アルミンの作戦を聞く
「あったぞ!憲兵団管轄の品だ。埃をかぶっていやがるが.....」
ジャン達が倉庫から銃を見つけ出して帰ってきた。
その手には重そうな木箱が抱えられている。
「弾は本当に散弾でいいのか...?そもそもこの鉄砲は....巨人相手に役に立つのか....?」
銃を整備しながらジャンはアルミンに尋ねた。
今より、補給室に群がる8体の巨人を倒してガスを取り戻すのだ。
アルミンの作戦説明はこうだ。
大勢で中央の天井からぶら下がるリフトに乗り込み、巨人をひきつける。
次にリフト上の人間が8体の巨人それぞれの顔に発砲、視覚を奪う。
そして天井に隠れてた8人が発砲のタイミングに合わせてうなじに切りかかる...
「この作戦では一回のみの攻撃にすべてを....全員の命を懸けることになる。
8人が8体の巨人を一撃で同時に仕留めてもらうための作戦なんだ。
運動能力的に最も成功率の高そうな8人にやってもらうけど....
全員の命を背負わせてしまって....その....ごめん。」
アルミンが申し訳なさそうに言った。
「問題ないね」ライナーが元気づける様に答える。
「誰がやっても失敗すれば全員死ぬ。リスクは同じだ...」アニもそれに同調した。
「ちょっと待て」
しかし、収束しかけていた場にジャンの声が響いた。
皆訝しげにジャンを見る。
「なんでこいつも8人の中に含まれてんだ」そう言ってジョゼの方へ視線をやる。
皆の視線もジャンからジョゼへ移動した。
「?妥当だと思うが....」アニが眉をひそめる。
「ジャン、妹の事が心配なのは分かるがジョゼの成績はお前と同着だぞ?
実力は充分足りているだろう」ライナーもジャンを説得する様に言った。
「まぁなんせ精密動作性no.1だからな」
「コニー、なんかの商品みたいに言ったら可哀想ですよ」
「いや、でもよ....」ジャンの口調はいつになく歯切れが悪い。
ライナーの言う通り、ジャンはジョゼを危険な目に合わせたくなかった。
どこに行っても安全な場所等無いのは分かり切っているが、
それでも、少しでもジョゼを死の危険から遠ざけたかった。
(もしこいつが死んじまう事があったら....)
それを考えるだけで脊髄から脳へ悪寒がせり上がって来る。
そうしたらきっと自分自身を許せないだろう。
ずっと一緒に生きてきた双子だ。彼女を失う事は自己の半身を失う事と同じ意味を持っていた。
ジョゼの方へちらと視線をよこすと、痛い程澄んだ瞳と目が合う。
あまりにも真っ直ぐこちらを見つめてくるので、目をそらす事ができなかった。
『ジョゼがどれだけ努力してきたかは君が一番知ってるはずだろ?
少しはその力を信頼してやったらどうだい。』
いつかのマルコの言葉がその視線と重なる。
「ジョゼ.....できるのか....?」ジャンが恐る恐る尋ねた。
「.....分からない....」
「え....」
「でも、兄さんが私の事を信じて任せてくれるなら....必ずその信頼に応えてみせる。」
ジョゼの静かな声は、ゆるやかにその場の空気へ沈んで行った。
ジャンの脳裏に、ふと二人で歩いた夕焼けの訓練場の景色が浮かぶ。
(そうだ....こいつはいつだって努力してきて....オレはずっと傍でそれを見てきたじゃねぇか.....)
(オレがこいつの力を信頼してやらないでどうするんだ....!)
「ジョゼ、絶対に....成功させろ.....懸かってるのはお前の命だけじゃねーんだ.....」
ジャンがゆっくりと口を開いた。
「....うん」
「.....行くぞ、ジョゼ」
ジャンが覚悟を決めた様に言う。
ジョゼもそれに従い、二人は並んで歩き出した。
「やれやれ....頼もしい事だ...」ライナーが呟く。
皆ジャン達に付いて補給室へ次々と向かい始めた。
「けどよ....立体起動装置も無しで巨人を仕留めきれるか?」
「いけるさ!相手は3〜4m級だ。的となる急所は狙いやすい」
「あぁ....大きさに拘らず頭より下、うなじにかけての」
「縦1m幅10cm!」
「もしくはこいつを奴らのケツにブチ込む!!弱点はこの2つのみ!!」
ライナーが自分の刃を握りながらそう言った。
「!!知らなかった!!そんな手があったのか!!」
「私も今初めて知りました....」
「二人とも講義で寝ちゃうからこんな大事なことを聞き逃すんだよ」
「だからお前はいちいち適当な事を言うんじゃねぇ....」
補給室奪還作戦が、今始まる。
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