ベルトルトと霧の中 02 [ 8/167 ]
「ベルトルトは雨が嫌いなのかしら。」
エルダが尋ねる。
「え...」
「余計な事かもしれないけれど...何だか元気が無さそうに見えたから...」
彼女の薄緑の目がこちらを向いた。
極力気まずさを表情に出さない様にしていたが見破られていたらしい。
「...よく...分からないな...」
少し考えた後にベルトルトは口を開いた。
「へぇ...じゃあ晴れの日は?」
「うーん...それも分からない...」
「曇りはどうかな」
「曇りについてそんなに深く考えたこと無いなぁ...」
「まさか...雷が好きなのかしら?」
「それはないかな...」
つくづく意志薄弱な返答である。自分で言っていて悲しくなってきた。
「何が好きなのかとか...よく分からないんだ...
誰かに好きになる様に言われたら好きになるのかもしれないけれど...。
僕には...自分の意志がないから...。」
膝を抱えて自分のつま先に視線を落とす。
とても情けない気分だ。
*
しばらくお互い黙ったままだった。
雨音がひっそりと沈黙を埋めていく。
ジャリっと地面を踏む音がした。
向かいの壁にもたれて座っていたエルダが立ち上がってこちらに近づいてくる。
そしてそのままベルトルトの隣にすとんと腰を下ろした。
「...そんな顔をしないで...。
自分の意思だけでなく、他人の意見を取り入れる事だって大事な事だと思う...。
何が正解かなんて分からないわよ...。」
エルダはベルトルトの肩にそっと手を置いた。
「焦らなくてもいつかは自分の意志でやり遂げなくてはならない事ができてしまうものよ。その時に後悔しない様、今の内にたくさん迷っておくのも悪くないと思うわ...」
「そうかな...」
「...偉そうな事言ってしまったわね...ごめん...」
「いや...ありがとう...。」
隣同士で触れ合う肩がじわりとあたたかい。
霧の中、山全体が雨を静かに受け入れているのを感じた。
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