ジャンを助ける
本部には大勢の巨人が群がっていた。その光景にジャンとジョゼは青ざめる。
(本部に近づく事さえできない....犠牲を覚悟しない限りは....)
固まっていた二人の耳に、つんざく様な悲鳴が鳴り響いた。
「うあああああああああああ!!!」
「....!?」
その方向へ視線を向けると、一人の兵士が巨人に囲まれていた。
(まずい!!あいつ...ガス切れだ!!)
しかしどうする事もできずその兵士は巨人に囲まれ、食われて行く。
「トム!!今助けるぞ!!」
数名の兵士が彼を助けようと立体起動装置を吹かす。
「よせ!!もう無理だ!!」
制止の声も虚しく彼等は巨人に捕まった。肉をごりごりとむさぼる音があたりに響く。
―――皆、あまりにむごい現実に恐怖した。
「今だッ!!!」
その時、硬直していた場にジャンの声が響いた。
「巨人が少しでもあそこに集中しているスキに本部に突っ込め!!」
(兄さん......!!)
ジョゼが先ほど考えていたそれとは、これのことだったのだ。
無事全員で塔にたどり着く事は不可能だ。ならば、誰かを犠牲にしてそれを乗り越えて行くしかない......
ジャンの声に導かれ、次々に兵士たちが本部へ向かってガスを吹かした。
(兄さんには....人の心を動かす力がある....)
現にジョゼはジャンに動かされて、ここにいる。
(貴方の力になりたいから......)
*
高速で家並みを駆け抜けていたその瞬間、ジャンの足が巨人に掴まれた。
「兄さん!!!!!!!!!」
ジョゼは生まれて初めて出す様な大声を出した。
しかし、次の一瞬で思考は急速に冷却されていく。
ジョゼは絶対に狙いをはずさない。
巨人の指を正確に切り落とし、ジャンをそこから引っぱり出した。
「悪い....」
ジャンはジョゼに礼を言った。
「無事で.......良かった..........」
ジョゼは肩で浅く呼吸をしている。その目には涙が滲んでいた。
(駄目だ!まだ泣かない.....!!)
そうして涙を袖で乱暴に拭うと再び立体起動のガスを吹かした。
*
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
雄叫びを上げて本部の窓から中へ次々と兵士たちがなだれ込んだ。
「何人....たどり着いた....?仲間の死を利用して.....オレの合図で何人....死んだ?」
ジャンは頭を抱え込む。
自分の指示で仲間を見殺しにしてしまった罪の意識に押しつぶされそうだった。
「兄さん」
ふと、近くでジョゼの声がした。その見知った声が今はとても懐かしく思える。
ジョゼは頭に当てられたジャンの手を緩やかにほどき、そのまま握りしめた。
「....兄さん、私も、貴方と同じ事を考えた。」
「....え」
「でも勇気がなくて実行できなかった.....結局、私はまだ甘えを捨て切れていない.....」
ジョゼが心底悔しそうに唇を噛んだ。手に力がこもる。
「兄さんには、それができた.....!!気にするな、というのは無理かもしれない.....
私に、こんな事を言う資格はないかもしれない.....でも、せめてその重みを、一緒に背負わせて欲しい.....!」
眼前にはよく見知った、自分と似た顔がある.....
ただ、昔から一緒にいた小さい泣き虫な妹の姿はもう無かった。
鋭い双眸をこちらへ向けてくるのは紛れも無い一人の女性だ。
まるで彼女が知らない人のような錯覚を覚えてしまい、ジャンは戸惑った。
「ジョゼ.....」
「兄さん、行こう。」
ジャンの手を握ったままジョゼは歩き出した。
繋いだ手と手の温もりが、緊迫したこの状況で場違いな程優しく感じた。
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