アニとお姫様抱っこ 02 [ 91/167 ]
「エルダ、もう具合は良いのか。」
次の日、いつもの様にきちんと制服に身を包んで早朝訓練に顔を出したエルダにライナーが声をかける。
「ええ。もうすっかり良くなったわ。心配かけてごめんなさいね。」
エルダは笑顔でそれに応えた。爽やかな朝に相応しい明るい表情に、どこかライナーの心も晴れやかになる。
「あ、エルダ…その、具合は「あらアニだわ、おはよう」
ライナーに続いてベルトルトも声をかけようとするが、アニの姿を発見したエルダはそのまま彼女の方へと歩み寄ってしまい、ベルトルトの小さな声は聞き届けられる事はなかった。
「………、まあ、その、なんだ。ドンマイ。」
そう言ってライナーはベルトルトの肩に手を置く。一方ベルトルトはエルダに(無意識とはいえ)無視された事により朝からどん底にテンションが転げ落ちてしまった。
「アニ、おはよう。昨日はありがとうね。」
そう言いながらエルダはアニに相変わらずの明るい笑顔を向ける。それにつられてアニの口角もほんの少し持ち上がった。
「……別に。良いって言ってるでしょう。」
「うん。でもね……私、アニにひとつお返しをしたくって……」
「お返し…?」
エルダはこくりと頷き、アニの元へもうひとつ歩み寄る。
「「「え」」」
一拍置いた数秒後、その場にいたアニ、ライナー、ベルトルトの口からは思わず声が漏れた。
「どう?柔らかい二の腕でもこれ位はできるのよ。」
そして何処だか得意そうな表情のエルダ。アニに至っては呆気に取られているのか口が半開きになってしまっている。
「エルダ………、な、何するの」
そしてやっとの思いで言葉を発する横抱きにされたアニ。いつもよりも随分と近いエルダとの体の距離に心臓が激しく波打つのを感じる。
…しかしエルダはうふふ、と楽しそうに笑うだけだった。降ろして欲しいという頼みも聞き届けてもらえない。
いや……勿論、強引に降ろさせる手段はいくつもあるのだけれど、どういうわけだがそれが出来ない。
その時のアニはただ……大人しく、エルダの胸に抱かれるしか成す術は無かったのである。
「…………意外だな。」
ライナーがそれを眺めながらふと呟く。
「エルダがどちらもいけるクチだったとはひっ」
その発言の続きは青い眼光に睨まれて言う事が適わなかった。
そんな彼の後ろでやはりベルトルトは、ちょう良いなあー!!と思いながらアニを見ていた。
「………言っておくけど、物理的にお前は無理だからな。エルダが潰れちまう。」
そんなベルトルトの気配を感じ取ったのか振り返って告げるライナー。
ベルトルトは少し考える様に目を閉じた後、覚悟を新たにした表情で瞳を開く。
「決めた。僕、ダイエット「何kg落とす気だ病気になるからやめろ」
出鼻を挫かれたベルトルトは再び項垂れる。ライナーは無言でそんな彼の肩を再び叩いてやった。
一方、アニはようやくエルダの腕の中から地面に降ろしてもらえたらしい。
未だに落ち着かない様子で色付いた自分の頬に触れるアニと、その傍らで満足そうに笑うエルダ。珍しい構図だった。
「ね、私でもアニをちゃんと医務室まで運んであげれるわ。安心してね。」
エルダはアニの顔を覗き込みながら言う。彼女の顔を直視できないのか、アニは反射的に顔を伏せた。
「さあ、今日も元気に訓練しましょうか」
人一倍上機嫌なエルダはアニの手を引いて指示された配置へと移動していく。遠ざかる彼女たちの背中を眺めるベルトルトの視線はひたすらに遠かった。
「………ねえライナー。もしかして僕よりもアニの方がエルダと仲良し?」
ぼそりと尋ねられた問いに「当たり前だろ。」とざっくり答えるライナー。
「そりゃ女同士の方が仲良いに決まってるだろ。だがお前だって充分あいつと仲はおい何処に行く」
「…………もうやだ、僕おうちかえるね……」
「出たよ面倒くさいモード」
何処かへふらふらと歩み出すベルトルトの事を捕まえたライナーは問答無用で彼の事を引き摺って自分達も配置につく。
……足を一歩踏み出す毎に早朝の濡れた黒い土に足跡がついた。エルダとアニが先程残したものもこの多くの跡の中にあるのだろう。
「おい、そろそろ自分で歩け」
そう言ってライナーはベルトルトの肩から手を離す。奴はまだげんなりしている様だった。
本当に穏やかで気持ちの良い朝だった。樹の色や光の内に澄んだ空気が漂い、折に触れては小鳥の群れが活き活きした声でさえずり交わして緑の葉の間を楽しそうに往き来している。
それだけで、こんなにも幸せで泣きそうになるのは何故だろうか。
その答えはとうに分かっているが、知る訳には行かなかった。知らないふりをした。
遠くではアニの隣にいるエルダがこちらに手を振っていた。
その更に向こうには大きな雲が青空にかかっている。
ああそうか。また、夏が来るのか………。
進撃面白いです様のリクエストより
主人公の具合が悪くなってアニにお姫様抱っこされる話で書かせて頂きました。
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