「ふふ」
浴槽の縁に身を預けながらジョゼが小さく笑った。
「どうしたの」
そのすぐ傍で体を洗っていたマルコが不思議そうに尋ねる。
「いや....訓練兵の時に男性用の浴場で君と鉢合わせた時の事をね....思い出していたんだ」
足が伸ばせない程狭いバスタブはとても窮屈そうだ。
しかし彼女は気にした様子は無く、気持ち良さそうに半分目を閉じている。
「あぁ、覚えてるよ。.....君は真面目そうに見えて突飛な事を仕出かすから、僕はいつも冷や冷やさせられてた....」
「そうかな」
「そうだよ。ちょっとは反省しなさい」
マルコは軽くしゃがんで浴槽の中のジョゼと視線を合わそうとした。
しかし彼女は未だ目を半分閉じて極楽気分に浸っているのでそれは適わない。
ので、その頬を軽くつねって自分の存在に気付かせる。
「.....反省しました....」
ジョゼがようやく目を開けてこちらを見る。
「ならよろしい」
にこりと笑って手を離した。すると今度は彼女がマルコの頬の辺りを触ってくる。
「な.....なに.....?」
触るのは好きでよくするけれど、触られるのは未だに慣れない。いつもどきどきしてしまう。
「.....今度入った新兵で...昔のマルコに良く似た雀斑の子がいるんだ....」
「そっか....君も分隊長だもんね....」
「ううん、分隊長は兄さん。私は補佐だよ」
「その雀斑の子はよくやってる....?」
「うん。すごく真面目だよ....。何だか私は...雀斑というだけで遂々贔屓してしまいそうになるんだ....。」
「ジョゼは雀斑の子が好きだね。.....だから僕と結婚したの?」
「違うよ。君が好きだから結婚したんだよ....。雀斑好きも君の所為だ....。ほんと、随分と私は重傷だと思うよ」
ジョゼはそっとマルコの首に腕を回して頬を寄せる。
彼女の体は程よく温まっていて、包まれるととても心地よい。
.....そして、何より柔らかい。もう、訓練兵の時の様に悩む必要は無い....。思う存分彼女の体を感じれば良い。
だって.....僕等は夫婦なんだから......。
「ジョゼ」
マルコは幸せを噛み締めながらその名を呼んだ。
「交代しよう。」
「.....一人ずつしか入れないのも考えものだね。早く広いお風呂がある家に住みたいよ....」
「それはお互いの稼ぎに期待するしかないね....」
「......頑張ります」
彼女の唇にひとつキスを落として立ち上がる。
ジョゼも一緒に浴槽から身を起こし、二人の視線は先程より高い位置でもう一度合った。
何だかそれがおかしくてくすりと笑うと、今度はジョゼが軽くキスをしてきた。
「どうぞ、マルコ」
そう言って彼女は何でも無い風に浴槽を薦める。
恋人時代は何をしても赤くなっていた癖に、変に余裕が出て来たのが少し癪に触った。
*
「.....そんなに見つめられると洗えないよ」
ジョゼが風呂用の椅子に腰掛けながら困った様にこちらを見る。
腕で胸を隠そうとする仕草が何ともたまらない。.....そそるなぁ。
「いいじゃないか。もっとあられもないジョゼの姿を僕は「.....そういうのはいいから.....!」
慌ててマルコの口を塞ごうとする彼女の耳は赤い。...良かった。まだこういう所も残っている様だ。
「.....今日は随分帰りが遅かったね。どうしたの?また残業?」
これ以上ジョゼを困らせるのも可哀想なので話題を変えてやる。
「ううん。ハンジさんと話をしてたら気付いたらこんな時間に....」
ジョゼは腕の辺りを洗いながら答えてくれた。
「またかい?....あの人に捕まると面倒だから気をつけなさいって言っただろう?」
「.....でも私、ハンジさんの話嫌いじゃないから....」
「.....ジョゼはほんと変人と相性が良いよね....」
「.....じゃあマルコも変人かな....」
脇腹を洗う為に少し腕を持ち上げながら彼女が呟く。
ジョゼが体を洗う中で、脇の下が少し見えるこの姿勢がマルコは一番好きだった。
少し伏せられた目も相まって、すごく女性らしいと思う。
「....?どういう意味」
「相性良いでしょう、私たち」
泡がついたスポンジを持つ手を止めて彼女がこちらを向く。
まるで今日のご飯はハンバーグだよ、という位自然に発せられたその言葉がすごく嬉しかった。
「そうだね....。良い。すごく良いと思う。」
「私もそう思う。」
ジョゼは淡く微笑んで体を洗うのを再開する。白い肌は今はすっかり泡に覆われていた。
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