朝、ジョゼはいつもより30分程早く学校に来た。
.....というのも、早朝に委員会の仕事があるジャンが一人で行けば良いものを、何故かジョゼを引きずって無理矢理一緒に登校し、今に至る訳である。
そんなに一人が嫌なのだろうか.....。少し可愛い。
まだ教室には誰もおらず、窓から差し込む光が空っぽの机や椅子を照らしていた。
誰も見ていないのを良い事に、大好きな人の机をそっと撫でる。
中身はきちんと整頓され、周りも綺麗だ。
少し躊躇った後、椅子に腰掛けてみる。
(......ここからだと私の後ろ姿が見えるのか....)
彼は....時々、目を向けてくれているのだろうか.....
(見ていてくれたら...嬉しいな....)
幸せな気分にひたりながら静謐な朝の光を体に受ける。
(これからも時々早く来てマルコの席に座ろうかな.....)
頬杖をつきながら、ぽつぽつと数を増やしてきた登校してくる生徒たちをぼんやりと見下ろしていると、その中にこの机の持ち主の姿が。
(......マルコだ....!)
彼の姿を見た途端、胸の奥がぎゅうと締め付けられた。
姿が目に入る、それだけで嬉しくて、本当に自分はマルコが好きなんだと実感する。
そして足取り軽やかに席を立ち、教室の外へと向かった。
そのまま廊下を走り抜け、階段を駆け降り、こちらに向かって来る彼の元まで一直線に行こう。今日一番最初のおはようを言いたい。
昨晩電話もしたけれど、やっぱり顔が直接見たかった。
だから.....今から会えるのが凄く楽しみだ。
......好きだなぁ、どうしようもなく。
*
「マルコ!」
階段の下にいた彼に声をかけると、笑顔でこちらを見上げてくれた。
それが嬉しくて階段を駆け下り、マルコの元に向かおうとするが、距離が縮まるにつれてその顔がしかめられていく。
そして彼の元に降り立った時にはなんとも綺麗な一本筋が眉間に寄せられていた。
「.........。」
「.........。」
しばらく二人は無言で見つめ合う。
あ....そうだ。この状況、何か覚えがあるぞ.....
「ジョゼ.....」
ようやくマルコが口を開いたかと思うと、額をべちりと叩かれる。
「.......!??」
軽い痛みが走ったそこを手で押さえ、嫌な予感をひしひしと感じながら彼を見た。
もう片方の手は逃げられない様にだろうか、しっかりと掴まれている。
「.....君は.....ほんっとにそういう所だけは全く変わってないね...」
「......そういう所....?」
「このスカート丈!もう少しで.......とにかく!短い!!」
「え....でも」
「口答えしない!」
「う」
再び叩かれる額部。
.....そうだ、思い出した。これは.....
「こんなの履いて、君には恥じらいと言うものが無いのかい!!」
で、出た.....。
こうなった彼の面倒臭さは半端では無いのだ。
逃げようとするが相変わらず片腕ががっちり掴まれていてそれは適わない。
「で、でも校則違反の長さではないよ....」
「そんなの関係無い」
「....もっと短い子は沢山いるよ....」
「よそはよそ。うちはうち。」
「これ以上丈は伸びないよ....!!」
「お金出すから作り直しなさい」
「そ、そこまで....!?そうだ、下に短パン履くよ。それなら.....」
「..........。」
そこでマルコは深く考え込む。彼の中で何かと何かが戦っている様だ。
「....僕の、美意識的に短パンは嫌なんだよ....」
「別に見えない所だから良いじゃない....。私としてはこれからの季節、折るなり切るなりしてもう少し丈を詰めたいのだけれど....」
「.....何言ってるの?」
「すみません....。」
「.........。」
「.........。」
再びマルコは何かを考え込む。
しばらくして、ぽつりと「どこらへんまで詰めるの」と零した。
ジョゼはその言葉を受けて、ウェストの部分をくるりと1、2回折ってみせる。腿の露出が先程よりやや広くなった。
「これ位かな」
「絶対駄目」
一刀両断の言葉が相応しい程ばっさりとジョゼの要望は却下された。
「でもこの丈結構暑いし「駄目ったら駄目」
「......分かったよ....じゃあこのままでいるよ....」
そう言いながらスカートを元に戻す。
「いや、伸ばしなさい」
「だから伸びないんだって....!」
「.....でも」
マルコの声が突然小さくなった。
何かと思って耳を寄せると、少し顔を赤くした彼がぼそぼそと口の中で言葉を呟いている。
「.....僕と二人きりの時...たまに短くして....」
ようやく聞き取った言葉に、ジョゼは何だか笑ってしまった。
「それ位お安い御用だよ」
「.....じゃあ今日、家に来ない....?」
「....今日?随分急だね。」
「....良いじゃないか、別に」
「君、何だかいやらしくなったね」
「そんな事ないよ!!」
叫んでしまった後、マルコはハッと辺りを見渡す。
始業時間が近付く校内はもう既に人で溢れていて、突然大声を出した彼は当然注目の的となった。
ジョゼは恥ずかしそうにしているマルコの肩を励ます様に叩き、先程まで掴まれていた手をやんわり解いてそのまま自分のものと繋いだ。
そうしてもう一度階段を登り出す。二人の教室へ向かって.....
「ジョゼ」
マルコはまだ少し罰が悪そうにしながら彼女の名を呼んだ。
「何?」
「......僕はね、いやらしくなった訳じゃないんだ....」
「分かっているよ。冗談だ」
「違う。そういう事じゃなくて....。僕はずっと昔からいやらしいままなんだ」
「.......え?」
「でもこの想いは僕の一方通行だったから....我慢しなくちゃって....」
そこでマルコは言葉を切り、隣を歩く彼女をひたと見つめた。
視線が持つ熱が体に染込む。ジョゼはたまらなくなって目を逸らした。
「今は....ジョゼも僕を想っていてくれてるから.....我慢しなくて、良いんだよね....?」
「......うん。いいよ....我慢しなくて。」
「そっか....そうだよね。....嬉しいな」
「.....じゃあスカートの丈を詰めても「それは駄目」
「.....はい。」
こうして並んで話をしながら歩く事が幸せで、遂々遠回りをして教室まで向かった。
案の定ゆっくりし過ぎて朝礼に遅刻した二人は、リヴァイ先生に出席簿の角で殴られた上に罰掃除を課せられる事になる....。
長月様のリクエストより
現代でも女の子の恥じらいが何たるかをマルコに怒られるで書かさせて頂きました。
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