「あ、明日から皆にどういう風に顔合わせればいいんだろう......!!」
水を飲んだジョゼは正気に戻ったらしい。
恥ずかしさのあまり宿舎から飛び出して物置の傍で頭を抱えてへたりこんだ。
「まー、自業自得じゃねえ?」
追いかけて来たジャンもその隣に腰を下ろした。
.....正直に言うと、先程不覚にもときめいてしまった自分がくやしかった。
「ううぅう....恥ずかしい...」
ぐったりするジョゼの髪が月の光に反射して淡く光っている。
ランプ無しではこの時間帯の視界は最悪だ。青白い月が弱々しい光を投げかけてくるばかりである。
「.....お前、アルミンの事本当に好きなのか?」
ふと、疑問に思った事を尋ねる。....別に...こいつが誰を好きだからどうというつもりはないが。いや本当に。
「.....そりゃあ好きよ。でも兄さんが考えている様な意味はきっとないよ....」
その答えにジャンはほうと息を吐く。どうやら酔いの勢いで言ってしまっただけの様だ。
「でも....皆の事、大好きなのは本当...。今までこんなに友達ができた事なかったから、遂嬉しくなって...それであんな事しちゃったのかも....」
ジョゼが反省した様に目を伏せる。
「そうだな....まぁ、あいつらもこれ位笑って許してくれるだろ....」
「本当...良い人ばかりで胸が痛いよ....。」
ジャンの肩にジョゼがぐったりと頭を預けた。髪の毛が首筋に当たってこそばゆい。
「あぁ....皆に迷惑かけた事ちゃんと謝らなきゃ....」
「お前ってつくづく律儀な奴だよな....」
「ねえ兄さん....」
「ん....」
「好きよ....」
「....さっき聞いたよ」
「違うの...これは特別。私はここに来て沢山の人を好きになったけれど、やっぱり兄さんは特別だから...。」
ジョゼは少し頬を赤くしながら言う。
あれだけ度数の高い酒で顔色ひとつ変えなかった癖に、こういう事はすぐに顔に出る。
「.......そうか」
「兄さんの事が大事で、大好きなの....。これだけはきっと、一生変わらない....。」
彼女の手が腕にそっと回る。そしてジョゼは自分の体をぴったりとジャンに寄せた。
(......少しでかくなったか....?いや...何考えてるんだオレ)
彼女は半分夢の中に居る様だ。ぼんやりと目は半分閉じられ、全身の力はくたりと抜けてしまっている。意識はしっかりしている様だが、やはりまだアルコールは抜け切っていないのだろう...。
安心しきって自分に体を預ける妹を見て、嬉しいと思うと同時に何だか悲しくなって来る。
今、この時点で確かにこいつにとってオレは特別な存在だろう....。それは間違えない。
ジョゼはオレの事を一番大事に思っているし、また一番好きな人物もオレだ....。
だけれど...いつか、こいつは別の奴を好きになってオレから離れていってしまう....。
その時が来るのがどうしようもなく嫌だ。
.....もう少し傍に居て欲しい。
.....もう少しだけ、お前の一番でいさせてくれよ.....
なあ、ジョゼ......
「兄さん」
ジョゼの囁く様な小さな声が耳元で聞こえる。
「ん.....」
「ありがとう....」
「何がだよ.....」
「.....ちょっと言いたくなっただけ」
「変な奴.....。」
自分にぴたりと寄り添うその肩をそっと抱き締める。
そしてゆっくりとその頬に唇を落とした。
柔らかく、明らかに男性とは違う皮膚の感触に少し驚く。
しかしジョゼはそれ以上に驚いている様だ。
今しがたキスをされた頬を押さえて、ぼんやりとしていた筈の目を見開いてこちらを見つめている。
「えっと.....兄さん.....」
言葉を紡ぐ度にその頬に朱が差していく。....何だかこっちも恥ずかしくなってきた。
「.......ちょっとやりたくなっただけだ....。気にすんな....。それにお前もエレンにしてたろ」
「う、うん.....。」
「.....嫌だったか....?」
そう尋ねればジョゼは小さく笑って首を振った。
(.......可愛い......。)
思わずもう一度口付ける。彼女の体はぴくりと震えた。
「オレもさ、お前が大事なんだよ....」
唇を離してから、ごく小さな声でそう呟く。
「.....もう、酔いは醒めたか....?」
「なんだか....また酔っぱらってしまったみたいだよ....」
「そうか....」
「だから、もう少しこのままでいたい....」
「あぁ、そうだな....」
ジョゼはまたオレの肩に頭を預けてきた。
その柔らかい髪をゆっくり撫でてやると気持ち良さそうに目を細める様が可愛らしい。
今はまだ、もう少しこのままで.....
「......あいつら愛し合ってんなー....」
物陰からこっそりと二人の様子を伺っていた面々のうちのコニーが呟く。
「馬鹿じゃないのコニー!兄妹同士でそれはあり得ない!」
マルコがそれに勢い良く反論した。
「マルコまでオレの事を馬鹿と....」
「....結局ジョゼの本命はジャンって事だな....ま、アホ同士お似合いなんじゃねえの?」
ユミルが呆れた様に息を吐いた。
「ちょっとユミル....それってもしかして禁断の...」
クリスタが頬を高揚させながら尋ねる。
「あいつの相手は女だったり実兄だったり色々とアブノーマルだな....」
「.....兄妹同士でも子供ってできるのか?」
ふとエレンが疑問に思った事を口にした。一瞬その場の空気がフリーズする。
「ちょっとエレン何考えて....「できない」
アルミンの弁明はミカサにより遮られた。
「おうミカサ、どうした怖い顔して」
「私がさせない。だからできない。」
ミカサは噛み殺しそうな視線を寄り添い合う二人に向けながら言い切る。
アルミンは背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「.......?そうか。まあここら辺にキャベツ畑は無えしな。」
「エレン....そういう問題じゃ....」
アルミンの口から引きつった笑いが漏れた。
頭上では、雲の裂け目から青い月の光が柔らかく辺りに降り注いでいる。
ジャンとジョゼが物陰に隠れてこちらの様子を見る面々に気付いて、ひどく慌てふためくまであと少し....
半是様のリクエストより。
お酒を飲んで性格が豹変する。そして104期メンバー。で書かせて頂きました。
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