「菅崎は髪が長いな」
何気なくかけた言葉に、菅崎晃は少し考えるように首を傾げた。
「トリオン体では短いので。邪魔ではありません。」
「でも生身では伸ばしてるのか」
「それは……」
なぜか罰が悪そうに彼女は斜め上を見る。それから再びこちらへと視線を向けた。
「髪が短いと、いよいよ男にしか見えなくなっちゃうので……。」
その返答と気恥ずかしそうな菅崎の様子を見て…(へー)とひどく感心したのだ。
(そう言うこと気にするんだな、あいつ。)
菅崎晃は寡黙で律儀な俺たちの隊の攻撃手だった。男よりも男らしい侍じみた雰囲気というのが共通認識だったので、彼女が予想外に女性らしい心理を口にしたのが非常に意外だったのである。
(……………。)
きっかけと言えばそれかなあと思う。元々、良い奴だということは知っていたし。
(それとも気がつかないだけで目で追ってたのか)
でなければ#nam1#が良い奴だなんて普通気がつかない。何しろ気遣いがささやか過ぎる上に寡黙が過ぎる。
とにかくいつからかはよく分からないが、そうこうしていたら好きだなと思うのにそこまでの時間はかからなかった。
*
「晃は髪が長いな」
そう言ってその髪を一房すくうと、彼女は少し恥ずかしそうに「うん」と応じた。
「短くしちゃうと男にしか見えないから」
そして昔と同じ言葉を口にする。
「そうかな」
髪を避けて顕になった首筋に口付ける。緊張で彼女の体が強張るのがすぐにわかった。
「こんなに女の子なのに?」
尋ねると、なんだか恨めしそうにこちらを見る晃と目が合った。いや別に恨めしそうにしているわけではない、目つきが険しいだけでただ困惑しているだけだ。
「びっくりするから急にそう言うことしないで……」
消え入りそうな声で彼女は言う。いつまで経っても初心な反応に一通りの満足を覚えつつ、「晃は可愛いな」と本心を自然と口にした。
「春秋さんは趣味が変だと思うよ」
何度となく言われた言葉を聞き流し、不器用な恋人をしっかりと抱き寄せる。長い髪が皮膚に触れていく感覚が心地よかった。
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