東さんからの告白はそれはもう自然で、まるで雑談の延長のようだった。
私は全く反応することができずに少しの間固まってしまう。彼は相変わらずの柔和な笑顔だったが、私はその発言の意図を考えるために頭をフル稼働しなくてはいけなかったので怖い顔をしていたに違いない。表情が固いのは昔からの悪い癖だった。
数分間のたっぷりとした沈黙の溜めの後、吃るのを堪えながらようやく応える。
「急すぎませんか…?」
「急かな。」
「だって…付き合いが短いわけではないじゃないですか、…」
「今までも何回か言ってたきたけどな。」
「えっ。い、いつ?」
「ほらやっぱり気付いてなかった。」
ははは、と東さんは軽快に笑っている。その反面私は緊張のせいで額に汗が滲んでいた。
「でっ、でも……私こんな、でっかいし……」
「俺だってでっかいよ。」
「メスゴリラって影で言われてるし…」
「影かな?親しみを込めて皆呼んでるぞ。」
「えっそんなの知らないひどい」
額に手を当てて眉間に皺を寄せる。ああ、また怖い顔をしてしまっているなあと思いつつも唸り声をあげてしまう。私はこのイカつい外見から、自分が恋愛沙汰とは一生無縁な人間であると大いに納得していたのだ。その納得を非常に近しい人間からこんな形で崩されるなんて。
一体なぜ東さんのような素敵な人が私を?いつから?そして私はどう応えれば良いのだろうか?
(もちろん彼のことは尊敬しているし嫌いじゃない…むしろ、)
「まあ返事は今じゃなくても良い。混乱してるみたいだしな。」
頭を軽くぽんぽんと叩かれるので顔を上げた。至近の距離に東さんの顔があったので思わず後ずさってしまう。
(い、今までなんとも感じなかったのに……すごい綺麗な顔してる人だったんだな…。)
胸を抑え、自分から遠ざかっていく東さんのことを見送る。彼の姿が廊下の右に折れて見えなくなると、一気に脱力したのか片膝を床についてその場に蹲ってしまう。
「ああ、やられたぁ…。」
手強すぎる、と呟いて、顔が更に怖くなるのを厭わず表情を顰めて深い溜息を吐く。そうして同隊の望が通りすがって「どうしたの?瀕死のメスゴリラが床に落ちてるわ。」と介抱してくれるまでのしばらくの間、そのままの姿勢から動けずにいた。
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