今日は実に良い天気だ。
昼食後に、抜ける様な青空の下でベンチに腰掛けて空を見上げていると、頭上に陰りができた。
「......相変わらず怖え顔してんな....」
「ひどいなぁ.....」
双子の妹、ジョゼがオレの顔を覗き込んでいた。
無表情にして無愛想、目付きの悪さは天下一品の凶悪面、それがオレの妹ジョゼ・キルシュタインだ。
その顔が人々に与えた誤解は数え知れない。
オレ自身も人相が良い方では無いが、こいつに比べたらまだマシだと思う。
「何か用か」
ジョゼの顔を見上げながら問う。
「ううん。兄さんの姿が見えたから遂」
分からない程微かに微笑んでジョゼはオレの隣に腰掛けた。
昔はもう少し喜怒哀楽がはっきりしていた様に思えるが、ジョゼの表情はとにかく分かりにくい。
それでもオレにはこいつが何を考えているか大体理解できる。
少し前まではオレしかジョゼの表情の変化が分からなかったんだが...
訓練兵になってからというもの、ジョゼの事を理解できる人間が大分増えた。
人相の悪さに見え隠れする優しさとか...結構努力家な事とか....意外と整った顔(オレに似て)をしている所とか...
友人たちに囲まれているジョゼはとても幸せそうだ。
.....それが少し寂しい事は誰にも言えない。オレだけの秘密だ。
しばらく二人で空をぼんやりと眺めていた。
今も壁の外では巨人が歩き回っていることが信じられない位平和を感じる。
「平和だなー」思わずそれを口にしてしまう。
「うん....」
「......鳥だ」
空を渡り鳥が編成を組んでゆったりと飛んでいる。
白い羽毛に茶色の斑点がちらちらと見えて雪解けの大地の様だ。
「鴫だね。壁より北で産まれて逆に冬は南で越すから....見れるのは移動している今の時期だけだよ....」
「......ほー、食えるのか」
「うん。卵も美味しいらしいよ....兄さん、お腹減ってるの....?」
「あぁ....石でも投げれば一匹位獲れるかな....」
「さっきお昼食べたばかりじゃない...」
「万年食糧難の御時世だ....腹はいつだって空いてるぜ....」
そう言いながらごろりと横に体を倒してジョゼの膝に頭を乗せた。
ジョゼは驚く素振りもせずそれを受け入れながら「それは難儀だね....」と苦笑した。
またしばらくオレ達は無言となって空を見上げた。
ジョゼは無意識にオレの頭をやわやわと撫でている。髪が鋤かれる感触が心地良い。
「兄さん」
ジョゼがゆっくりと視線を空からオレへと移した。
「何かお話をして」
そう言って少し恥ずかしそうに微笑む。
この『話をして』は文面通りの意味も含むが、こいつの『甘えたい』のサインでもある。
不器用で甘え下手だったこの妹は、昔から不安なとき、楽しいとき、悲しいとき、幸せなとき、折に触れてはこう言ってオレの傍に寄って来た。
この一言はオレ達兄妹二人の間だけで通じる合い言葉の様な物だ。
「お前は昔っから本当に甘えただな.....」
呆れた様な声色を作るが満更でもない.....むしろ結構嬉しい。
「だって....そんな事....」
ジョゼが罰が悪そうに目をそらす。
何だか可愛らしくなってしまい、両手でその顔を包んで無理矢理こっちを向かせた。
「いーって。お前は幾つになったってオレの妹なんだから」
そう言ってにっと笑う。ジョゼの顔はほんのりと色付いていた。
「兄さん....」
ジョゼは嬉しそうに笑うと自分の額をオレの顔に寄せた。互いの額がこつんとぶつかる。
ジョゼの顔ごしに見た空には鴫の第二陣がゆったりと気持ち良さそうに青空を舞っていた。
――――――
「.......どう思う...?」
「.....どう思うと言われても.....マルコ、足震えてるよ、大丈夫?」
「あいつ等仲良いな....ジョゼはジャンの何処がそんなに良いんだ?」
「エレンといる時のジャンは殊更憎たらしいからね.....」
「.....私だって膝枕はまだだったのに.....!あいつは一体ジョゼの何のつもりなの.....!」
「いや、兄貴だろ。」
「兄と言う割には仲良すぎだろう.....本当にただの兄妹なのか....?」
「あぁマルコ、今度は手が震えてるよ....
ミカサはさっきから手当り次第に草を毟らない!ここら辺一体が禿げ山になってしまうよ!」
「なに?お兄さんになればあの子に膝枕してもらえるの?ちょっと生まれ変わって来るね」
「ベルトルト、因果レベルの事を近所のコンビニ行く様な気軽さで言わないでよ」
「なんか鴫が美味い....とか獲る....とか聞こえました!是非あやかりたいです!」
「サシャは話がややこしくなるから帰って!」
アルミンの突っ込みが秋の澄んだ空に響き渡っていましたとさ。
しろくま。様のリクエストより。
ジャンとのスキンシップにお前ら本当にただの兄妹…?!となる104期生を書かせて頂きました。
[back]