「あれ……………。」
調査兵が、ディモ・リーブス氏を殺害したとの容疑がかけられ身を隠す様になってすぐのある日………ジョゼの元に、人目を忍ぶ様にやって来た駐屯兵から一通の手紙が渡された。
周りが察する通りにその凶相の所為で友人の少ないジョゼには親族以外に手紙等寄越す人物はおらず……見慣れぬ筆跡に、やや首を傾げながら差出人名を確認する。
「なんだ、不幸の手紙か?」
隣に居たジャンも訝しげにしながら最早冗談とも言えない様な言葉を投げ掛けた。
「やめてよ兄さん……。そんな恨まれる様な事してないよ……。私個人は。多分。」
「じゃなかったら爆弾だな。空けた瞬間どかんだ。ほら、どかーん」
「こんな薄い爆弾見た事無い…。爆弾だなんて最新鋭の兵器が何故私の元に……」
じゃれ合いながらも確認した差出人名に、ジョゼは…「ああ、」と小さく声をもらす。
「あの子か……」
ジョゼの呟きに、ジャンもまた差出人の事を思い出したのか複雑な表情をする。彼女といえば…想い人と妹という何とも頭が痛くなる組み合わせのカオスキスを真っ先に思い付くからだ。
丁寧に四つに畳まれた手紙を広げると、これもまた几帳面な文体で書かれた文字が目に入る。ジョゼとジャンは……ゆっくりとそれに視線を落とした。
『ジョゼ。お元気ですか。
調査兵団が大変な事になっていると聞いて、居ても立ってもいられずお手紙を書いています。
私が過ごす片田舎にも調査兵団の悪評は流れてくる程ですから、今の貴方が置かれている状況はきっととても辛いものでしょう。
――――貴方が調査兵団に入団したと聞いて、まず最初はとても驚いたのを覚えています。
それと同時に、やっぱりジョゼはすごいなあ、と心から、貴方の友人である事を誇りに思いました。
兵役に耐えきれず田舎に戻った私と違い、貴方はやっぱりとても優秀で、凄い人なのだと思います。
ジョゼ。この国は何だかおかしいです。少しでも王の批判を述べた人は、憲兵に連れられて二度と戻ってきません。調査兵団を悪く言う人も日増しに増えて行きます。
けれど、私はどんなに周りが貴方たちを貶めても、調査兵団を信じています。
だって、他でもない貴方がいるからです。
ジョゼが、あの時私の事を救ってくれた様に、きっと私たちを正しい方へ導いてくれると、信じています。
新聞で、街で。………貴方たちの噂を聞く度に、胸が痛みます。
そして、ジョゼにとても会いたくなります。きっと、あの時よりももっと格好良くて、素敵な女性になっているでしょう。
とてもとても会いたいです。だから、どうか無事でいて下さい。
―――――先週、うちの畑では杏の収穫が終りました。すごく美味しくて……ジョゼにも食べさせてあげたいな、と思いました。
確か、貴方は顔に似合わず甘いものが結構好きだったから。
来年の今の時期、食べに来ませんか。
……いいえ。来年じゃなくても良い。再来年でも再々来年でも、私は待ってます。
最後に、この手紙は燃やして捨てて下さい。私にも、死んだら悲しむ家族がいるのです。
どうか臆病な私を許して下さい。』
――――――ジョゼは、今一度手紙を読み返す。………何度も、何度も。一字一句、覚える様に。
「……ありがとう。」
そしてぽつりと呟いては、懐からマッチを取り出して火を着けると、手紙を近付ける。
あっという間にそれは薄い紙に燃え移り、めらめらと白い炎を上げていく。
その火を眺めながら、ジャンはそっとジョゼの肩を抱いた。止まらない涙を拭う事もしない妹を安心させる様に。
「ジョゼ………。良い友達、持ったな。」
兄の一言に、ジョゼはただ何度も何度も、無言のうちに頷いた。
まる様のリクエストより
知らない女の子を助けて一目ぼれされ、連日迫られるところを、ブチ切れの(?)ミカサにキスされて阻止される話で書かせて頂きました。
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