「うわ、電話帳の中身少なっ。流石ジョゼ、期待を裏切らない友達の少なさだね」
「.....ベルトルトさん....携帯電話返して下さい。
休み時間にわざわざ1年生の教室にまで来て何してるんですか....」
「何、来ちゃいけないの。僕すっごく傷付いた」
「..........。」
「へぇ、生意気にも男のアドレスが....と思ったけどやっぱりジャンとマルコ、エレン、アルミンだけか....
まぁそりゃそうだよね。ジョゼだし。」
「..........。」
「可哀想だから僕のアドレスも入れといてあげるね。ほらどうしたの、泣いて喜びなよ」
「..........。」
「ベルトルト.....ジョゼが出土したばかりの埴輪みたいな顔になってるぞ....その位にしておいてやれ....」
「ライナーさん....この人は一体何なんですか.....」
「......普段はここまで調子に乗ってないんだがな.....まぁ何だ、厄介な奴に気に入られたと思って諦めろ」
「早く連れて帰って下さいよ.....彼と話すと精神が著しく摩耗します....」
「.....今日はアニが休みだからな....色々と好き勝手やっているんだ...堪えてやってくれ....」
遠目から見て、身長が190cm台、180cm台、170cm台の三人組というのはかなり目立つものだ。
クラスメイト達は遠巻きに彼等を見守っている。
.....この数週間で、ジョゼは随分学校に馴染んできたと思う。
ジャンとは勿論、エレン、ミカサ、アルミンともまだ固い口調ではあるが段々と会話をしている姿を見かける様になったし、更に上級生3人も何かとジョゼに構いたがり、こうして毎日の様に教室に訪れては軽口を叩き合っている。(ベルトルト以外の二人は彼の牽制役として機能している面が大きいが....)
彼等と話すジョゼの様子から、クラスメイト達も彼女が外見程恐ろしい人物では無いと少しずつ理解してきた様で、話しかけたそうにしている人物の気配もちらほらと感じる。
そう、全ては順調.....
では、僕はどうなのだろう......
二人で帰ったあの日から、彼女は何故か僕を避けるのだ.....
*
「で、どう思う....?」
「で、と言われてもなぁ....」
ジャンは雑誌を捲りながら興味無さそうに相槌を打った。
「真面目に聞いてよ...!僕にとっては人生を揺るがす一大事なんだよ!?」
「分かった分かった....ムキになんなって....」
声を少し荒げるとジャンはようやく雑誌を閉じて僕の方へ向き直った。
「勘違いってことは無いのか?あいつはそんなにお前の事、嫌っている風には見えないが....」
「僕だってそう思いたいよ.....でも目は合わせてくれないし、話しかけると逃げちゃうし.....
この前廊下でばったり鉢合わせた時なんか、来た道と逆方向へ一目散に走っていっちゃったんだよ....!?」
「あー、泣くなよ気持ち悪い....」
「泣いてなんかないよ!」
「まぁ....お前はそれだけでかいショックを以前あいつに与えちまったって訳だ....
....避けられても仕方無いんじゃねえか?」
頬杖をつきながらジャンが放ったその言葉は僕の心に鈍く響いた。
「じゃあ....どうすればいいのさ....」
正直もう自分の身の振り方がさっぱり分からない。
.....これ以上関係を悪化させたくない....でもこのままは絶対に嫌だ....どうすれば君は...
「オレが知るかよ....」
ジャンが溜め息をひとつ吐いた。
「そうだな....あいつはお前と居ると何か不安定になるみたいだから.......
とりあえずできるだけ安心させられる様に....一緒にいる時間をなるべく増やして....あ、無理か。お前今あいつに避けられてるもんな。」
ジャンの鋭い真実の刃が僕の胸を抉る。
.....彼の発言にここまでこてんぱんにヘコまされるとは思っていなかった.....
「はー、君は良いよなぁ....記憶が無いこっちの世界でも兄の立場を利用してジョゼに懐かれて...」
「いーだろう。ちなみにあいつは家だと驚く程抱きつき癖があるんだぜ」
「えっ」
「あー、後こっちでは筋肉が減った分胸がでかくなったな....」
「ぶはっ」
「汚っ。人の机に吹き出すなよ....」
「な、なんで君がそんな事....」
「おぉ、つい最近、というかお前ら二人が一緒に帰った日に抱きつかれたからなぁ....まぁ不可抗力だ」
「あー....羨ましい....」
「お前正直になったよなぁ.....」
「とりあえず君は禁固刑100億万年。羨まし過ぎ。」
「......どこに?」
「ライナーの家」
「それライナーが可哀想過ぎるだろ....」
「はぁー、僕なんて二回しか抱き合った事無いのに.....」
「......待て、ガス補給室での一回は覚えているが、もう一回はいつだ。詳しく話せ。」
「絶対嫌だ。君みたいな下世話な男に僕達の清らかな思い出を汚させるものか。」
「おいマルコ!ちょっと待てって!!」
*
『......とりあえず今日は二人で帰ってみろ....。断られてもめげないで誘えよ。
......話し合わなくちゃ何も始まらねぇからな....。』
ジャンに背中を押されてそわそわと放課後を待つ事数時間。
ようやく終礼が終わり、皆ぞろぞろと帰るなり部活動へ行くなり思い思いの行動を始めた。
「ジョゼ」
帰る準備を始めていた彼女に声をかけると、案の定その肩は小さくはねる。
「一緒に帰らない?」
ひとつ深呼吸をしてなるべく明るい表情で誘ってみた。
「.....マ、マルコ君...」
しかし、ジョゼは困った様に眉を下げる。
その表情も、目を合わせない様に下を向く仕草も、全てが僕の胸の内をひどく切なくさせた。
「で、でももしかしたら私....今日掃除当番かもしれません...」
「大丈夫。君の班は当番じゃないよ。」
「それじゃあ....皆も誘って....」
「いや、二人で帰ろう。」
「.....!せめて兄さんと....」
「君と二人で帰りたいんだ。駄目かな?」
ジョゼという女性は外見に反してお人好しで....人を傷付ける事を嫌う。
.....つまり、押しに弱いのだ。
卑怯な手かもしれないが、使わせてもらう。僕は絶対に君を失う訳には行かないんだ.....
僕の言葉に、ジョゼは弱々しく首を横に振って了承の意を表す。
ひとまず第一関門突破だ、と僕はほっと息をついた。
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