◎ 柘榴
力の限りに首を絞め上げていたヨゼファの肉体が、ビクリと大きく痙攣した。
その拍子、驚いて掌の力が弱まったのだろうか。刹那、スネイプの身体に強い衝撃が走る。
なにが起きたのかひと時……理解することができなかった。
ヨゼファはベッドの上に身体を起き上げて、肉体をくの字に曲げて激しく咳き込んでいる。
そしてスネイプは、先ほど自身が蹴躓いたゴブラン織のカーペットに寸でのところで後ろ手で受け身を取って、ことなきを得ていた。
(そうか、)
辛苦に塗れたヨゼファの
咳きを聞きながら、自分は彼女に突き飛ばされたのか、とようやく理解する。
そう……彼女は力が強い女性だった。だから本当ならこんなことはきっと、造作もなかった。
(今までも…)
拒否しようと思えば出来たのだ。力の限り拒絶を行えば、ヨゼファはスネイプの寄る辺ない行為からその身を守ることが出来たのかもしれない。
ただ呆然として動けないでいるスネイプとは対照的に、ヨゼファは内臓を吐き出さんばかりの嗚咽を漏らしている。口元を抑えたその指の間から、唾液が光って垂れる。反対の手で、胸元の服を爪で破きそうなほど強く握りしめながら。
このままでは、死んでしまう そう考えて不意に、夢の中に似て茫漠としていたスネイプの意識は冷水を浴びせられたようにハッキリとする。
「ヨゼファ、」
居竦まったままだった床から身体を起き上げ、咳き込み続けるヨゼファの傍…ベッドへに戻る。
「ヨゼファ、…ヨゼファ、」
名前を呼んでもヨゼファはこちらを見ようともしない。……冷静に考えれば、彼女はそれどころでは無いのだろうが。だがこの時のスネイプは混乱していた。落ち着いた思考が出来るはずもない。
(死んでしまう…!!)
そう強く、今ひとたび考えるともうほとんど平静ではいられなくなる。
「ヨゼファ、ヨゼファ…!」
咳き込むたびに大きく上下するヨゼファの肩に手を触れ、聞き届けられない呼びかけを弱々しく行う。
(死んでしまう、このままではヨゼファが死んでしまう…!!)
「ヨゼファ、…、あ……す、悪…かった、」
途切れ途切れの言葉で、謝罪を行う。
しかし彼女にその声が届くことはない。こちらを見ることなく床の一点を凝視するその青い目は焦点が合っていなかった。痛苦からどうにか逃れようと身体を折り曲げ、収まる気配のない咳を続けている。
「し、死なないでくれ……っ!」
あまりに強く咳き込む所為で、喉か口内のどこかが傷付いたのだろうか。口元を拭うヨゼファの指が赤く汚れていた。それを認めて、スネイプの精神は大きく乱れる。パニックが齎す痺れによって脊髄が熱が持つのを感じた。
「ヨゼファ、あ、、駄目だ、頼む…!!お願い、死なないでくれヨゼファ…!!、悪かった、本当に……死なないで、ヨゼファ、ヨゼファ、……お願い、置いて…あ、ヨゼファ………っ」
正しい処置も対応も忘れて、スネイプはヨゼファの両肩を掴む。先ほど掠らせてしまったままの声で叫び、体内から湧き上がり続ける恐怖を打ち消そうとした。
ごめんなさい どうにか体内に酸素を取り込もうと大きく上下しているヨゼファの胸に顔を埋め、彼女の名前を呼んだ。
烈しい咳嗽によって体力が削られてしまったらしいヨゼファは再びベッドに崩折れていきそうになるが、それをどうにか支えて抱き留める。
ヨゼファはスネイプの腕の中、肩で呼吸しながら脱力した身体を預けていた。
ヨゼファ、
抱き直し、抱き締めて呼びかけることを続ける。やがて、自分の身体に腕が回されていった。
ヨゼファは声にならない声で…囁き声にすらなりきれない…大丈夫よ、と呟く。大丈夫…、と喘ぐように繰り返して。
なにが、どのように大丈夫なのかは定かではないが。それでもヨゼファは自分自身に、スネイプに、言い聞かせるように呟いた。
覚束ない指の動きで、ベッドサイドの水差しを示される。応えてガラスの瓶を震える指で取り、傍のグラスに水を注いで渡そうとした。
まともにものを掴んでいられないヨゼファの掌に手を添えて、彼女が水を飲むのを手伝う。
ヨゼファは口に含んだ水を嚥下することが出来ず、何回かそれを嗚咽と共に袖へと吐き出した。
スネイプは彼女の唇の端から垂れる水滴を指で拭い、しっかりと留められていた鈕を外して首を楽にしてやる。
鈕がひとつ留め穴から解放される度、彼女の青白い首にくっきりと浮かび上がる自身の行為の痕跡が露わになった。そうして、鎖骨の上ばかりまで至っていた黒い魔法の爪痕も共に。
背中をゆっくりとさする。ようやくヨゼファは水を飲み込めるようになったらしく、苦しそうに喉を動かしてはグラスの中身を時間をかけて飲み干した。
空になったグラスをサイドテーブルへと戻し、彼女は緩慢に顔を上げてスネイプへと視線を向ける。
瞳を交え、二人は少しの間動かず、言葉を発さずにいた。
ヨゼファがスネイプへと伸ばしてくる掌が、星影に照らされていよいよ青白くなっていった。
彼女は冷たい指先をスネイプの頬へと触れさせ、弱々しい笑みを顔に浮かべる。
「大丈夫……。ほら、死ななかったでしょう…?」
そして、小さな声でポツリと呟いた。
自身の頬へと触れているその指を少しの躊躇の後に握り、スネイプは眉根を寄せる。
「今日、私に……、なにがあったか、知ってるわね。」
無言の彼に対して、ヨゼファは小さな声のまま途切れ途切れに言葉を続けた。
「私…やることがあるわ。今、逮捕されるわけには、……。」
ひとつの空咳。スネイプは慌ててヨゼファの背中を再びさする。
「………ここを、離れないと、、……。」
ヨゼファはスネイプの手の内からスルリと指を抜き、蹌踉めきながらも立ち上がろうとした。それを引き留めるために腕を引けば、消耗しきった彼女は簡単にベッドの上へと…彼の元へと戻された。それを抱き留め、未だ呼吸が乱れたままのヨゼファを腕の中に閉じ込めた。
彼女が息苦しさから喘ぐ度、スネイプの指と同じ形の赤黒い絞痕が浮き出た喉元が上下する。その様を目を細めて暫時、眺めていた。
「どこへ行くつもりだ…?」
低い声でヨゼファの耳元に言葉を落とす。
彼女の両頬を掌で包み、こちらを向かせた。深い青色の瞳が自分のことを見ている。ぽっかりと、透明色の光がその中に浮かんでいた。
「私から離れて、一体、どこへ?」
質問を続け、お互いの顔と顔がほとんど触れるほどの距離まで近付く。
ヨゼファはこちらを見つめたまま答えに窮していたようだが、やがて何かを言おうと…紅が落ちきって元の希薄が過ぎる色味となった唇を開きかけた。だが指先で、そこをそろりと抑えて発言を許さない。
彼女の身体を捕まえていた腕の力を強くして更に引き寄せる。
今であれば、その本気の拒絶すらも容易に封じ込めることができるだろう。そう、スネイプは考えていた。
「どれほどの期間だ。……何年、先まで。」
唇に触れさせていた指先をヨゼファの頬に、それから首に這わせていく。先ほどの辛苦を思い出したらしいヨゼファが、反射的に肉体を強張らせるのがよくよく分かった。
「また……五年間も、それ以上に待たせるつもりか………っ!!?」
感情の昂りを抑えられず、再び語気を強くする。
ヨゼファがこちらを見ていた。その身体を、ゆっくりゆっくりとベッドへと沈めて行く。彼女の虹彩の中に浮かんでいた光が、恐怖と戸惑いの色を帯びるのが見て取れた。
再び上と下になった状態で、二人は瞳の中を覗き合う。暗い、昏い色をした二色の瞳だった。
「駄目だ…、待てない。………
今だ、」
囁き、左手でヨゼファの肩を抑え、右手で指を絡めて手を握る。握り返されなかった。一度離し、手首を握り直して白いシーツに縫い留める。力の強さから、ヨゼファは痛みを覚えて小さな声を漏らした。
やがて…諦めたのか、受け入れたのか、ヨゼファの身体から力が抜けていく感覚を触れ合った皮膚から覚える。こちらを見ろ、と命令した。青い瞳に見据えられる中、自分の髪が重力に従い彼女に向かって黒い雨のように垂れていく。
「ヨゼファ、舌を出せ……。
思い知らせてやる。」
青い暗闇の中で、躊躇の末恐る恐る差し出された彼女の舌の赤色はいやに鮮明で目に付いた。
それを自らの舌で絡め取り唇と歯で嬲りながら、いつか自分はヨゼファを殺すのだろう、と予感した。
*
熱かった。
それでも、額に滲んでいるこの汗は冷や汗だと理解できた。
(苦しい、)
意識を手放してしまった肉体に、どうにか気を取り戻すことを念じる。
(痛い、)
肉体を蝕む多くの痛みがそれを助けてくれた。…ヨゼファはうっすらと瞳を開く…しかし、まだ目の前は真っ暗だった。なにも見えない。
少し身動げば、肩に激痛が走った。思わず声を上げそうになるのを必死で堪える。
頭を動かすと、ようやく視界が遮りから外れて薄暗い室内を認めることが出来た。
(そう…………。)
ヨゼファは、スネイプの胸に強く抱かれていたらしい。
いつもは自分が彼を抱いて眠る方だったから、違和感が大きい。もしかしたら…彼の腕の中で目覚めるのは初めての経験かもしれなかった。こんなにも、長い付き合いにも関わらず。
動かそうと思った手にもまた鋭い痛みが走る。………手首だ。後ろ手にきつく縛り上げられている。まったく、とボヤくように考えた。
(これじゃあ貴方のこと、抱きしめてあげることが出来ないじゃない。)
最早感覚を失っていた指先で、この部屋の床上、どこかに転がされていた自らの杖を引き寄せる。
細い白木の杖が掌中に収まってくれるので、それで皮膚に食い込む黒い縛縄を切り落とす。堰き止められていた血液が手首から先へと流れていく感覚と強い痺れに、我慢していた声が弱く漏れてしまう。
手が解放されても、ヨゼファは大きな虚脱感から横たえた肉体を起こすことが出来ずにいた。
身体は満身創痍だった。強く絞められた首は内出血でもしているのだろうか…いや、自分は医者ではないから詳しいことはよく分からない。だがとにかく…鈍い痛みが輪を作って未だにグルリと首を絞め上げている。更にその上へと、彼の歯型をくっきりと残した傷の痛みをいくつも覚えた。背中や腕、腿にも…いつもと同じように、爪が引き摺られた赤い線が重なっているのだろう。
(痛いな、)
ふと、今更のようにヨゼファはぼんやりとそう考えた。
「痛い…、」
小さな声で、声に出して呟く。
ようやく感覚が戻り始めた手で、そっと自らの肩に触れた。やはりそこの傷が一番深く、強い痛みを肉体に齎していた。
鋭利に形を変えた彼の黒い杖で貫かれた痕だ。まだ傷口がほとんど塞がっていない。腕を動かせば、血液がまた新しく皮膚を伝ってシーツに汚れを作っていく。
「痛いよ」
目を細めてもう一度零し、ヨゼファは弱々しく笑った。
そして、深い眠りの中に落ち込んでいるスネイプの頬に指先を触れさせてから…手を添えて、その指先で顔にかかってしまっていた黒い髪を耳の後ろへと流していく。
少しの間、黒い柔らかな髪を指で梳いていた。
(こうするのが、好きだったの。)
幾度なく…身体を預けられた夜、その明け方…彼を胸に抱き、微睡みながら穏やかな気持ちでその髪を撫でた。優しい気持ちになる、その瞬間が好きだった。
(本当に、好きだったの………。)
ヨゼファがスネイプを裏切ることは決して無かった。適わないと最初から承知しているにも関わらず、愛することを止めるのは出来なかった。今までも…これからも、ずっと。
「私が、何度貴方に愛しているって言ったかしら。
普通じゃないくらいに執着しているのに、……貴方、まだ不安なの……?」
額を寄せ、深い眠りの中の彼には届かないであろう囁きを続ける。
薄い唇からの弱い吐息を頬に感じて、胸が切なくなった。…そして、痛い。身体の傷ではない。胸の奥の痛みは絶えず続いて、収まることを知らないでいる。
(そうね。こんなふうになってしまうくらい、貴方は擦り減って消耗して…ずっと、傷付いているんだわ。)
離されしまうことの恐怖、拒否される不安……。
彼が、リリーに拒絶された記憶はどれだけひどいトラウマになってその心に根付いているのだろうか。
幾年経っても癒えることはなく、より深くなっているその心の傷痕を思い、ヨゼファはひどく苦しい気持ちになった。
「可哀想に……。」
ポツリと呟く。
腕を伸ばして、スネイプの身体をそっと抱く。その髪から、よくよく覚えのある少しの薬品の匂いを交えた香りを覚える。思わず、目を硬く瞑った。
「本当に、辛かったんでしょうね。……可哀想に…!!」
幾度となく抱いた彼の身体を強く抱き締め、ヨゼファは声を絞り出す。沈黙と静寂の室内で溢れた言葉の最後は、喘ぎとなってしまって自分ですら聞き取ることは難しかった。
(私、分かるわ。)
スネイプの気持ちを、ヨゼファは痛いほどに理解することが出来た。
(私だから分かるわ。)
二人は所詮同じものだった。同じ種類の毒だった。互いが毒だと言うことを知っていながら、舐め合うことを続けてきた。
(私だから……)
ただただ永遠に報われることがない、ふたつの孤独な魂だった。
* * *
床に散乱する自らの衣服の残骸を摘み上げ、ヨゼファは弱く頭を振った。
とても着れたものではない状態だ。……そして、今は時間が無かった。とりあえずすぐに身に付けられる衣服を、と杖で引き寄せられたのはクローゼットの中、一番上に畳まれて置かれていたひとつなぎの白いネグリジェだった。それを引っ掛け、ヨゼファはゆっくりと立ち上がる。
そして、スネイプの蒼白な顔を見下ろした。
その顔には暗い影が差し込み、表情を確認することができない。彼の顔を見るのが、今のヨゼファにはひどく恐ろしかった。一度だけその髪を撫で、柔らかい毛質にひとつだけキスをする。サイドテーブルに、伝言代わりをひとつと少し。
身体を綺麗にしてあげられなくてごめんと、ヨゼファは胸の内で呟いた。今は先を急ぐ必要がある。
室内を覆うスネイプの護りの魔術が薄利になっている箇所を探り出す。ほとんど気絶している彼に気が付かれぬように気配を殺し、指先の動きだけで。その場所をそっとなぞり…再三度、ベッドの上に寝かされたスネイプの意識が浮上してこないことを確認してから、彼女はそこを杖先で細く縦に傷付ける。裂け目に指を忍ばせ、広げ、まだ夜が明けきらない暗闇の校内へとそろりと踏み出した。
自身の寝室を抜け、大きな窓が取られた個人的な作業部屋…そうしてその先の、昨日の事件の現場である教室に至る。
深夜だった。誰一人としていないが、魔法で抉られた黒板や整えられていない机や椅子の数々が、昨日の混乱を如実に物語っていた。
テーブル、床へと、散らばっていた羊皮紙を杖先でひとつにまとめて整頓する。生徒たちがこの数週間取り組んでいた大きめの魔法陣である。昨日の授業で完成させて、次週に講評会の予定だった。
ヨゼファの授業はいつも、ひとつの課題の節目の講評会後にほんのささやかなお茶会をする。自分の講議より余程こちらの方が生徒たちにとっての楽しみであることをよくよく知っているから、毎度欠かさないでいた。
この週末はそのために、ホグズミードに焼き菓子の材料やカラフルなボンボンを買い出しに行くつもりだった。紅茶の葉っぱも…子供たちがよく好むチョコレートやイチゴが甘く香るものを用意して、彼らをがっかりさせないように準備は万端の筈である。しかしそれも、今はどうでも良いことなのだろう。
生徒たちがそれぞれに頭を捻り、苦労して作成してきた課題は完成されることはなく、中には引き裂かれて最早使用出来ない魔法陣も多かった。
床に、黒ずんだものが多く落ちていることに気が付く。なにかと思って膝を折って拾い上げようとすると、それは掌中でボロボロと崩れて再び床へと落とされていく。
教科書だった。見渡すと、教室のそこかしこに炭となった自身が記した書籍の残骸が残されている。
溜め息を吐いた。そうして大げさに、ゆっくりと首を振る。且つて、長い髪をばさりと切ってそれから伸ばさずにいたことは正解だった。頭を振っても髪が乱れて身体に絡まって来ることがない。洗うのも簡単。外気に晒された耳からは、嫌いな自分の声を淀みなく聞くことができた。
掌中に残る消し炭を軽く払い、ヨゼファは立ち上がって歩き出す。
教室の出入り口の鍵を解き、開く。更なる暗闇へと空間が繋がった。
魔法陣が構成できる広い床か壁を探さなくては…とヨゼファはぼんやりと考えていた。
今しがた、ダンブルドアとの連絡に使用していた銀盤にひとつの
住所が光の文字として浮かび上がった。どうやら彼はヨゼファが置かれた状況を預かり知っているらしい。
この部屋、この教室に魔法陣を構成することは出来なかった。きっとなにかの対策を取られている。ヨゼファの魔法の痕跡が魔法省の人間に認められるのは避けたい。そうしてヨゼファもまた、馴染み深い教室や自室にこれ以上いたくはなかった。
魔法陣は心の在り方に大きく作用される魔術である。この場で平静な気持ちで陣を構成出来るとは思えない。いくら遠くに逃げたいとはいえ、サハラ砂漠のど真ん中に出現したりする失敗はごめんだった。
また、陣を描くことなく中空に召喚させる魔術は肉体を消耗させる。限度があった。なるべく使用するのは控えたい。
冷たい石の廊下を裸足で歩きながら…ヨゼファは馴染んだホグワーツの景色の表面を視線でなぞる。彼女の足音は無い。無音だった。歩く度、その爪先に引き摺られた影が蠢き、石床の上に黒い魔術の痕跡を浮かび上がらせていく。
(あ、)
ツ、と脚の付け根から液体が伝うのを感覚した。
拭うものを持っていなかったので、それが床を汚す前に仕方なくネグリジェの裾で脚の内側から拭き取る。
シャワーを…浴びる暇がなかったから。
胎内に残されていた残滓によって汚された、寝間着の白い裾を見下ろす。今更ながら辱めとも言える行為の数々を思い返して、ヨゼファは惨めな気持ちになった。そうしてまた、歩き出す。
古めかしい扉の前で足を留める。色褪せた真鍮の取っ手をなぞると、パックリとそれは口を開け、ヨゼファを中へと
誘った。
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