それから大分年月が経つが、相変わらずオレとジャンは仲が悪く、ジャンとジョゼは仲が良い。
ジョゼはミカサと親友になり、オレ達は話す機会も大分増えた。
前と比べると少し表情を表に出す様になってくれたが....やはりジャンと二人で居る時とは違う。
そんなに大きな変化では無いのだが.....何故それがこんなに気に入らないのだろう....
*
ある夏の日の夜、ジャンとジョゼがのんびりと外を歩いているのを目撃した。
空は銀砂を散らした様な星空で、二人のグレーの頭髪は綺麗にその色を反射している。
特に、褐色じみたジャンのものに対してやや色素の薄いジョゼのグレーは本当に星と同じ色で綺麗だ。
二人を取り巻く空気があまりに穏やかだったので.....オレは何故か不穏な胸騒ぎを覚えて、そっと二人との距離を詰めた。
近付いてみると何やら星の話をしているのが聞こえた。
顔が怖いとはいえジョゼは女の子だ。そういう話は好きなのだろう。
.....あ....ジャンがジョゼの頭を撫でた....。
ジョゼの表情が優しくなっていくのが分かる。
その何とも言えない淡い微笑みは....またしてもオレの胸を締め付ける。
ジャンもジャンだ。何でこんな時に限って普段とは比べ物にならない位優しそうな顔してんだよ.....。
お前がもしも本当にジョゼに対してひどい事しかしてなかったら....今すぐにでもお前の隣から掻っ攫ってやるのに....
それじゃあ何もできないじゃねえか.....!
「やっぱり兄さんは優しいね。」
ジョゼが囁く声が聞こえる。.....やめてくれ。
「....私は兄さんのことがとても好き....。これだけは本当の事だから....」
何故そこで普通の女の子みたいに恥じらうんだ...
......そんな顔.....お前と一番仲が良いミカサにも見せたこと無かったじゃねえか....
二人はそっと手を握り合うと、ゆっくりとまた歩き出した。
取り留めの無い話をしながら、緩やかな夜の空気の中を....
その後ろ姿を眺めていると何だかたまらなくなってしまい、オレはその場を離れた。
きっとオレは....ジャンが羨ましかったのだ....。
.....オレ達にだって...オレにだって....ああいう風に笑いかけて欲しい。
ジョゼは誰にだって優しい。
それでも、やっぱり彼女の中でジャンは特別なんだ。きっと誰もあの二人の世界へは入って行けない。
なんでよりによって....オレが一番嫌いなジャンなんだ....。
溜め息をひとつつく。今日はもう何も考えたく無かった。
『本当は優しい人だから....』
いつかのジョゼの言葉を思い出す。
あぁ....オレだって寝食を共にした生活の中で、ジャンがそこまで悪い奴ではないと少しずつ理解してきたよ....
でもな、ジョゼ、お前だからなんだよ....。
お前だから、ジャンは優しい。ジョゼも同じ様にあいつの特別なんだ....。
この事実が何でここまでオレを重たい気持ちにするのかは相変わらず分からない。
「つまんねぇ...」
足下の石を軽く蹴飛ばす。からからと音を立ててそれは土手を下って行った。
空を見上げると、夏独特の温い空気の中で強く光る星たちが見える。
とりあえずオレは、あの星にジャンが箪笥の角に小指でもぶつける様に祈るしか無いのだった。
「オレの前でも....もっと笑ってくれよジョゼ.....」
その呟きは群青色の空気の中に静かに消えていった。
.....どこかで虫の鳴く声がする。
きっと命を焦がしながら、精一杯胸の内を叫んでいるのだろう....
宮村様のリクエストより。
エレンVSジャンで書かせて頂きました。
後編はジャンとマルコと白い封筒の手紙の裏話になります。
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