「おかえりなさい、マルコ。」
玄関口で迎えられた大小の似た顔を前に、マルコは「……へ?」と不思議そうな声を漏らすしか無かった。
「え、え…えー……。何でジョゼがここにいるの?」
「我が家にいちゃ駄目ですか」
「い、いやいや、そういう事じゃなくて、今日は帰れない筈じゃ……」
マルコは頬をかきながら呆然とエプロン姿のジョゼとそれにしがみついている息子を眺める。
………ごく日常の風景ではあるのだが、それが随分と懐かしく感じた。
「………父さん。」
マヤがジョゼにしがみついたままマルコの事を呼ぶ。マルコはうん?と返事をしながら息子の事を抱き上げた。
「プレゼント。」
マルコの腕の中でマヤはすっとジョゼの事を指差す。何の事かとジョゼは首を傾げた。
しばらくの間マルコも意味がよく分からず考え込むが、やがて何となくではあるが事の成り行きの予測がつき、盛大に溜め息を吐いた。
「…………お前って奴は本当に突然突飛な事をやらかすからな………」
全く誰に似たんだ、と零しながらも息子を抱き締める力を強くするマルコ。
そしてマヤの「嬉しい?」という問いに一回、深く深く頷いた。
「マルコ。」
脇からジョゼの声がする。その方を向くと、彼女は一歩こちらに歩を進めた後、マヤの頬にキスをひとつ、そしてマルコの唇にも同じものをひとつ落とした。
「お誕生日おめでとう。」
そっと顔が離れた時に囁かれた言葉に、マルコは自然と熱が顔に集まるのを感じる。
思わず口元に手を持って行きながら、小さな声で「ありがとう」と応えると、ジョゼもまた少々頬を染めながら目を伏せた。
「いやだな……。そんな風にされちゃうと私の方が恥ずかしい……」
恥じらうその仕草が可愛くて頭を撫でてやると腕の中から「僕も」という小さな声が。
その要望にも応えてやるとマヤは嬉しそうにマルコの首へと腕を回して来た。
大事な家族に囲まれながらふと、マルコは……ああ、こういうのが幸せっていうんだな…という事を誰に言われるでもなくしみじみと実感する。
それを自覚すると、何故だか涙が溢れそうになって、誤摩化す様に目を細めながら「二人共、大好き」と零した。
*
「……それで、リヴァイさんからお菓子と紅茶もらった」
「そっか……。じゃあ今日会ったらお礼言っておかなくちゃ。」
次の日の朝、マルコがダイニングへと向かうとそこからは明るい話し声が聞こえて来た。朝が弱いジョゼにしては珍しく、もうすっかり起きて台所仕事に精を出しているらしい。
「マヤもお手紙か何か書いてリヴァイさんにありがとうしなさい」
と言いながらマヤの頭を撫でてやっていたジョゼはマルコの存在に気付いた様で、小さく笑って「おはよう」と挨拶した。それに続いてマヤも無言で父親に向かってぺこりと一礼する。
「うん、おはよう」
そしてマルコもまたいつもの様ににこやかにしながらそれに返した。
「…………………。」
ふと、マヤはいつもの父親の姿の中に見慣れないものを発見する。……腰からポケットへと伸びる、銀の鎖。
そして……戸棚の方へと視線を移すと、そこには赤いリボンのかかった白い箱はもうなかった。
(……………………。)
昨日、夕飯を一緒に食べているときは、あった。寝る前に水を飲みに来たときも、まだあった。
(きっと………僕がねた後…………)
そこから先、愛する父と母の間で何があったのか、マヤにはよく想像がつかなかった。
ただ、きっと良い事があったのだろう。それは今朝の二人を取り巻く空気が柔らかな色をしている事から、五歳児のマヤにもよく、理解できた。
「……………?今日はいつにも増して静かだな。」
そう言いながらマルコがマヤの頭を軽く小突く。
「どこか具合が、よくない………?」
ジョゼが少々心配そうにしながらマヤへと近付いて来た。
両親の顔を交互にじっと眺めた後、マヤは「ううん、すごく………元気。」と呟いて、そっと微笑んだ。
藤乃様のリクエストより
息子が主人公を尋ねて調査兵団へと来る。そして調査兵団の面々に会うで書かせて頂きました。
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