「アッカーマン、お前の教室は隣だ....」
「........。」
「おい...聞こえねぇのか....」
「....ジョゼ、あの人何で怒ってるの?うるさい。」
「教師をあの人って言うな」
「ミカサ、教室戻らなくていいの...?リヴァイ先生も怖いしそろそろ帰った方が....」
「キルシュタインの言う通りだ。エレンも待っているからとっとと帰れ。」
「エレンが....。でも...今はジョゼから離れたく無い!....!そうだ....」
「おい、キルシュタインを持って帰ろうとするな。そいつはうちのクラスの生徒だ。」
「.....貴方に何の権限があってそんな事言うんです!」
「ここは学校で俺は教師でお前は生徒だ。命令に従え」
「.......チビ」
「あぁ!?」
.......ジョゼに記憶が戻ったと知ったミカサはずっとこんな調子である。
あの時の事、覚えている?私が貴方の事助けてあげた事、覚えている?ジョゼが私を抱き締めてくれた事、覚えている?と昼休み中はずっと質問攻めにあった。
そして五限が始まってからもジョゼを膝の上に乗せて、ただうっとりとその顔を眺め続けていた。
しかし丁度その時間は担任のリヴァイ先生の授業であった。
自分の授業を邪魔されるのを何より嫌う彼がミカサの侵入を許す筈は無く....今に至るのである。
「......ようやく出ていきやがった...おいジョゼ、ストーカーをうちのクラスに持ち込むんじゃねえ」
「はぁ、すみません....でも彼女ストーカーでは無いと思います...。一途なだけで...」
「お前も大概鈍感な奴だ....まあ何かされたらすぐ言えよ....」
警察事に発展する前にな、とリヴァイ先生はひとつ溜め息をついて授業を再会した。
斜め前の方でマルコが困った様な笑顔でこちらを振り返る。
目が合ったのがこそばゆくて、ジョゼも少しだけ目を細めた。
教室には午後の日差しが差し込み、うつらうつらしている生徒も数人いる。
....彼等は後でリヴァイ先生による手ひどい処罰が与えられるだろう....
穏やかだ.....
窓の外で棚引いている白雲は、上の方に黄金色の縁を取って、その影は灰色に見えている。
ジョゼはなんとも言えない幸せを感じながら、教科書に目を落とした。
*
「ね、ね、ジョゼってさぁ!結局マルコ君と付き合う事になったの?」
「......え?」
終礼後、掃除をしていると隣の席に座る例の彼女が話しかけて来た。
「だってさぁ、この前まであんなにぎくしゃくしてたのに何か良い感じだし。絶対なんかあったんでしょ?」
「えっと....付き合って...どうなのかな?」
....確かに好きだとお互い言い合った事は確かだが...付き合ってはいるのかな....どうなのだろう....。
「何よそれー。じゃあ手は繋いだ?あ、今朝遅刻してきた時に繋いでたよね。....じゃあキスは?」
「キっ......!!」
......思い出してしまう...。....あの時はどうにかしていた...!何であんな事平気で...!!!
ジョゼはモップを持ちながらへなへなと壁にもたれかかる。きっと今の自分はまたしても耳まで真っ赤だ。
「へ、もしかして...あんた...まさか」
「うぅ....ごめんなさい...!もう知らないよ....!!」
そのままモップを放り出してジョゼは走り去ってしまった。
「うわぁ.....マルコ君てもしかして...結構やる時はやるタイプなのね....」
彼女はジョゼが残して行ったモップを近くの男子生徒に押し付けながら呟いた。
「おい、何だよこれ...」
「ジョゼからの贈り物よ」
「え...ジョゼってあの怖い顔の....俺...なんかしたっけ....?」
「...可哀想だからそういう事言うのやめなさい....お、あれはマルコ君。」
マルコが何かを探す様にキョロキョロしている。
...恐らくジョゼを探しているのだろう。
「.....あんた、そのモップ片付けておいてね。」
「...え?何で俺が」
「はいよろしく。」
「おい!待てよ!」
彼女はマルコに近付く。彼の探し物の場所を教えてやらねば。
「マルコ君」
「あぁ君は....」
「そ、ジョゼの隣の席の。ジョゼなら顔真っ赤にしてどっか逃げて行っちゃったよ。」
「そうか、ありがとう....。でも何で顔を真っ赤に?」
「私はただあんた達二人が付き合ってるのか、あとはキスしたのか聞いただけなんだけど」
「....キっ!?君...何考えて..っ?」
「で、実際どうなの」
「へっ....」
「付き合ってるの?」
「いや...それはまだ...かな....?」
「じゃあキスしたの?」
「あっ....と、それは.....」
「もしかして....付き合ってもいないのに行為に及んだわけ?」
「行為ってそんな、人聞きの悪い!!僕はただ...」
「あぁ、やっぱりキスしたんだ。最低ね。」
「違うよ....!話を聞いてくれって....!」
「話をする相手を間違えてるわ。とっとと彼女を追いかけてあげなさい」
「え.....?」
「早く!走って!!」
「は、はい!!!」
廊下を駆けていくマルコを見ながら彼女は満足そうにひとつ頷いた。
あぁ何と言うか...見てるこっちが恥ずかしくなるなぁ、あの二人。
でも良かった...。なんだかんだ言って幸せそうじゃん。うん、友人として応援してやらねば。
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