ミケと気持ちの問題
並んで腰掛けていたユーリのウエストの辺りに腕を回して自分の方に引き寄せようとすると、彼女は小さく息を呑んだ。
構わずに自分の傍へと寄せようとするが、ユーリは思い通りにはならずに困惑したような表情をミケへと向けた。
なので彼もじっとその方を眺める。ユーリは愛想が滲んだ笑いを浮かべながら「えっと…」と困ったように言った。
「な……。な、ぁに?」
ユーリはドキマギ、と言う形容に打って付けの様子でミケへと尋ねる。
尋ねられた彼は少しの間を置いては「……………いや。」と応えた。
「特に用事は無い。」
「そ、そっか。…………うん。」
ユーリはミケの視線から逃げるように面を伏せて、二人の身体を遠ざけようとした。
勿論ミケは彼女を離すつもりは無かったので、二人の距離は隔たることは無かったが…年の離れた恋人のその行為は彼を多分に苛つかせた。
ミケはムッツリとしながら、「嫌なのか。」と呟く。
「俺に触れられるのは。」
「い、嫌じゃ無いよ……!全然、」
ユーリは弾かれたように顔を上げて弁明した。
…………彼女の顔は分かりやすいほどに赤くなっている。そのままでいると、触れ合った皮膚から早過ぎる脈音すら感じることが出来るほどに。
ミケはひとつ溜め息を吐き、「ああ、」と零して渋い顔をした。
「お前は一体何なんだ。……ようやく好きだと伝えてやったのに、ずっとこれだ。」
ミケの独り言のような呟きを聞いて、ユーリはまた顔を伏せる。
その際に、耳にかけさせてやっていた長い前髪が垂れて表情を隠した。間髪入れずに彼がそれを元の位置へと戻すが、ユーリはついによろよろとその顔を掌で覆ってしまった。
しかしそこから覗く耳や首筋まで赤く、腐ったような色をした傷跡までもが褐色じみて色付いていた。
腰を抱いていた腕を肩の方へと回し、宥めるように数回ほど軽く叩いてやる。そうして今一度その身体を自分の方へと寄せた。
ユーリは特に抵抗することは無かったが、それでも掌を顔で覆ったままだった。
「前まではなんて言うことは無かっただろう…。」
「うん………。ゴメン、でも…なんていうか………、っ」
ミケがユーリの首筋へと伸びていた痕に軽く唇を寄せるので、彼女の言葉はそこで途切れる。
ミケが顔を上げると、彼女もまた面を上げてこちらを眺めていた。所在無さげに青い瞳の色を滲ませ、眉は下がって大変情けない表情をしている。
彼はそのままでゆっくりとユーリの頬を撫でた。想像した通りにその皮膚は熱かった。暫しその温度に感じ入るようにしてから、彼は言い聞かせるように「どうすれば良いんだ…?」と尋ねた。
ユーリはその意味を分かりかねたのか、「え?」と小さく聞き返してくる。だからミケは今一度「俺は一体、どうすれば良い?」と言葉を繰り返した。
「好きだから、こちらも必死だ。」
真っ直ぐに見つめながらそう言えば、ユーリはより一層表情を情けなくさせながら首をゆるゆると横に振った。
そしてミケの方へと静かに身体を預け、彼の胸の辺りに顔を埋めた。受け止めるように、今度こそ彼女を抱き締める。
「良いよ…どうもしないで。」
ユーリは本当に小さな…消え入りそうな声で呟いた。
そして自分の顔の近く、ミケの胸の辺りの着衣をキュッと掴んでくる。
「大好き………」
彼女の告白を聴きながら、ミケはそろりと瞼を下ろした。
そうすると、いつもにも増して嗅覚が敏感になる。今そこで感じ取るのは、ユーリの気配ばかりだった。
診断メーカー様よりお題『受け止めてくれるのはあなただけ』お借りしました。clap
prev / next