「.....マルコ君、どうしたんですか....?」
少し震える声でジョゼは尋ねる。
嬉しかった。....どんな事務的な用事であれ、彼の声が聞けた事が涙が出そうになる程嬉しかった。
『......具合は、もう平気?』
少し低くて優しい声だ。自分を労ってくれる言葉が胸に沁みる。
「はい...もう熱も引きました。いつも通りに戻ったと思います....。」
『それは良かった。昨日は急に教室から出て行っちゃったから心配したよ。』
「そうですね....。でももう大丈夫です....ありがとうございます。」
いつも通りの声色で、普通に接して来てくれる....。
それだけでジョゼの胸を一杯にするには充分だった。
『ねえジョゼ.....』
マルコの声が少し静かになる。.....向こうも緊張している様だ。
『窓の外、見てみてくれるかな....』
「え.....?」
言われるがままに自室の窓に近付いて辺りを見回す。
「え.......!?」
いつもと変わらない夜空、いつもと変わらない街並、しかしひとつだけこの風景の中で初めて見るものが....
「.....マルコ君...!」
電話を耳に当てたままその名前を呼ぶ。
彼は二階にあるジョゼの部屋を見上げながら手を挙げて、笑った。
『.....こんばんは。』
視線の先にいる彼の口の動きに合わせて、電話から声が聞こえる。
「.....どうしてここに....?」
『後で説明するよ....。良かったら降りて来てもらっても良い?
勿論体調が悪かったら無理しなくても良いけれど....』
「.....無理じゃありません...!すぐ行きますから....!」
ジョゼは涙が溢れそうになるのを必死でこらえた。
何日かぶりに、お互いの目をしっかり見つめ合いながら話せる....それだけで幸せだったのだ。
『.....分かった。温かくして来るんだよ....。』
「はい...。」
『それじゃあ....待ってるから....』
そこで電話は切れた。
道路の向こうに立つマルコに視線を寄越すともう一度手を挙げて笑いかけてくれる。
ジョゼはそれに微笑み返すと、椅子にかけてあったカーディガンを羽織り、家の玄関に向かって歩き始めた。
*
「マルコ君...!びっくりしました....」
「驚かせてごめんね。....何だか心配で...居ても立ってもいられなくて....」
「....わざわざありがとうございます...。嬉しいです....。」
ジョゼはそっとマルコの手を取る。彼もまた少し照れくさそうに笑った。
「ねえジョゼ、少し場所を移動しても良いかな?ここだとジャンに見つかる可能性がある...。」
病み上がりの君を連れ出したとなると怒られそうだ、とマルコは少し肩をすくめてみせる。
ジョゼは反対する理由もなかったので首を縦に降って承諾の意を表した。
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