いつか見る空 | ナノ
「……………?」


リヴァイは廊下の角に寄り添う様に立って、曲がった先の向こう側を伺っている妖しい人物を目前にして眼を細めた。



なんだこいつ。



いや………、その隠れる様な姿勢が妖しい事は勿論なのだが、調査兵団の公舎には不似合いな身体のサイズというか………年齢というか………というかその前に、



「どこから入りやがったこのクソガキ」



威圧する様に後ろから尋ねると、びくりと肩を震わせてこちらを振り返る少女………いや、服装的に少年か。



「………………。」



見つめ合う二人。少年が何かを言おうと口を開きかけるが、その前にリヴァイが彼と視線を合わせる様に屈んだ。



(…………何処かで見た事ある顔してんな……)



少しの間考え込む様にその鋭い形をした瞳をまざまざと覗き込むリヴァイ。………が、やがて考えるのが面倒になったのか、「………どういう事情か知らねえが、とりあえず説教だな」と零して少年をひょい、と小脇に抱えて歩き出した。


「……………!?」


突然の事に眼を見開く少年……もとい、マヤ。


「………お前軽いな……ちゃんと食ってんのか」


リヴァイはそんな事は気にせずにずんずんと歩を進めて行く。


「ガキとはいえ不法侵入は裁かれるべき罪だ。親の躾がなってない様だから俺がかわりに社会というものをみっちりと叩き込んでやる。」


「………………!!??」



マヤは初めて出会う親以外の脅威に身震いすると同時に状況に頭が全くついていけず、ただ大人しくリヴァイに抱えられて公舎の廊下を移動するしか無かった。







「リヴァイ兵長、失礼します。」


軽いノックの後、ジャンはリヴァイ兵長個人の執務室に足を踏み入れた。…………が、それ以上踏み出す事ができなかった。


リヴァイは入口付近で固まっているジャンを訝しげに見つめた後、自分の向かいのソファに腰掛けて先程与えたクッキーをポリ、と一口齧った少年へと視線を向ける。じっと見つめた後、もう一度ジャンの方に視線を戻した。


「………ああ。」


そして何かを納得した様に両手をぽん、と打ち合わせた。


「………そうか、お前等の弟か。年いってる割には中々元気な両親だな」


「何故そういう結論に!?」



ようやく正気を取り戻したジャンが上官の前という事をすっかり忘れて大声をあげる。マヤはそんな叔父の姿を眺めながらまたクッキーをひとつ、ぽり、と齧った。




「それ以外にどういう結論があるってんだ」


「いやそれは……年齢的にオレかジョゼの子供っていうのが普通ですよね?」


ジャンの応えに、リヴァイは眉間に皺を寄せて思考を巡らせている様だ。……少しした後、ゆっくりと口を開く。



「…………お前等が親とか………ねえよ。」


「断言!?」



あまりの事にジャンは持っていた書類を取り落としそうになった。




「…………おい、クソガキ。実際の所どうなんだ。お前はこいつの息子なのか?」


「…………この人は、おじさんです。」


「おじさんと言うんじゃねえって言ってんだろが!!!」


「そうだな。確かに年齢的に充分おじさんだな。」


「そう言う事じゃねえよ!!あんただってそれに輪をかけておじさんでしょうが「ああ!!??」「あっすみません」



リヴァイの恫喝に思わず畏まるジャン。マヤは大人って大変だなあ、と思いながらクッキーと共に薦められた紅茶を一口飲んだ。



「おいマヤ、一体どういう訳だ。きっちり分かる様に話せ、でないと痛くして怒るぞ」


事情が未だに飲み込めないジャンがマヤへ詰め寄る様に問う。マヤは少し考え込む様に天井を見つめた後、紅茶をもう一口啜った。



「………説教中に紅茶を飲むな。」


ジャンの言葉に、ハッとした様にマヤはカップをテーブルに置いた。それから至極真面目な顔をして手の内に残っていたクッキーを齧る。



「…………クッキーも食べるな。」


ジャンは段々とマヤのマイペースぶりに気が抜けて来て溜め息を吐いてしまった。………こいつ、ジョゼの小さい頃に本当にそっくりだ。



「今日、僕は「ちょっと待て。話が見えねえが、結局の所こいつは何なんだ。」


マヤがジャンの質問に答えようと口を開きかけた時、リヴァイが何処か苛立たしげに目の前の少年の事を指差した。


どうやら自分だけ蚊帳の外で話が進むのが気に食わなかったらしい。



「ああ、こいつはオレの甥っ子ですよ。つまり、ジョゼの子供。」


…………ジャンの言葉に、リヴァイは持っていたカップを落としそうになる。


そして眉間の皺を揉む様にしながらソファに沈み込んだ。



「…………話には聞いていたが、本当に存在したんだな。あいつの子供。」


「はあ。そんな都市伝説みたいに言わないでやって下さいよ。」



ジャンは何故かショックを受けた様にしているリヴァイを不思議そうに眺めながら零す。



「……そうか。ジョゼのガキか……。」



膝で頬杖をつきながらリヴァイが呟く。その視線は何処か穏やかな色をしていた。



「母さんの事を……知ってますか」


マヤもまたリヴァイの事を見つめ返しながら尋ねる。リヴァイはひとつ息を吐くと、腕を組んで「あいつは俺の部下だ」と端的に答えた。


「……要は俺はお前の親の上司。」


「母さんの……上司。」


「そうだ。そして当然社会的地位、収入、実力、全てがジョゼより俺の方が上。」


「そうなんですか…。すごいですね……」



「へ、兵長……」


五歳児相手に得意そうにするリヴァイに対してジャンは若干引いていた。



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