光の道 | ナノ
ベルトルトと結婚(仮)する 03 [ 85/167 ]

「あれっ、エルダさんは一緒じゃないんですか」

ベルトルトがエルダに貰った地図を元に式場まで辿り着くと、係の男性だろうか...にそう言われた。


「え...本日、彼女は撮影の日ではないと聞いてますが....」

初対面の人物と会話するのがあまり得意でないベルトルトは、言葉を選びながら返答する。


「ドレスの準備がぎりぎりで整ったんですよ...。相手の方...つまり貴方をここまで送る為に一緒に来ると踏んでいたんですが...」

男性は少々悔しそうにそう言った。


「エルダも...今日、別の用事が出来てしまって....」

「そうですか....。残念ですが仕方ないでしょう。」


溜め息をひとつ吐いて、彼はベルトルトを控え室の方へと案内する。


「まあ、男性の撮影はおまけみたいなものですから。さくっと終らせてしまいましょう。」


歩きながらの彼の発言に、ベルトルトは若干焦った。


...さくっと終られたら、困る...!エルダが間に合わないかもしれないじゃないか....!!

あれ、そっか、....そうだ。エルダはここに来るんだった!


「あの....」

ベルトルトは男性に向かって遠慮がちに声をかけた。


「エルダは...少し遅くなるかもしれませんが、来ると思います....。待っても良いでしょうか...」


訝しげに振り向いた彼に、つっかえながらも提案をする。



........男性は、少しの間考える様な仕草をした後、ゆっくりと言葉を発した。



「.....必ず来られるのですか?」


その問いに、ベルトルトは口を噤んでしまう。


そうだ....もし、彼女の用事が早くに終らなければ....来ない可能性もある訳で.....


でも、でも.....きっとエルダは来てくれる、そう信じたい.....彼女が僕を大事に思ってくれてるなら、きっと....



「....はい、来ます。」



心の中は不安で一杯だったけれど声だけははっきりと静まった式場の中、よく響いた。







「............。」


ベルトルトは....控え室の中、着替え終わった自分の姿を鏡に映しては唸っていた。


に、似合わねえ〜.......。


これが、自分に抱いた第一印象だった。


こんなにきちんとした服装となった事は、かつて無い。正直似合っているかどうかもよく分からないが....何となく直感がこりゃ駄目だ、と告げている。



(やっぱり....エルダが来る前に、撮影終らせて、脱いじゃった方が良いのかな....)



溜め息を吐いて、シャツの襟.....相当良い生地なのだろう....をいじった。



(いつかはもう一度着る事になるだろう服だけど....本当にその時は訪れるのかな。もう、服自体が僕の結婚を拒んでいるとしか.....)



そしてonになる後ろ向きスイッチ。ベルトルトは溜め息を吐いてへなりと椅子に座り込んだ。



「ベルトルトさん、失礼します。」



と、そこで係の男性が室内に入って来る。


ベルトルトは.....丁度良いと思い、やはり自分だけで撮影をしてしまいましょう.....と提案する為に口を開きかけた。



「エルダさん来ましたよ」


「はひっ?」


しかし、それが声になる前に男性から思わぬ知らせが。咄嗟にベルトルトの口からは頓狂な音が漏れた。


「えっ、あの....何で....その、」

「?何焦ってるんですか。彼女は来るって貴方が言っていた事でしょう。」


彼は不思議そうにしながら立ち上がったベルトルトを見上げる。


「いっ、今はどこに」


ベルトルトは必死に隠れる場所を探して辺りを見回す。.....彼の長身を隠すとなると中々難しそうだが。


「ああ、もう、すぐそこに」

「すぐそこ......?」


その時、ノックの音が部屋に転がる。ベルトルトの肩がびくんと震えた。.....この予感は間違えない。確実に扉の向こうにいるのは彼女だ。


「....すみません、ちょっ、待っ「ああエルダさんですね、どうぞー!「ちょおおおい!!」


まずいまずいまずいこんな姿見られて幻滅されてダサッまじダサッとか思われたら僕もう生きていけないまずいまずい


「すみません、思った以上に用事に時間がかかっちゃって.....!!」


そこに現れたエルダは....なんか....酷い有様だった。


いつも綺麗に整っている髪は乱れてぼさぼさで、額には汗が浮いている。そして酷く息切れていた。


「やー、良かった良かった。やっぱり結婚式場は女性が主役ですからね!野郎だけの撮影なんてつまんなくて嫌だったんですよ!!」

この男性、気持ち良いまでに正直者である。

「そうですか、とても素敵な式場ですね。びっくりしました...!」

見事に会話が噛み合っていなかった。


「あ、あの....エルダ、もしかして....走ったの?」

ベルトルトが、ぽつりと彼女に尋ねる。この有様からはそうとしか思えなかった。


「そうよ。間に合って良かったわ。」

彼女の言葉に、胸の痛みはより激しく根付いて行く。....凄く嬉しい、けれど.....


.....エルダは額をハンカチで拭い、髪を整えている。


そして....ふと、ベルトルトの事を見上げた。


薄緑の瞳に見つめられて、ベルトルトは息が詰まる思いをする。


(あ.......)


そして、本当に何処かに隠れたい位恥ずかしくなり、目頭が熱くなった。


どうしよう....!今日、今日....ここに来なければ....、頼み事なんて引き受けなければ....!!



「うん、」


しかし、その思考はエルダの頷く声によって打ち切られる。



エルダは再び頷き、更にもう一度頷いた。



「うん、とっても似合うわ。素敵よ、ベルトルト」



それからベルトルトの掌を両手握って、満面の笑みを湛えた顔を彼へと向ける。



ベルトルトは....予想外の彼女の反応と言葉に、目を見張るしか無かった。



そして、先程とは違う熱が、じわりと目頭に集まるのを感じる。



「エルダさん、向こうでドレスの準備出来ていますから、早く着替えてしまいましょう。」

「あら、私も着れるんですか」

「はい。ぎりぎりで間に合ったので。」

「それじゃあ今日はよろしくお願いします。」


二人の声が遠くに聞こえる。目元の熱は、顔にも広がっていった。


「じゃあベルトルト、また後でね。」


エルダがこちらにひらひらと手を振るので、やっとの思いでそれに振り返す。


ベルトルトの反応にエルダは嬉しそうに目を細めた後.....男性と共に部屋の外へと出て行った。



一人になった室内で、ベルトルトは長い溜め息を吐いて、もう一度鏡を見つめる。



.......どういう訳だか、似合って見えた。


変だな.....。さっきは最悪だと思えた姿なのに......



........ライナーの言う通りなんだ。エルダは人の見た目なんて気にしない。



それでも....。



『とっても似合うわ。』




この一言がどうしても聞きたくて.....その為に今日まで必要以上にうじうじ悩んで.....



でも、良かった。



嬉しい。



それで、大好き。



鏡の前で笑顔を作ってみせる。若干引きつっていたが、結構男前なんじゃないのか、なんて過ぎた事を思ってしまった。


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