「……………………………。」
目を覚ますと、自分とそっくりの顔がこちらを覗き込んでいた。
「おお…………。」
一拍開けて、間抜けな反応をされる。声を上げたいのはこっちだというのに。
「……良かった。魘されてたから少し心配したんだよ。」
そう言いながら、ジョゼはオレの隣……真っ赤に紅葉したケヤキの根元に腰を下ろす。
その間隔はぴったりとしていて、軽く互いの肩口が触れ合った。
「もうすぐ夕飯だよ。……そろそろ行かないと……サシャに兄さんの分、とられちゃう。」
ゆっくりと落ちてくる葉っぱを一枚空中でキャッチしたジョゼが、呟くように言う。
「………………誰の分が、とられるって?」
まだぼんやりする頭で尋ね返すと、ジョゼはこちらを見て数度瞬きをした後に「えっと……兄さんの分。」とオレのことを指差した。
「…………その兄さんとは、オレのことか?」
「今目の前にいる兄さん以外には私に兄さんはいないよ………。」
「…………そっか。そりゃあ……そうだよな。」
ジョゼの解答を聞いて、一気に脱力する。どうやら本当に悪い夢を見ていたらしい。
覚めてくれたことに心底ほっとした。
「ああ……もう。」
うんざりと溜め息を吐きながら、隣に座るジョゼの頬を軽くつねる。
彼女はつねられた状態でしばらくこちらを見つめてから、「…………何を」と若干戸惑ったようにした。
「いや……なんでもねえよ……。それより、もう一度オレのことを呼んでくれ。」
「ん……。なんで?」
「なんでも良いからさ……ほら、呼べ。」
「…………。分かったよ。兄さん。」
「もう一度だ。」
「兄さん。」
「………うん。」
「もう一回、呼ぶ?」
「ああ、頼む。」
「……………兄さん。」
「…………………………。ありがとな。」
ジョゼに三回自分のことを呼ばせたあとに、礼を言って立ち上がる。
オレに掌を握られていたジョゼも一緒に腰を上げた。
…………彼女は不思議そうにこちらを眺めている。どうもいつもと具合が異なることを感じ取っているのだろう。
「夕飯、行こうぜ。」
空いている方の手でくしゃりと髪を撫でてやると、唇の端を少し持ち上げて嬉しそうにしてくれる。
微かな表情の変化が、今はとても嬉しかった。
それから手を繋いだまま、オレ達はのんびりと食堂までの道を辿る。
夢の中と同じように、夕日がこちらに最後の光を投げ掛けていた。
そしてやがて……辺りには青い闇が広がるが……もう、あの時みたいにやるせない気持ちにはならなかった。
のえる様のリクエストより
ベルトルトがお兄ちゃんポジションになってジャンが奮闘するお話で書かせて頂きました。
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