える。


目を伏せてそれに応えたアニは、エルダの掌を緩く繋いで歩き出す。



こうして二人の幸せな休日が、遅ればせながらも始まろうとしていた。



ちょも様のリクエストより
アニと恋人同士で、アニがイケメンの男の子になっている。
周りの女の子達が絡みに行ったり告白したりして、それを見た主人公は少し焼きもちを焼く。その後2人でイチャイチャする。で書かせて頂きました。


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